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何が何だかわからない 後編

 小学生の頃、若気の至りで家のシャンプーとリンスをサンポールとハイターに詰め替えて親父を殺しかけて、殴られるくらい本気で怒られたことがある。

 その怒られてる時も怖かったけど、僕が一番怖かったのは親父が退院して帰ってくるなり、車に乗せられて銀行まで連れてかれたことだ。

 その後、当時専務である自分の部屋に連れてこられてそこで大目玉を喰らった。

 家を出た時に後部席に座ろうとしたら、呻くようにか細く、それでいて重厚な凄みのある声で俺の横に座れと命じられた。

 普段はよく話しかけてくる親父が銀行に着くまで赤信号でも全く口を開かなかったのが、そうあの静寂が一番怖かった。

 お前がやったことは、運転の合間に軽く話して終わるようなしょうもないモンじゃないんだからなと暗に言われてるようで、それが恐ろしかった。

 以来、僕は同じような目に再び遭わないよう自分を厳しく律してきたわけだが、それでも生きている限り怒られることはそりゃある。

 そこは弁えていた。しかし、あのような嫌な目にはもう金輪際遭いたくないとも思っていた。

 だが、そういう望まぬ場面は何の予告もなく急にやってくるわけだ。

 もうアレだ、通帳手数料みたいに生きてく上で避けられないことなんだと受け入れるしかないのだ。


 *******


「お風呂場、貸していただいてありがとうございました」


「あ、あぁ。雨水を溜めたヤツだけどちゃんと煮沸したから綺麗でしたよね?」


「ええ。こうして服まで貸していただいてありがとうございます。服もあんなに念入りに洗濯までしていただいて……さっきはどうも? えー……」


「あ、来栖かなめって言います。さっきは大変申し訳ないことを「あ、それについては今からじっくり話すつもりなので焦って謝らなくてもいいですよ」」


「あ、はい……」


 アカン。めっちゃキレておられる。

 そりゃ縛られた状態で石鹸水顔面にぶっかけられたら誰だって嬉しくはないだろう。

 僕は汚れを落として綺麗になった星子さんを横目で見た。

 かわいいと美しいの真ん中くらいの少年のようにあどけない容姿、日に当たらない僕と違って小麦色の肌。さっきまで陸上部のビキニみたいな格好をしてたけど、胸もそこそこあった。

 これが僕が本来なら結婚する予定だった人か。悪くないな。でも、正直今はこの場にいたくないな。


「じゃあ2人でじっくり話し合ってください」


「誠一郎さんにも言いたいことがあるので行かないでもらえますか?」


「逃げるなんて良くないなぁせーは」


 僕は何の違和感もなくさりげなく立って隣の部屋で、読みかけの坂の上の雲を読もうとしたら、星子さんには呼び止められ、かなめには腕を掴まれた。

 どうやら味方はいないらしい。

 星子さんは出されたオレンジジュースを一口飲んで、かなめに向き直った。


「さて、かなめさん。貴女はまず最初に私に何をしたかを説明してもらえますか?」


 かなめは僕の顔をじっと見た。まさかコイツ全部僕の指示でやりましたとか抜かさないだろうな。ベランダから叩き落とすぞ。と、僕は目でメッセージを送った。


「あーえっと……シャンプーや石鹸とかの水を「私がまだ外にいた時のことです。あなたは私に何をしましたか?」」


「は、はい。ドアを蹴破る勢いでガチの力で蹴り開けて、真ん前にいた星子さんを吹っ飛ばして真後ろの壁にぶつけて倒れたところを、靴下を口に詰めてから靴べらで何度も殴りました……」


「はい。その後は?」


「何回か蹴った後、頭をドアに挟んで横から押して頭蓋骨ブッ潰してブチ殺そうとしました。でも、せーの婚約者らしいので後々せーに恨まれたら怖いと思いまして……」


 いや大丈夫恨んではない。ビビッてるけど。

 何なの? 何故コイツ急にこんな血に飢え出したの? 初めて会った時は目潰ししたゾンビの横通るのすら嫌がってたじゃん。今はもう少しでも気に障ること言ったら殺されそうで割と本気で怖い。

 まぁガチバトルに発展したら僕が勝つと思うしいいか。

 というか、恐らくキレ散らかしてるだろうに顔は柔らかくにこやかな星子さんも怖い。


「それは情けをかけていただきありがとうございます。ちなみにあなたが私にしたことは法律では何というか分かりますか?」


「え……傷害罪?」


「殺人未遂ですけど。あなた明確に私を殺すつもりだったけど取り止めたんですよね? 殺意あったじゃないですか。というか私に暴力振るってますから傷害罪もですけど。しかも私の口に突っ込んだ靴下、アレは何ですか?」


「はい……せー、いや森川君が4日くらい履きっぱなしだったヤツです」


「あー道理で極めて不快な味だなと思った。躊躇なくやりましたよね」


「いや……あの、ホントすいませんでした」


「謝って済むなら警察はいらないんですよ。ま、百歩譲って私も汚かったですしゾンビと間違えて攻撃したのは許せます。でも、拘束後に私に石鹸水で水責めしたのは楽しんでやってましたよね? あれはどういう意図でやったんですか?」


 やっぱそこに怒ってるのか。


「ごめんなさい許してください!! 鮎川さんが普通の人間だと知ってたらやらなかったんです!! この通りですごめんなさい!!」


「だから謝って許されるなら警さ……あの、土下座しながら足舐めないで。こういうの普通革靴でやるもんですよねドクターフィッシュじゃないんだから」


 土下座してテーブルの下で星子さんの素足をしゃぶるかなめに、やたら冷静に彼女は突っ込みを入れた。

 そういえば亡き祖父と一緒に映画見ててそんなシーンがあった時、これされたこと一回もないし汚いからやってほしくもないって言ってたな。そりゃそうだ。


「まぁ今回だけはお互い初対面のことですし私の胸三寸に収めてあげます。次はないと思ってください」


「ひぐっ、うぐっ……すいませんでした……ありがとうございます……」


 かなめはそう言って、椅子の上に体育座りの姿勢でうずくまり泣きじゃくった。年下のJKに泣かされるなんて生きてて恥ずかしくないのかなコイツ。


「さて、誠一郎さん。再会したばかりですし、ここは礼儀に倣ってお久しぶりですの一言でも言うべきですが、あなたにも言いたいことは幾つかあります。かなめさんが私の歯を全部抜こうとした時、あなたはそれにOK出しましたよね」


「……そりゃ噛まれたくなかったので……爪も引っかかれたら痛いし痕残るし……」


 僕も仮面のように張り付いた笑顔のまま微動だにしない星子さんと目を合わせて話してると、何か薄ら寒いものを感じる。


「自分が助かるなら私はどうなってもいいというわけですかそうですか」


「いや、いつか落ち着いたらインプラントを……」


「お金を払ったらもうそれで私が受けた苦痛も流した血も全て清算できると思ってるんですか?」


「はい。ちなみに次多分それを女性にやらせて恥ずかしくないんですかとか言ってきそうなので前もって先にお答えしますが、僕はやりたくないことは徹底して人に押し付ける主義です」


 許嫁の女子高生には舐められたくないので、僕は多少大人気ないような気はしたけど、ここはまぁ僕の家だしと思って捲し立ててやった。大人を舐めるなクソガキ。


「「最低……」」


「フン」


「申し訳ありませんかなめさん、こんな卑劣漢と一緒にいたなんて苦しかったですよね……」


「えっ」


「はい」


「えっ」


 その結果、一度に僕は2人の女性に蔑まれることになりましたとさ。チャンチャン☆

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