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緊急事態 

 私が誠一郎さんの家に厄介になってから、早いものでもう10日経ちました。

 今は3人で朝食を食べています。とは言ってもレトルトご飯にふりかけとなめ茸をかけただけですが。あとは熱い紅茶とビタミンのサプリ。

 すごいですよね。誠一郎さん。朝から官能小説読んだり詰将棋したりヘッタクソな絵を描いたりと、世の中がこんなことになってるのに、信じられないくらい優雅で気楽な生活を送っておられる。


「えぇっ!?」


 そして、もっと気楽な生活を送ってるのが今驚愕したこの人。来栖かなめさん。


「え、お菓子もうないの?」


 かなめさんはそう言って、粗末な飯なのに無駄に高級な漆塗りの箸をカタカタ振るわせて、誠一郎さんがボソリと呟いた言葉を復唱した。私も誠一郎さんの顔を見る。


「その、えーとだね。ここ連日夜中に僕をほったらかして女子会をやってる方達がいるようでして、ついに枯渇しました」


「う、嘘でしょ? いつだったかお菓子を溜め込んでる家のお菓子を根こそぎ持っていったのあったじゃん」


「食いすぎなんだよ星子もかなちゃんも。まぁ最近痩せ気味だったから、少し肉ついたようでよかったじゃないか。すごいなー2人とも僕の分を残しとく気なんか皆無なんだね」


「うっ……」


「……」


 夜中に私の部屋に両脇いっぱいにパイの実やら板チョコやらドリトスやら抱えて来るから、私もつい誘惑に負けて食べてしまった。外では3食まともに食べるのも困難だったから甘いものなんか食べれなかった。故にその誘惑は凄まじい。


「良かったねぇ。太れて」


「張り倒しますよ」


 誠一郎さんが私に恨みがましくニヤニヤ言うが、それなら取り分を決めるとまでは言わなくても自分のを最初から選り分けてればいいのに。3人しかいないからって油断は禁物ですよ。


「まぁ砂糖はあるからスプーンに乗せて下からライターで炙ればべっこう飴は作れるよ」


「最悪だ……ドライフルーツも?」


「はい」


 想像してみたらヤクをキメてる構図ですねそれ。


「まだ酒はたくさんあるから次は酒盛りしたらいいんでないと言いたいけど、かなちゃんは酔うと見境なくなるから星子の貞操が危ない」


「いや単純に酒苦手なんだけど。ビールは苦いしワインは酸っぱいしウイスキーは薬臭いし」


「まぁこのご時世で言うのもなんですが私未成年なので、いや2人もか」


「というか食糧そのものの不足も深刻なんだな。最近は漁った食糧もとうに腐ってて、インスタントラーメンもどこの家庭でもあるわけでもないし、数もあんまりないしね」


「大分下の階まで行ってるしね……というかあのロブスターが私達が知らない内に下で遊んでたしね」


 あの化け物ロブスター、下で大分ふざけてたようでいくつも部屋の家具を損壊させて、冷蔵庫や食器棚を壊して中の食糧をダメにさせていた。

 しかしこの2人、あんなんの存在に何故気づかなかったのか。ザルすぎる。夜中にいかがわしいことして起きてたなら気づくべきでは。

 ただ何故か誠一郎さんには懐いているから、部屋を漁る時についてきて露払いとかしてくれる。誠一郎さんもなんだかんだで気に入ってるのか雨が降ったら雨水をためてたわしでたまに身体を磨いてあげている。

 私は前に下に本を忘れて取りに行ったら、床の穴から女の子の死体をゴリゴリ音を立てて肋を噛み砕きハラワタを貪るロブスターを階下に見てから、トラウマで近づきたくないです。


「どうしよっかなー100均のスイートコーンと大豆とラディッシュの種は見つけたから家庭菜園でもやってみるのはいいけど、とても3人で食い繋げる量になるとは思えないし」


「本だのパズルだのは無駄に増えて、食べ物や飲み物はどんどん減ってるね。さて、これはどうしましょうか」


 2人はごはんをかき込みながら唸って知恵を出し合っていたけど、ヘンゼルとグレーテルの魔女の家みたいにこのマンションがお菓子でできていたならともかく食糧がそんな簡単に出てくるはずもない。


「いっそ人肉食うか」


 とんでもないこと言い出したぞこの人。


「いやそれは最後の手段でしょ」


 一応手段の内に入ってるのか……。というか2人とも一番手っ取り早く済む解決法があるの忘れてるのか?


「かなめさんって免許持ってましたよね?」


「うん?」


「それ乗って近くのスーパー行ってマッハで帰ってくればいいんじゃないですか?」

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