時間軸・一日前 九月十九日
ここは、学校か?それにしてはいつもより視点が高い。まるで上から見下ろしている様な…。
「おやおや、やっと目を覚ましましたね?このまま寝ていたらいい場面を見逃すとこでしたよ?」
(運が良かったですね~。一生目覚めない人もいるんですけど、ね)
「どうなってるんだ」喉まで出かかった言葉は、口を遮られたかのように出てくることはなかった。
「キャストの登場ですね」
廊下の両側から男子と女子が一人ずつ歩いてくる。何事もなければそののまますれ違うだけで終わってしまうような雰囲気があった。ただし俺は、どちらの顔も見覚えがあった。
少女が少年に掴みかかった。先ほどまでの平穏だった空気は少女の非難とも、憤怒とも、叫びともとれる声によって引き裂かれる。ただ俺はその内容がはっきりと頭に入ってはこない。まるでフィルターがかかってしまったように少女の言葉の雰囲気と熱量以外聞こえなかった。
不意に隣を覗き見ると、奴は聞こえているかのようにリアクションを取っていた。
「「お前のせいで…」なるほど「お前が家族を…」ふーん「……した」ですか通りすがりの少年になんてことを……酷い奴ですね~」
「お前は彼女の声が聞こえているのか?」
「ええ、ばっちりですよ。もしや貴方聞こえないんですか?そうなら私のミスですね~」
「彼女はなんて言ってるんだ!」
「要約しますと…お前が私の親を殺したんだ、お前が居なければ…という具合ですね。他にも罵声をいくつか浴びせていますが、これは『すとーりー』の進行上あまり関係はないですね」
この部分だけを切り取ると少女の親が殺されたことを少年のせいにしている可哀そうな少女と言いがかりを付けられた可哀そうな少年という構図になるのだろう。ここで終われば、だが。
「本当に少年がやったのか埒が明かないので少女の親が死んだという日まで戻ってみますかね」
「……」
装飾遺った巨大な扉を出した奴の後ろを大人しく付いて行く。俺はこれから何を見ることになるのだろうか。