麗奈のスペック
遅くなりまして申し訳ございませんでした。
今回はそのぶん少しだけ長めとなっております。
最後までお楽しみいただければ幸いです。
なんやかんやとありつつも、この高身長美少女であるところの親友へと約束を取り付けた。
壁面には白くつるつるとした磁器素材の一般的なテーブルナイフが突き立ち、部屋には固結びされた もはや原型が何であった火災分からないものが転がっている。
それとこれというのもこの化け物級のスペックを誇る親友と、そしてそれを凌ぐレベルの身体能力を持つ私自身によって引き起こされた惨事だ。
この親友は生まれながらの超優良遺伝子持ち。
只一度も致命的に不必要な進化をせずに連綿と受け継がれてきた遺伝子の隔世遺伝により、大体の人間に備わっている生物学的な弱点を克服している。
例えば現代に残る人間種とは進化の過程で視神経の向きが逆になっており視界には盲点と呼ばれる穴ができるが、この親友はもちろんそんなことはなく盲点という部分が存在しない。まあどこか抜けているのでうっかりするという意味での盲点というのはあるのだが。
他にも体内でほぼすべての栄養素を合成可能で、 果物を摂取しなくても壊血病にもならない。
他にも、私の強力無比な剛力で投じられた凶器を避けきったのには理由がありおそらくはいつも通りに脳の領域をフルで使用しその容量を適切に振り分けたのだろう。
恐らく今はその反動で強い酩酊感…脳組織の酷使により睡眠状態に近い状態に陥るためアルコールに似た物質が分泌される…或いはどこかの毛細血管が弾け血を流しているくらいの反動はあるだろう。
まあこれでもフルスペックでないというのだから恐ろしい。だからといって譲るつもりはないが。
――翌日
すっ、と閉じられた眼を見開き目を見開いた少女
―麗奈―が再び荒廃とした世界に降り立つ。
「あらぁん、おはよぅ?昨日は良く眠れたかしら」
「うぇっ、なにその声」
無駄に艶のある声が野太いオカマ口調の巨漢から発せられ、気持ち悪げに身を引く。
その声の主こそは、彼女の親友である処の少女、塁である。
「昨夜は徹夜しちゃってねぇ、知り合いと情報交換していたら眠る時間が遅くなっちゃったのよ」
「あーそれで。あれ?いつもは適当に間食挟むから大丈夫なんじゃないの?」
親友は驚異的な筋密度とそれに耐える強靭な骨の影響で途轍もなくカロリーを必要とする。眠る時間が少し遅くなるとその分のカロリーを賄いきれずに食事を必要とするが、普段は一食に2キログラムの食事を摂り脂肪を蓄えている。そして私の様に果実などのビタミン等々必要とするモノも多い。ので、間食で青果を齧ったりしている。だから、何時もは少し位の間なら大丈夫。それこそ、塁ちゃんだから情報交換にもあまり時間を掛けなかった筈だ。
ネタバレは避ける性格だから。
「……別に、昨日はたまたま食べなかっただけ」
「あー……そう」
「……あんまり無理しないでね?」
「うん」
女の子だからね。
「さて!と、ロマンは何処?」
「んー、鶏だし早起きなんじゃないかしらぁ?」
「決まった時間に起きるのはありそうだね。
――探しに行く?」
「あ、待って。先に寝床を漁りに行こう」
「昨日の分では足りないのかしら?」
「うん、それもあるけど、別にね」
「さ、行こう」
「そこまで抜け落ちてないわねぇ?」
「それだけ羽が丈夫なのよ。太いしね」
「でも、大きさは中々に大きいよね」
「大きければ良いってものでもないけど」
「ん?」
「あらぁん、御早うかしらぁ?ロ・マ・ン」
「おう、起きてたか。御早う、ヒメ、ウォンド」
ヒメハナバチが挨拶すると当然にローマンも挨拶を返してくる。が、しかし姫とは?ひめ、ヒメ……ああ!つまり――
「ヒメ?ああ、ヒメハナバチのことね」
「あぁ。……あー、戻した方が良いか?」
ローマンは少しだけ気落ちしたように頬を搔く。
「いえ~、ヒ・メ。とっても素敵じゃなぁ~い」
「おお、そうか。じゃぁ、今からはヒメだな!」
しかし、それを読み取ってフォローしたか、偶然かヒメハナバチが直ぐ様にこれを受け入れる。
その嬉しげな様子に、ロマンも少しだけ嬉しげに声を挙げる。
「ふふっ、そうねぇ。ウォンドもヒメと呼んでね」
「えー、まぁ。良いよ」
「そうなると、ウォンドにも愛称がいるか」
「ええ!良い考えね。ウォンドは希望はある?」
「んー、昔呼ばれてたヤツなら」
「へー、どんなのかしら。私は覚えはないけれど」
「だろうねぇ、言ったことないし」
「あなたの事だから自然と解りそうなものだけど」
「軍大学時代のヤツだし、あまり可愛くもないし」
「まぁ、一回は俺様に聞かせてみろって!な?」
「……ロゥ。元のヤツは教えない」
「いいじゃねぇか、ロゥ。良い響きだ」
「あらあら、可愛いじゃない。ロゥ!」
「これは決まりだな!いやー、可愛い愛称だ」
