自衛隊隊員視点
「隊長、万智は敵に尋問されてます」
そう言って腕の機械にある画面上のカメラアイモニターを示すのは 雪村 冷夏 だ。彼女は、《蝿型無人偵察機》を用いて、羽を纏った異形とオカマの姿を遠方から捉えていた。
しかし、通信距離と機材や電源の関係で情報を保存している《蝿型無人偵察機》を回収できる限界距離はからは遠すぎ、解像度を目一杯にチューンナップした愛機であっても詳細な姿形は捉えられず、状況を軽く推察する程度にしか使えない。
「《ハエ》で眠らせられるか?」
そんな中でも隊長は、僅かな情報から常に考え続ける。
早速、薬物投与を提案する。だが、それは決して名案とは言えない成功率の低い作戦だ。しかし―――
「御許可を頂ければ行動することは可能です」
彼女は、虫達の主は了解する。何故なら、それしか出来る事が無いからだ。
「ならば、先ずは先に男手だ。オカマの方に《無人偵察機》が気付かれたとは聞いていない。女には気付かれるか解らんからな」
「了解」
続いて、彼は無線機を積んでいる車両の運転手兼任通信士の男――― 羽咋 羽住 に視線を遣る。
「羽咋!本部と連絡は可能か!」
「イエス。御相手さんは通信妨害はしていないようです」
本部との報連相を命令する彼に、通信士の男は通信妨害が為されていない事を報告すると共に通信を開始する。
「ならば、本部に増援要請の後、情報共有化、万智達への通信の確認を済ませろ!次に、私が相手と直接に交渉を行う。第一小隊各隊員は常に警戒し相手を発見したならば報告!相手を射程に捉え続けろ!訓練弾以外の使用は不許可」
彼は、素早く成すべき事を伝え、更には通信機器への干渉を命令する。通信可能な状態であるという望みを確認する為だ。
「了解しました」
「各員!何か、言いたいことはあるか!」
更には、各隊員に報告を求める彼は良い上官だろう。
「隊長!本部との通信中に不明な通信が受信されました!」
透かさず、通信士の男が"不明な通信"を報告し、彼は暫しの間に思考し、決定を下す。
「よし、私が応対する。回線開け!」
彼は自ら対応すると返し、通信士の男が見詰める中でも焦らずに命令する。
「了解!回線開きました!」
通信士の男も即座に了解し行動に移す。彼らには、一分の無駄もなく、一分の余裕もない。
「此方は!自衛隊特選郡第一小隊長、オキムラソウジである。何者か、名を名乗れ!」
彼は切迫した状況であっても、マニュアル通りとも言えるが更に完璧な対応で高圧的とも、模範的とも受け取れる口調で誰某を発する。
「ハイハイ。私は、ローマン。ロマンとでも、呼んでくれ。送れ」
相手は、不馴れであるのかザラザラとした通信ノイズを響かせながらもマニュアルに則った手順でふざけた返事を返す。
「所属を明らかにせよ!送れ」
それにも怯まずに、彼は間髪容れずに所属の開示を推定誘拐犯に求める通信を送る。
「私は、キミタチの敵だよぉ?言うなれば、ヴィランかな?送れ」
やはりか、と面等な状況であること確信した彼は内心舌打ちを溢す。彼は、決してお人好しでもなければ仲間を誘拐されて憔悴していない訳でもない。ただ、精神力にてソレを抑え込んでいるだけに過ぎない。
「汝らには、日本国憲法に基づき人権が認められる。速やかに投降せよ。送れ」
「ワタシタチはニンゲンじゃないからねぇ、人権だなんてけったいなモノは全くもってイラナイなぁ。送れ」
彼は先ずは、発言に気を付けて人権の否定だけは回避する事を選択し、再び何度目かも解らない投降を勧告する。
「汝らがどう在ろうと汝らには人権が保障されている。 繰り返す、速やかに投降せよ。送れ」
「それは、出来ないね。何故って、今から取り返しの付かない事を仕出かすからね、送れ」
通信越しの相手側の傍に、仲間が居る可能性を考慮して彼は対応の手順をこれまでの説得から、交渉へと意識をシフトさせる。つまりは、バスジャックの如く長期戦の時間稼ぎだ。
「……声を聞かせろ。送れ」
彼は、まず仲間の安否を確認してから対応を定める事にする。もし、最悪の場合既に始末されているのなら、即座に撤退を開始する為に、だ。
「きゃはっ!そんなにも私の声が魅力的かな?送れ」
ソレに、相手は有利を確信している声色でふざけたことをぬかしている。その声は、何処と無く弾んでいるのにも関わらず重苦しい雰囲気を纏っている。
―――有り体に言って、狂喜に満ちていた。
「そうではない、仲間の声を聞かせよ。送れ」
だが、彼は自衛隊の中でも実践を是とする野戦指揮官の色が強い人物だ。SWATに配属されていた経歴もある為に、人質交渉は初めての経験ではなかった。
―――冷静さを失うことは、避けなければならないな。私の判断が彼女らの死に直接に繋がっているのだから。
彼は、努めて冷静で在ろうとしている。
まだ、彼は考え続けている。
「生憎と私の仲間は今此処にはいないんだよねぇ。私の足元に転がっている禿げ猿なら気絶してるよ?あと三十分もすれば出血がヤバイと思うよ?送れ」
相手は、通信の向こうに居る仲間を足蹴にして呻き声を上げさせているようだ。
彼は怒りを堪え、何とか声を荒らげずに交渉を続行する。彼は、まだ冷静だ。
―――この手の相手は、要求を呑ませる為に人質を用いるか、或いは自棄になっている者に大別される。が、この相手は前者だろうか。ならば………
「例え危害を加えた後だとしても、汝らは未だに傷害及び恐喝ないし脅迫の罪に問われるのみだ。今ならば、傷害致死罪や殺人罪ではない。牢屋の中ではあるが、快適な暮らしを提供できるぞ?送れ」
―――暗に特別待遇を匂わせれば、喰らい付いてくるだろうか?
