汝、違えし人よ。 汝に論理の祝福あり。
今回は約四千文字と少々長めの話となっておりますが、元々は簡潔に纏めた三千文字程度の文章だったものが色々な想像のにより少しずつ書いていたものが一度全て消えてしまい柿の種する羽目になってしまい、完全ではなくともこれを再現するのに多少手間取ってしまったのもありお詫びの気持ちも込めて少々長めとなっております。
あまり長い文章を読むのが苦手という方はすいません。
??/??/21:27
姉貴の 椅子が 運命 薄
「『存在希釈』影響下にあるのは全人類の約99,97%、残りは約百二十人程度」
薄暗い部屋の中に独りの男児が居た。
「計画は至って順調そのものと言える」
その男児はモニターを見詰めて何かしらに聞かせるように独り言を呟く。
「復原交配種の稼働も十分なデータがある。回帰も僕の掌にあり、つい先ほど反証実験を済ませ、結果は失敗。奴が提起する427の問題点、その全ては僕の理論を否定することはできなかった」
あり得ないと分かりつつも、何故か否定出来なかった憑き纏う影を漸く振り払いあまりにも澄み渡る歓喜と愉悦の感情に包まれる。
「僕の障害となるのはもはやあの女だけだよね」
大した問題でもないという風に男児は誰ともなしに聞かせるように呟く。
「忘却も僕の計画には不要ではあれど邪魔なだけで障害という程でもない」
歯牙にも掛けぬとばかりに男児は嘲笑する。
「『観測領域』によるデータ収集も順調そのもの。
んー、理想は近い。やはり僕は最優、天才さ」
「おや、もうこんな時間か」
悟りから帰還した男児は壁に掛けられた真新しい装いに文字盤の時計の短針と長針が丁度重なる瞬間を捉える。
「僕の頭脳は少しも無駄にできないからね」
僅かに残る愉悦を誤魔化すように自己肯定を発し男児は席から立上がり退室せんとする。
「さて、僕の為に頑張れよ」
しかし何を思ったか振り返ると、今は其所に無いナニカへと聞かせるように独り言を呟く。
「お前の役割は橋渡し、世界平和への近道さ」
そうあることが当然かのように役割を与える。
「全てを一つに、統一し、僕に捧げろ」
其が貴様なのだと知識をひけらかす幼児の如く。
――『I.H.F Stallion』?
そして男児は踵を返し、薄暗い室内は役割を成す機械の駆動音と共に一時の安寧に包まれた。
とある邸宅 六十七階
『ビーッ』
「ん?」
整理の行き届いた室内にて机に脚を掛け空の銀色の液状保存食のケースを椅子代わりにし、今時貴重なオーガニック珈琲豆を手動でゴリゴリと挽く女。
それが、振動に反応しモニターを見やる。
「おや?ほほ~」
女は何かしらに関心を寄せ不満げながら愉しそうに目を細める。
「やっと腰を上げたか、メインキャラクター共は」
呆れた眼差しをモニターにやり、女は嗤う。
「家畜共は動いているな?ふむ?」
鶏だの蛇だのフラミンゴだの、そんなケダモノが中途半端に人間に化けたような物の怪をモニター越しに肉眼で確認する。
「成る程、当初の予定とは細かなところで相違点があるが、些細なものと判断したか」
続いて女は何かしらに納得の感情を見せると、
肩を竦めて見せる。
「怠慢野郎はのんきなもんだが」
何も期待していないとばかりに無感動に呟き、
雑多に並んだ幾つものモニターを確認する。
「ん?ほー!なんだコイツは!」
そんな感情から一転して 強い興奮を覚えたような大きな声を発するその女、そしてその声に反応し尋ねる一人の大柄な男。
「どうした?姉貴」
その設問に女が強い興奮の渦から僅かばかり引き戻され、自らを姉と呼ぶその男に視線を向ける。
その間、手元では何かしらの四角い鍵盤の並んだ板を叩きつけている。
「ん?おお、我が弟よ。いやなに、興味深いプレイヤーを見つけてな?」
自らの興奮の理由をその男…弟…に話す女は、
初めて見るものへの興奮を抑えきれない子供の様に目を輝かせている。 その表情に男は疑問と僅かな妬み、そして純粋な興味の混じった複雑な感情を 器用にその表情に浮かべる。
「……そうか」
「お?何だ、この美人な姉貴が関心を寄せる奴に嫉妬しているのか?」
女は珍しいものを見たとばかりに男をからかい、 男はそれにわずかばかり気恥ずかしそうにしながらも揺らがない否定の意思と共に悪態をつく。
「チッ そういうんじゃねぇ」
舌打ちをついた男に対し女は少しばかり悲しげな表情を浮かべた。
「舌打ち……なんて柄の悪い。昔はあんなにも――」
過去を振り返りまるで親戚のように昔のことを繰り返すその女は悲しみを称えた表情と笑った目で、
男をちらりと見やる。
「もっとさぁ、この美人な姉貴に何か無いのか?
