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二度と会えないと思っていた 前編

「インターホンの音なんて久々に聞いたね、誤作動かな」


「いや、どうせゾンビがよろけて押したとかだろまったく……かなちゃん、殺してくるから服着ときなよ。風邪引いたら病院行けないし命取りになる」


「ストーブつけてるから大丈夫だけど」


「僕は大丈夫じゃない」


 すでに丸2日以上お互いマッパだから手遅れかもしれんけどな。僕はかなめの手を解いてから、素早く着衣して壁に立てかけた槍を掴んだ。


「せー足元にあるブラ取って」


「ほい」


 足元に落ちてるスポーツブラを僕は掴んでかなめに投げ渡した。うまくキャッチした全裸のかなめはいそいそとブラジャーにおっぱいを詰め込んでから、僕の前で恥ずかしげもなく着替え出した。僕はそれをぼんやりと眺めていた。

 こんな痴態の数々にお互い慣れてしまったのが、我ながら恐ろしい。食っちゃ寝の生活って原始人の生活そのものだな。いや、原始人はまだマンモスとか狩ってたからそれ以下だ。僕が何を言いたいのかと言うと、このままでは本当に馬鹿になる。

 かなめと乳繰り合ってばっかの生活を続けてたら、ゾンビには食われないかもしれないけど、何となく救いのない末路が待っている気がしてならない。

 というか、かなめに死なれるという未来が、僕が死ぬかもという未来より遥かに想像するのが怖い。それほどかなめはもう僕にとって心底大事な存在になってるわけだから、だからこそお互い欲ばかりで生きてくわけにもいかないのだ。


「さてと、久しぶりにゾンビを殺して財布を抜き取るとしますかね、もし生存者ならもっとドア叩いたり蹴ったりして、もっと切羽詰まってるだろうからまぁゾンビだろ」


 僕がそう思って槍の刃の部分に被せた空の牛乳パックを外すと、再びインターホンが鳴らされた。


「あ? またか? なんでまた……」


 ひょっとして知性が少し残ってるタイプかな? 僕みたいな疑り深くて賢い人間じゃないと、勘違いしてすぐ開けてしまいそうだ。

 僕はそう思ってサンダルを履くと、覗き穴に目を近づけた。やはりいるな。汚れたフライトジャケットを着ている。ん? この露出度の高いビキニみたいな格好、陸上競技のユニフォームだな。 女のゾンビなんだろうけど、きっと練習中に被害に遭ったんだろうな。哀れな。

 僕がもう少しよく見てみようとして屈んだ時、尻ポケットに入れたマッキーが落ちて音を立てた。

 そういえば、あの子も陸上部だったっけ。僕の許嫁だったけどよっぽど僕と結婚したくなかったのか破談を直訴してきたら、双方の親が出てきて僕と無理矢理結婚させられることが決まった子。あの時は傷ついたな。僕をグリム童話のカエルみたいに思ってたのかな。


「……」


 そういえば、このゾンビあの子と背格好も合う。それにこんな何世帯もあるマンションで、何故僕の部屋にピンポイントでやってきた? それも陸上部の服装で。

 僕は不安に駆られて、食い入るように覗き穴を覗き込んで、その女のゾンビの顔を見ようとした。考えたくないことだが、このゾンビ、まさか。

 瞬間、僕は頭の中で一万のポップコーンが弾けたようなショックを受けた。


「ウソだろ……星子……さんかよ」


 僕は穴から目を離すと、やるせなさからドアを一発殴打した。痛かったが気は紛れなかった。

 そこにいたのは、一応は僕の婚約者だった女の子。鮎川星子さんだった。見間違いようがなく彼女だった。何というみすぼらしい姿に変わり果てたものだ。

 殺すのか? 僕はこの人を? 面識はほとんどないとはいえ、形だけでも将来を誓った人を僕がこの手で?

 僕は槍を掴む手にいつもより力が入らないことを実感しながら、どうもできずにいた。




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