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情緒不安定 7

「ぐっ……ぎぎ……」


 まずい。これ本当にまずい。なす術がないし今にも背骨を砕かれそうだ。

 万力のような力でザリガニに絞め殺された人間って多分世界で僕だけだぞ。これダーウィン賞にノミネートされたり…ん? 万力のような力って何か聞き覚えがある。

 あ、小学生の頃に国語の授業で出てきたルロイ修道士の握力の例えか。いや、中学生だっけ習ったの。悪性の腫瘍とかキッズに言っても分からんだろうし多分中学生だな。

 あのルロイ修道士って確か何かの理由で身体に障害があったような…というか僕の走馬灯は何でルロイ修道士なんだ。僕ん家神道だぞ。

 アカン、クソ……頭が真っ白になってきた……僕の人生……こんなとこで……。キレそう…。

 僕が槍を落として意識を失いかけた時、バキリと何かがへし折れる音がした。何かと言っても間違いなく背骨なんだろうけど、折れたような感じがしない。そうか……これが昇天か……。


「うぐっ!?」


 すると、突然ザリガニが僕を解放し、鋏で身体を挟んだかと思えば玄関に向かってブン投げた。

 唐突なことで受け身も取れず、ドアノブに背中を強打して鈍い痛みが今度こそ背中に走った。

 どうやらまだ生きてるらしい。


「心配して来てみれば何死にかけてんですか」


 僕が咳き込みながら前を見ると、そこにはトマホークを構えてザリガニに相対する星子さんがいた。ザリガニの鋏の付け根にトマホークによるヒビが入っている。

 どうやら助力に来てくれたらしい。それは本当にありがたいけど、君までこっちに来られたら上に戻れないんだな。梯子壊されちゃったからね。


「とはいえ、これ本当どうすればいいんでしょう。私本気で今叩いたのに」


「気をつけたほうがいい! このザリガニには銃弾すら歯が立たなかった!! 口内に当てても大して効いてない!」


「誠一郎さん」


 星子さんは自分の方へと態勢を変えるザリガニの射程から逃れるため、互いにぐるぐる部屋を回りながら僕に話しかけてきた。


「コイツ、ザリガニじゃなくてロブスターです。アメリカザリガニとかは赤い斑点があって鋏も長っ細いですけど、コイツは全体的に青銅っぽい色で鋏も丸みを帯びてて太いです」


「……そう」


 今どうでもいいだろそれ。こんな時まで知識マウントやめてください。キレますよ。


「あ」


「いったぁぁぁぁぁぁ!?」


 すると、死んだフリしてやり過ごしていたかなめの肩にザリガニ、いやロブスターの刀剣みたいな脚がブッ刺さってかなめが悲鳴を上げて飛び跳ねた。


「ああっ……うっ……」


 そして、飛び起きたことで自分から広げてしまった傷の痛みで今度はマジで気絶した。クソの役にも立たない女だな。

 鋏に気を取られていたが、脚も脚で先は尖っているし、全体に大小様々な凹凸が浮き出ていてまるで棍棒みたいだ。

 ただ、尖っていると言っても先端は丸まっているからかなめの肩から出血はないようだ。痣は酷そうだけど。


「コイツをベランダから落としたいんだけど、中々難しそうだ。スプレーとライターで即席の火炎放射とかやってみようかな?」


 疑問系で言ったけど、僕はすぐさま熊避けスプレーを使ってチャッカマンで火炎放射を繰り出した。

 が、猛火を浴びるロブスターは触覚をぴょんぴょん動かして涼しい顔をしている。何でたかが高級食材の分際でこんな屈強なんだコイツ?


「そうだ星子さん目と口を袖で覆っt」


「グァァァァァアァァァアアアアッッ!? テメェェェッ私に何の恨みがあンだ貴様ァァァッ!?」


「ゲッ」


 ヤバい。もろ射線上にいた星子さんの顔面にスプレーがかかってしまった。

 これかなめと初対面の時に僕自身も食らったけど、マジで痛みのあまり視界が真紅に染まって何も見えなくなる。

 その痛みも目玉を剣山で刺されたようで、それを今星子さんに食らわせてしまった。今本気で背筋が凍っている。


「こ、ころす……」


 そう、不吉なセリフを吐いて星子さんは、充血した目に涙をぼたぼた流しながら倒れた。気絶したのだ。僕を助けに来た女の子。それも仮にも許嫁だった子を僕自身が駄目にしてしまった。

 というか、数時間前に洗剤水飲まされて今度は催涙スプレーの上位互換を食らったのかと思うとすごいな。ダチョウ倶楽部でもここまで身体張らないぞ。

 これ、あとで僕半殺しにされたりしないだろうか。いや、それより……。


「シャー……」


「僕がコイツに殺されるのが先かもな……」


 2人を守りつつ、僕はこのロブスターを倒さなくちゃいけないのか。憂鬱だ……勝ったら勝ったで絶対星子さんに報復されるしさぁ……。

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