「一応私はウォンドなんだけど?」
「「呼びにくいから却下(かしらね~)」」
「あっそ」
まったく、あのちょっとエモーショナルな命名は何だったのか。ホントにコイツ……。
はぁ、諦めよ
「おし、それじゃあ飯にするか!」
「えっと、いいの?」
私としては多少の断食も覚悟してたし貰えるなら貰っておきたいけど。
「ああ!俺様に掛かっちゃあ、狩りなんざ文字通りに朝飯前よ!」
「へー、獲物はなに?鹿?栗鼠?兎?」
「今日は栗鼠だな。ここいら辺りには昔から人間が住んでたみたいなんだわ、だからか鹿は絶対に寄り付かねえ。だが、栗鼠は別だ。体駆が小せえから、平均体温が低くなりやすいだろ?」
うん。それはそうだ、鹿と違い体積の小さい栗鼠は中心温度が冷えやすい。冬の季節に雪を駆け回る事はしないだろう。
「だから木の幹や樹上とで、外敵から身を守りつつ暖をとる冬籠りをする動物だからな。保存性の高い食料がある場所から離れることはほとんどない」
「松の木の実がよく挙げられるわよねぇ」
どんぐり、とかいう木の実だっただろうか。
いや、松毬だったかもしれない。何か本で知った。
子供向けのマニアックな図鑑という、意味の解らない著作物があったっけなぁ。
「となると巨大な群れが外部に流出しない様に適度に露を払って、元の群れの外側に進出してきた余りを頂けば良いのさ」
「群れの維持って、松木の管理かしら?」
確か栗鼠は巣ごもりする時に好んで溜め込む食物が腐りにくい胡桃や松毬だったかしらぁ。
「あー、そうだな。松の木の分布を意図的にな」
「それともう一つ気になるんだけど昔人間が住んでたって、本当に?だとして、貴方は何時から此処へ居着いているのかな?教えて欲しいわね」
前の時は身を引いた。
けど聞いてみたいし、それに……
「なんだぁ、聞いちまうのかよ」
「貴方を疑うのではない。けれど、それを知る事は私達にとって大きな指標になる。黒幕が何れだけ、周到な準備を済ませているかを知るのはね」
今のところ、この奇妙な友人だけがこの世界で塁ちゃん以外に信用できる善人(人か?)だ。
機嫌を損ねないように弁明はしっかりと、ね。
「そうか。俺様達を疑ってる、それはねぇんだな」
「そう。ほら、早く。教えてくれる?」
「へいへい、俺様達が意識が明瞭になってか此処へ降ろされたのは話したな?」
これも前回の時に話していた。此処で生活を開始する前までは意識がまだ明確ではなかったらしい。
その中でもロマンだけが意識の明瞭化も早く知能も高い、という話だったはず。
「そうだ。実は、俺様達が此処に来て結構長い」
「当たり前だろ。生活知識やその他の僅な記憶以外には何にも知らなかったんだぜ?その俺様達が何故か人間を知ってる。……解るか?」
ふむ。何処からか怪電波でも受信していない限り新しく知識を得る方法は只一つ。とすると――
「――つまりは貴方達が此処へ住み着いている間に人間を学習していた、と。それで人間の言葉を話せるのかな?とても信じられないけど?」
「それは元から知ってたさ。だから、俺様達の作者は人間との接触を端から皮算用したんだろうよ」
考えるにそうだろうなぁ。
それにしても皮算用って、何?いや、言いたい事は解るけどさ。
「ふーん。それで、何時から住んでたの?人間との接触は私達が最初なのかな」
「ああ、あの頃はあんまし記憶が確かじゃねぇが、大体九ヶ月前位だ。それと解る人間とのハッキリとした記憶はロゥ、アンタが最初だ。いや、どっちかと言うとヒメの方が先だったか?」
そこはどうでも良いんじゃないかしらぁ。
「成る程ねぇ。察するに、黒幕が執った作戦は貴方達の様な人形を各地に撒くこと」
「それに、貴方達の生存を考えてはいないでしょうねぇ~、その黒幕は。だって、大事な手駒なら庇護するのが支配者よ。……運良く生き延びた貴方達が人間との接触を試みる、或いは偶然にしろ故意にしろ人間との接触を起す事が作戦の一部と考えて良いわねぇ」
なんとも気の長い話に思えるけど。
実際、どうなんだろう?
「類察する限りは黒幕はテロリスト・マッドサイエンティスト・頭のオカシイ宗教家、それから愉快犯・快楽殺人者・精神疾患持ち・思想家辺りかな」
「首都圏であの騒ぎがあった以上は政府への関りは薄いでしょうし、誰かが人為的に持ち込まなければアレは起こらない。真っ先に只うっかりが起こした事件とは考えられないわよね」
「もし、ただの事故だって言うなら考えるだけ無駄だし。考えた事が無駄になるだけだからその可能性を排除しようか」
さあ、まだまだ聞きたいことは山程あるからね。
まだまだ質問に答えて貰うよ、ロ・マ・ン?
次回は質問を終えた後あたりから始めたいと思いますので、ロマンからの聞き取り調査を終えた二人はいよいよ街へと進出していきます。
次回今社員は今週土曜日になる予定です。