「はハハッ。檻の中で飼われるのは二度と御免でね。それは、取引にはならないよ。死んだ方がマシってやつかな。送れ」
成る程、読めてきた。彼は少しだけ余裕を取り戻す。
彼は相手の要求を《自由》だと考える。
―――家畜が自由を望むのは、当然の事だろう。幸いにして、先の戦いの"竜人"程ではない。ならば、今は人命を優先するべきだろう。決まっている………
「ならば、司法取引を提案する。汝らの要求を述べよ。証人保護プログラム………君達に人権と相応しい環境、新たな戸籍を用意しよう。君達の望むままの条件を適応し、何も不自由の無い生活を約束しよう。送れ」
「ハハハ、焦らなくて良いよ?確りと止血と殺菌消毒を施して後は簡単な外科手術で後遺症は残らないから、安心してね?今のところはだけれどね!」
相手の挑発に、彼は少しだけ眉を顰める。だが、彼は冷静であり、そしてある程度は平静になっている。当然に、彼は安心を得ようとしている。大丈夫、上手く事は運ぶと確信しているのだ。
そして、実際にその目論みは成功する。但し―――
「ならば、要求を述べよ。送れ」
「ハイハイ。あ、そうそう。万智ちゃんに聞いたんだけどさ、コレ特定小型無線機?って言うらしいね。なんでも、自動で無線機同士の設定をコピーして、通信の録音が出来て、通信距離まで解るとか。送れ」
「聞こえなかったか。要求を述べよ。送れ」
「聞こえてるよ。良く聞こえてる。確りと通信距離内に捉えてるからねぇ、"二台が"」
相手に位置が特定されている、その状況を失念していた事を除けば、だ。
「………入ってるか?」
彼は直ぐ様に通信士の男に確認する。そして、果たしてそれは真実であった。
「バッチリ入ってます。遠くに在るようで、二台だけ通信が安定してません」
つまりは、射程外にて二方向から距離を測られており、位置を特定されている、ということに他ならない。彼は、初めて相手に、鶏人間なぞと言う珍妙な生物に戦慄する。
―――私達の持つソレは、高性能な特定小型無線機であるのだから、通信圏内に相手を捉えているか確認できる機能や特定任務にて通信を遮断する際に一度限りの通信を聞き逃さない為に距離は測れる、録音も可能な機種だ。
―――まさか、高性能が今回は仇になるとは。道具を扱う者が、こんなにも厄介だとは。やはり、逃がぬべきだろうか?今すぐにでも、殺す為に動くべきか?
「成る程、器用だな。トリアタマとは思えない記憶力と手羽先の器用さだ。送れ」
だが、それは出来ない。話しは、既に終えてしまっている。今更、内容変更などすればどのような事になるか皆目検討も付かない事になる。それは、最も恐ろしい事の様に彼には思えた。
―――駄目だな。完全に呑まれている。後は、成るように成るしかない。が、せめてこれ以上の被害の拡大だけは避けなければならないな。
彼は、相手の行動をある程度予測可能な現状を維持する事に決める。
「ははは、そんなに褒めないでよ。照れるじゃないかっ!送って」
相手は、どこまでも呑気にふざけたことを宣っている。
「さて、要求を教えてくれ。送れ」
「素直で大変結構!そうだね、ボクのコトを探さないで下さいってところかな。それだけで良いよ。送って」
―――せめて、これ以上我が国が不利になる事は無い様に、上手く誤魔化せれば御の字だろう。
もうひと踏ん張りと覚悟を決めた彼は、通信相手の要求に肩の力が抜ける想いで予想外の衝撃を受ける。
「それだけかね?本当に………?良いだろう、聞き届けよう。送れ」
―――この程度ならば、後でどうとでもなるだろう。私達が責任を持って相手を、仇を撃ち取れば良いだけだ。
「話が早くて助かるよ、隊長さん。キミタチはソコから通信圏外まで通信はそのままに退避してね。キミタチが離れたのを確認できたら、無線機はそれぞれの持ち主だったお仲間に返しておくよ。それじゃ、達者でね~。終了」
斯くして、自衛隊の未知との遭遇は局面を変える。
自衛隊は、たった二人の推定人間と、一匹の鶏人間が与えた損害に自衛隊は頭を抱えることになる。
なにせ、道具を扱える新たな知的生命体が山奥で独自の文化を築いているのだ。どのような備えがあるか、どのような技術があるか不明の圧倒的に身体能力の高い生命体が多数潜んでいる。
未知を理解しなければならないと、認識を改めることになるのだ。
「了解」
彼は、そっと通信機器を握り締めて、懐に戻す。
数分の後に通信圏外の五百メートルを越えて、彼らは仇を取り逃してしまうのであった。
あー!忙しい!忙しすぎて前書き書けない!
と、いう訳で、これだけでも
如何でしたでしょうか?
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よろしくお願いします!
ほらほら、遠慮なさらずに!
次回更新は明日、12/21(火)です。
前回のあとがきは12/22水曜日だったのに、こんなにも投稿するなんて私可笑しくなったのかな?
先に遅い日数を知らせて、次にそれより二日早く更新して、更にはまた早い日にちを予告する。
エタらなければ良いですね!マジで!
ではでは(^_^)/ サラダバー!!