全く、私の事をどう思っているんだ?」
これ以上ないくらい最高な自分がどれだけ素晴らしい姉であり、そんな姉の自慢の弟であるところの 男に対して不満の声を上げる。未だに、その目は笑っていた。
――それはまるで素直でない弟を仕方なしに興味を抑えるように。
「勿論、世界中で一番の最高の姉だか?それとこれとは話が別だろ」
素直な称賛と共に告げられた、男の主導権を奪う反論に―主に手前側に対して―面食らったように呆けた表情を晒す女は、嬉しそうな表情を浮かべそれを隠すようにおどけてみせる。
「おぉう、プレッシャー」
そんな愉快なあの姉を見やり、男は話を戻した。
「で?ソイツらか」
姉の隣に並び立ちモニターを覗き込む男。
「ほー、悪かねぇな?」
僅かばかりの興味と関心を覚えるような声を上げた男は姉に意見を問いかけるような声色で話した。
「ツレもそこそこ優秀。おまけに広い世界で出逢う運命力も持ってやがる」
続いてその視線はその女の横に着く一人の大柄な男に向いており、その特徴的な容姿や言動には目もくれずにしきりに行動ログのダイジェストを見て、 対等には程遠いものの及第点と言える能力を持つそれに対し一応は高い評価をつける。
「だが、シナリオが破綻しやしないか?」
しかしそれはそれとして当初は予定されなかったユニークな人材につき姉に対し不安要素を提示し、 余裕がある態度でありながらも問題点を洗う。
「大丈夫だ、世界一の弟の世界一の姉貴の作ったゲームだぞ?たかが数千人で何かを変えられる程に、私の作ったゲームは単純じゃない」
女はさらりと、軽々しくも聞こえる口調であるにも関わらず、何故か威厳を感じさせ覇気の籠った強い言葉で断言する。
「それとも、信頼できないかい?弟よ」
一欠片の不安とて微塵も感じさせないその余りに意味のない問いに、強い信頼を含んだ声色で、男は断言する。
「いいや。姉貴の言葉だ、問題はねぇな」
家族思いのこの姉が弟である自らに嘘をつく、
その様な御互いに傷つく行為の全てを良しとしない事ぐらいわかりきっている。
生粋のダメ人間であるところの兄弟だ、そんな所は大方知っていて自らも兄弟をも大きく傷つける。
築き上げた信頼に泥を取ることを良しとしないのは当たり前であり、互いに付き合っているからこそそんなことはあり得ない。
最高の兄弟の兄弟であるところの自分の名誉に泥をつけることも、兄弟の名誉や身内に泥をつけることも許されない。
「なんだかんだ言いつつ、この美人で最高の姉貴を慕ってくれているようで嬉しいよ。姉冥利に尽きるというものさ」
女はそうあることへの自負とともに、この良き日への感謝を兄弟に捧げる。
「はっ、俺が信じらんなきゃぁ、誰が姉貴のことを信じられんだよ?」
男は暗に自身こそが貴女を最も信頼する者だと告げる。
「ははっ、違いない」
女は、常に感じられるものよりもより強固な絆の結びつきに幸福を憶えながら、いつも通りの調子でおどけてみせる。
「じゃあ俺も昼寝もしたし、飯食ってくらぁ」
男は話の区切りに湿った空気を感じ、なんとはなしに気恥ずかしくなり食事のためと建前のを述べてその場を辞する。
「おー、いってらー。 あーそうだ、ついでに例の増設サーバー運んどいてくれ」
女はそれを見送ると共に男へ用事を申し付ける。
「あー?あれか。 おー、飯食う前に運んどく」
その言葉に少し考えた男だったがすぐにその用事に思い当たり快諾する。
「おっ、流石優しい男。略して優男」
