閑話 それは、楽しくないからだ
彼女は、伊吹 麗奈 は考える。
小さき頃に考えた。
『世界はなんてつまらないんだ』
彼女の心は厭世に満たされている。
つまらないのは、楽しくないからだ。
『自分は何てつまらないんだ』
麗奈は思う。
楽しくないのは、つまらないからだと。
そして、楽しくなくつまらないものを恐れるのはつまらないものが怖いからだと。
『何故、自分には得意なものがないんだろう』
彼女は何でもできてしまう。
何でもできてしまったのだ。他人が苦労するありとあらゆる事態に対して彼女は適合して彼女は才能を発揮した。
『なんでかな、私はこんなにもなんでもできてしまうのか』
自分にも何をやってもうまくいかない事が一つでもあったらいいのに。
友達に一度は笑われてみたい。
お前はなんて不器用なやつなんだって。
『なんで、わたしはできないことがないんだろう』
そして、大人に成るにつれて自らの住む世界の、その広さを知り、自分にはまだ、できないことが、多く残されていると、そう悟ったとしても。
『それがどうした』
――そんなものは何の慰めにもならない。
『確かに私はまだ何でもはできないかもしれない』
私にはまだ知らないことがたくさんあるんだろうし、現時点であらゆる事態を解決可能な能力など持ち合わせていなかった。
――ただそれだけの話だ、つまらないんだよ。
『だけどそれは、所詮は今だけの話だ』
――なんてつまらない、つまらなすぎる。
『私には生まれ持った才能がある』
――なんなんだ私は一体何なんだ。
『常人が時間をかけて習得する技術などほんの瞬きの間に習得してしまう』
――何故私はこんなにも自由なんだ。
『心が籠っていないなどと嘯く輩もいた』
――何故不自由を奪われなければならない。
『しかし心というのは 他人が勝手に他人を解った気になる程度のまがい物だ』
――私には不自由を得る自由すらないのか。
『そんなものは外面を取り繕えばどうとでもなってしまった』
――苦労の末に得られる栄光も、何もかも私には欠ている。
『何故、何故!私はこんなにもつまらないのだ!!』
――ほんの些細なことにつまずいて何もできなくなるあの人間たちが羨ましい!!
殺してしまいたいほど妬ましい!!!
『常人より遥かに長い時を生きる私にとっては、 もはや研鑽のみで到達できる技術などに意味はないのだろう』
――ならば、
『私にはもはや、才能という一点のみにおいて私を超える存在を見つけるしか希望はないのではないのだろうか』
私は知らなければいけない。
私が誰かに劣るということを……。
『嗚呼、漸く、漸く』
――私は知った。
『私は自分が目指すべき指標を捉えた』
――私は見た。
『あの力、私がいくら努力をしたところで得ることのできない圧倒的な力』
私は得た。
『なんと甘美なことだろうか』
――ならばあとは目指すだけのこと!
『生涯の友に私は漸く出会えたのだ』
魂が色付くのを感じる。
そして同時に、他の誰かの魂の輝きさえも見えてくる。
見かける才能の一つ一つは、私の普通に及ばないものである。
しかしそれらは確かにまばゆく輝いていて私の中には強い輝きがあるのを感じる。
なんと素晴らしい。
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彼女は、夏目 塁 は考える。
私は『恵まれている』と。
私は資産家の父の元に生まれ何不自由のない生活を営み、多くの文化に触れたくさんの興味を持ち、たくさんの楽しいことを見つけた。
私は恵まれ過ぎている。
誰も私のことに共感してくれなかった。
『被害者面をして近づいてきたくせに結局は私の、 私たち家族のカネ目当てだった』
誰も私のことに共感できなかったのだろう。
『本当に共感してくれようとしていたのかな。それさえも私には分からない』
適当に話を合わせてみて共感しているふりをしてみたこともある。
『どんなお菓子が美味しいかってさ、それは、共感じゃなくて好みを言い合ってるだけでしょ』
ただ虚しいだけだった。
『私はなぜこんなにも恵まれているんだろう』
友達と呼べる人に共感してほしいと伝えたことがある。
『なつめちゃんてさ、変わってるよね』
わからないと言われてしまった。
『あなただけは、私を、親友の私を理解してくれると思っていたのに』
|所詮友達ではなかった。
私の心を弄んだ。
嘘つきは嫌いだ。
私は自分が大嫌いだ。
『嗚呼、漸く、漸く』
私は一体、どれほどこの時を待望していただろうか。
『私は出会った、友達に』
私を見ようとしてくれている。
『今度は本物。本物の理解者だ』
私とほんの少しだけ似ている。
『きっとそうに違いない。いや、絶対にそうだ』
私をほんの少しだけだけれども理解している。
『あの寂しそうな瞳は誰にも分からない心を持っている』
彼女は孤独を知っている。
『私にさえ分からないような何かがある』
孤独な彼女は孤独な私を知らない。
『なんと甘美なことだろうか』
私が理解できない孤独があることがどんなに嬉しいことか!
『私は孤独ではなかった』
あなたがいるから!
『何故ならそう』
あなたが私の孤独を理解できていないから!
『誰にも理解してもらえない考えを持つ人間が、私以外にいたのだ』
互いを互いに理解できないというその一点において、私たちは共感できる!
『私は救われてしまった』
互いが互いの孤独にシンパシーを感じていることに、共感できてしまう!
『唯一の親友残して救われてしまったのだ』
彼女は救われているだろうか。
『ならば次は彼女が救われるべきだ』
私が彼女を救いたいから。
『自分は彼女を救わなければ』
彼女と笑い合う日々の為に。
さて一体、救うべき彼女とは誰のことなのでしょうね。
次回更新は明日、
12月12日の土曜日
を予定しております。
それでは次回をお楽しみに。




