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1ミリも嬉しくない好意 2

今回で1話目から考えていたネタが尽きました。

次回更新は未定ですが、同時にやっている生物兵器を拾うの方もよろしくお願いします。

「私って破滅願望があって」


「ファッ!?」


 初っ端からすごいカミングアウトしてくるなコイツ。話についていけるか早くも不安になってきたぞ。


「誠一郎さんって地方とはいえ銀行グループの御曹司で兄弟もいないですし、まず将来は保証されてますよね。それに半グレと関わりがあるわけでも賭博やら麻薬にハマってるわけでもない。素行も至って普通だから勘当される可能性も薄いですよね」


「まぁそうだな。何? 君ってドメスティックバイオレンスをしてくるような野郎と付き合いたいの?」


「いや、暴力は嫌ですよ? ただ、いや破滅願望とも考えてみたら少し違うのかな。何というか刺激的な日々がいいっていうか支えがいのある人と付き合いたいというか。甘えるより甘えられたいというか」


 そう言われたら分からんでもない。つまり信頼されたい愛されたいということか。


「私って親から誠一郎さんと結婚しろって言われて、最初は悪くないかなって思ったんですよ。貧弱そうだし、ただこの人がいくら無能でも周りのブレーンが補佐するから私いても大して意味ないんだろうなと」


「……」


 かなめといい言葉の節々に僕の罵倒を含ませるのは一体全体何なんだ? ぶっ飛ばされたいならぶっ飛ばされたいと素直に言ったらどうですか。


「お母さんがそうなんですよ。元々地主の娘な上に家には家政婦や料理人がいるから家事なんかほとんどしないんです。それでいて私には厳しくするし。母さん嫌いじゃないですけど、この人ってある日消えても悲しまれこそすれ困ることはないだろうなって中学生の頃に思いましたね」


「それが嫌なんだ」


「はい、だから私はそうなりたくなくて誠一郎さんの結婚を嫌がったんです。いくら将来安泰だからって必要とされないし居なくても困らないと思われるなんて嫌じゃないですか?」


 別に僕は星子と結婚してても無下にはしなかったと思うぞ。いやいやらしい意味だけじゃなくて。


「じゃあ何で今になって危ない目に遭いながらも僕のとこに来たんだ?」


「そりゃ日本がこんな風になった以上銀行業なんて何の役にも立たなくなったから、誠一郎さんがボンボンからボンクラに成り下がったからですけど」


「……あ?」


「金持ちが零落してただの世間知らずとなり、それでいて贅沢は知ってしまってるから生活の質は落とせずどんどん落ちぶれて惨めになっていく。もう私の大好物ですね。そうした誠一郎さんを私が献身的に支えていき、いつしか誠一郎さんは私なしでは生きていられなくなるのです」


 星子は言いながらうんうんと満足気に頷いた。コイツの中で僕そんな扱いなのか。しばくぞ。かわいそうによほど愛に飢えているんだな。


「と思ったら何ですかあの女は。どこぞの行きずりの女と毎晩イチャイチャしているような人間だとは思いませんでしたよ。何で家にあげちゃうんですかね」


「それはすいませんね」


 だって見捨てるのも後味悪いし。求められたら断るのも辛いじゃん。男なのでね。


「はぁ〜まぁこういう意志の弱い人の方が私も支えがいがあるのかな……」


 なるほど、かなめは僕の家柄を。この子は僕の境遇と偏見に塗れている僕の性格に恋しているのか。キレそうになってきたな。僕のようなぐう聖は他にいないというのに。


「まぁだからって誰でもいいわけじゃないんですよ? ラーメンのスープに浮いてる油程度には容姿も好きですよ」


「具ですらないのか。せめてナルトくらいの価値は欲しいな」


「やっぱり腕にタトゥー入れて週4で日サロ行ってる反社っぽい見た目じゃないと、なんかイマイチ燃えないんですよね」


「やっぱり破滅願望あるじゃないか」


 僕は嘆息した。家柄でなく僕自身を好いてくれる人と交際したいとは言ったけど、こうも誤解されると萎える。あと星子の嗜好が単純に理解できない。

 クソッ。まともな人間がみんなヤツらになって残ったのは異常者だけとは何の冗談だ。どこかにいないのか? 僕のようなまともな人間は。


「そーいや、最初来た時って何であんなビキニみたいな陸上部のユニフォーム着てたんだ?」


「ああ、途中で4日くらい風呂入ってないのが流石に耐えられなかったから、公園のトイレで身体だけでもとタオルで拭ってた矢先、隣の便所にヤツがいて襲ってきたんで服置いてカバンだけ持って逃げてきたんです」