そんな優しい弟に対して、女はどこからともなく 拾ってきた電子コンピューターが主に普及し、量子コンピュータを開発していた時代の遺産であろうと考えられるその巨大なサーバーの内に格納されていたスラングと呼ばれていたであろう言葉を用いその優しさを例える。
「……またwekapediaか?」
そんな女に対して男は、またかと言わんばかりに呆れ、ウンザリとしたような表情を浮かべている。
「そっ。因みに優男にはヤサオとヤサオトコ、
二つの意味があって、ヤサオは優しい、ヤサオトコはヒョロっちぃって意味らしい」
女はそんなことは日常茶飯時であるため特に気にもせずに掛けた言葉に対して正確な補足を行う。
「つくづく俺には似合わん言葉だな」
男はぴくりと肩を動かしすぐにそれを引かせると共に、自嘲するような雰囲気をまといつつもどこか嬉しげな表情を浮かべつつもやんわりと否定する。
「またまた~、照れちゃって~」
それに対して女はからかうような言葉を投げかけ茶化す。
「はっ」
男は吹き飛ばすように鼻で笑いその場を去る。
そして残った部屋にいて女は、すっとそれまでの どこかふてぶてしく余裕のある、しかし感情的である表情を引き……
「カーッ、うちの弟マジ天使!神様に成りたい!」
……それまでの余裕綽々とした表情が嘘かのように限界とばかりに早口で捲し立てる。
「えっ、なに?誘ってる?ラグナログしちゃう?
二人で楽園に昇っちゃう!?」
などと意味不明な事を宣い、まるで世界には自身一人しかいないと言わんばかりに、それしか見えていないと言わんばかりに鼻息荒く大声を挙げる。
「ストーリーとかどうでもいいわぁ!」
こんな佳き日にそんな どうでも良く尚且つ面倒なことなど考えたくないと言わんばかりに投げ槍な態度をとる女は、 しかし何を思い出したか表情をさっと理知の光を宿した常識人のものへと変える。
「いやでもああ言った手前があるからなぁ……?」
面倒なことを引き受けたが、弟と啖呵を切った為に簡単には辞める訳にもいかない。
そう考えた女はモニターへと向き直り、何かしらの操作を始める。
「取り敢えず、調整と加速度変更、フラグ解放、
アクター共を全開に。これだけはするとして」
無駄にリソースを食う処理をすべて開放し、
本来全自動で管理されるだけでも十分なそれを手動での確認へと切り替える。
「んー、まぁ、いっか!」
そして女はとあるひとつの項目で躊躇するように一旦手元を止める。が、それもほんの僅かの事で、 すぐさま作業を再開する。
「そっちのが面白い、何よりどうでもいい事だし」
どうせならばという享楽的な感情を露にしながら しかし一方では興味なさげに独り言を発する。
そして一つの画面へと目を向け、そこに映し出されるものへと予想通りの事象に大きな情動もなく、其に納得とも失望とも判別が付かない表情を浮かべ 挽きたての自家製コーヒーへと手を伸ばし啜る。
「んー、やっぱ居るとこには居るんだなぁ」
そんな呟きを最後に女は口を閉じ黙々と作業を続けその作業が終わったのは次の日の午前二時ほど。
照明ノートされたモニターの明かりに照らされる薄暗い部屋には、椅子の背もたれへと背を預け深い眠りへと落ちた女をそっと丁寧に抱え寝台へと運ぶ 大柄な男の影が残るばかりとなったという。
いかがでしたでしょうか少しでも良かったもっと見たいと思えたら、
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