「で、カバンにあったそれだけ着たと……」


 てことは。


「あ、今途中まで全裸で街中走り回ってたのかと思ったでしょ? 残念ながら下着は付けてましたよ。死ぬほど寒いけどお金ないから服を無断で持ち出すのも気が引けましたし」


 そう言ってクスクス笑って僕の胸に顔を擦り付けてきた。かなめは普通に奪ってきたらしいけどな。これが育ちの差か。


「ん?」


 すると、唐突に足音がしたかと思ったらいきなり背中の方ににかなめが潜り込んできた。狭い。


「ど、どうしたの?」


「うとうとしてたらいつのまにホッシーが消えてたからやっぱりここいたんだ。私もう1人じゃ怖くて寝れないんだから勘弁してよ」


「あっそグホッ」


 そう言って僕の上に覆い被さってきた。なるほど。下は僕の体温上は毛布で徹底した防寒対策だな。圧迫される僕の気持ちは無視か。


「そうかこうやって誠一郎さんを……」


 どうでもいいけど、僕とかなめだとかなめの方が3キロほど体重が重い。この前見つけた体重計で僕をからかったら自爆したのでよく知ってる。

 というか、もはや胸を押し付けられる程度じゃ何とも思わない自分に驚いた。かなめの口からチョコの匂いがしたので、ああコイツ歯磨いてないなと思った。


「かなちゃん。ちゃんと歯は磨け。虫歯になっても歯科医行けねーんだから」


「あっはい。じゃあついてきて」


「1人じゃ怖くて歯も磨けないんですか?」


「し、仕方ないでしょ? この部屋じゃないけど前にぼんやりしてたらゾンビが横にいたことあったんだから」


「はいはい行くよ」


 僕は立ち上がってかなめの手を掴むと、自宅なので暗闇を慣れた様子で洗面所まで連れて行った。そして、緑茶で歯磨きするかなめを懐中電灯で照らしながらぼんやり眺めた。

 そして、一応僕ももう一度やっとくかという気分になって歯ブラシを手に取った。


「んーふぁにせーふぉふぁーふぃふぁふの?」(ん?何せーも歯磨くの?)


「うんさっき磨いたけどな」


「あっそ」


 かなめは退屈そうにそう言うと、突然振り返ってきて僕にキスしてきた。そしてかなめのぬめった舌が僕の口に潜り込んできたかと思うと、苦いドロドロした歯磨き粉混じりの唾を流し込んできた。


「うえっな、何すんだよ」


「その方が歯磨き粉も水も節約できるでしょ? うわーなんか精液みたいで気持ち悪い」


 自分で勝手にやっておいてちょっとかなめは引いていた。何だコイツ……。吐き出すとまた怒りそうだから僕は仕方なくかなめの唾液で歯を磨いた。

 そうか。もう星子が来たから前みたいに大っぴらにイチャイチャできないのか。困ったなどうしよう。

 僕がそんなことを思いながら歯を磨いていると、かなめが僕の耳に唇を近づけてきた。


「いくら元許嫁だからってあの子ばっか可愛がるようなはんかくさいことしたらぶ殴るからね」


「何? 北海道弁? そういや君北海道出身だったな」


 僕が聞き返すと、かなめが恥ずかしそうに頷いた。


「うん、ふざけたことしたらぶん殴るって言った。ママから東京もんはいざって時方言を使えば落とせるって聞いたから温存してたんだ。てか、せーって宇都宮出身の割に、何とかだっぺーみたいなこと言わないよね」


「うん、僕は方言を使うような下々とは生まれが違うんだ」


「あ、金持ち発言してイキってる。もう金なんか何の役にも立たんのに」


 これに関しては実際そうだ。身の回りに方言で喋る人がいなかったからほとんど意味を知らない。だから宇都宮出身なのにU字工事のネタがよく分からない。


「まぁそれはそうと1人増えたし、これからは食糧だの何だのも温存しないとなぁ……」


 僕がそう言うと、下の方から何やらゴンって叩く音がした。


「私もいるってさ」


「アレは勝手に自分で食べもの見つけてくるでしょ」


 ロブスターアイツめちゃくちゃ耳いいな。


「2人ともいつまで歯磨いてんですか!? 暗闇で1人は怖いんですけど! 外はなんかギャーギャーうるさいし!」


 何はともあれ、状況はあまり変わっていない。というか人は増えたということはシビアな見方をすれば悪化したということだ。

 嫌だなぁ。パニック映画よろしく仲間同士が緊迫状態で手を取り合うんでなく、醜く争うようになるのは。僕らだったら殺し合っても多分僕が勝つけども。

 とりあえず、明日は何をしようか。将棋でもみんなでしようかな。

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