自分が猿だと気づく日
あんまり直接的に書いてしまうと運営様から削除されてしまう…
「……おい起きてるか」
「え? とっくに。なに? 出たいの?」
「いや、別に」
せめて腕時計かスマホを掴むなりして今の時刻を見たいのだが、それすらも難しい。
僕とかなめはお互い全裸で寝袋の中に収まっていたからだ。寝袋は大型のものだったから抜け出すには困らないが、それでもかなり窮屈だ。しかし、それ故に僕らの身体が溶けあうように密着しているのがたまらない。
ずっとこのようなことをしていると、どこに僕の手足があるのかが曖昧になって、逆にかなめの細い手足が僕のもののように感じる時があるから怖い。
「まぁいいや、私出よ」
かなめは両腕を出して這って寝袋から出た。彼女の身体全体が触手のように僕の身体を撫でていき、かなめが抜けて空いた隙間に冷気が入り込んできたので、僕はジッパーを上げて再び寝袋に潜り込んだ。
「ほらせーあーん」
僕が起きるか寝るかかなめの残り香の中で迷っていると、かなめが僕を仰向けに転がして口にクッキーを押し込んだ。乾いた喉に唐突なクッキーは許されざる罪と言っていい。
僕はクッキーを咀嚼しながら、寝っ転がったままかなめの裸身を見つめた。
くびれた細い腰回りと上に伸びたへその上には、劣情を煽る立派な乳房が乗っかっていて、日に当たらないせいで青白くなった両足の付け根の周りだけが黒く染まっている。
僕らはチルドピザとかカップラーメンみたいな高カロリーの食品をいつも食べてるけど、その分食事回数も減ってるので前より痩せたように見える。かなめは絶世とまでは言わないけど、街中ではそう見ないくらいスタイルも抜群でかわいい子だった。
AV会社にスカウトされたのを何故かグラドルのスカウトと勘違いして北海道から上京してきた彼女だが、実際AV女優になったら人気出ただろうな。まだ未成年だし。
それで、こんな美少女とイチャイチャできる自分はなんて幸運なんだと当初は思っていたけど、最近はちょっとそれに恐れを抱いてきた。
僕とかなめはもう丸二日は服を着ていない。別に突然裸族に目覚めたとかではなくて、あんまりストレートには言えないけど、とにかくずっとかなめとくっついていた。
普通の意味でもエロい意味でも寝て、普通の意味でもエロい意味でも抱かれた。なんかもう部屋中に栗の花の匂いがする。
人肌が恋しくなるという言葉があるけど、今までよくわからなかったその言葉の意味が今となってはよくわかる。一回かなめの胸に顔を埋めてからというもの、自分を抑えようとしてもついかなめを掴んで抱き寄せてしまう。
そしてかなめにおもちゃ扱いされるのだけど、それも別にどうでもよくなった。一緒にタオルで身体を拭いあったりもしたし、かなめの口の中にできた口内炎を僕が舐めたりもした。その内トイレまで付き添うことになるかもしれない。
親の裸より行きずりの女の裸の方を見て触れている現状。というか親でも子に見せないような部分まで見てるし。
中学生の頃のどんどん焼きのパッケージの女でも興奮できた自分に、大学生になったら日本メチャクチャになる代わりに同い年の綺麗な女の子と遊び惚けられるぞと言ったら、多分狂喜乱舞しただろう。
実際楽しいのだけど、裏を返せばそれ以外に本当にやることがない。暇と言うのはかなめと会う前から悩まされていたけど、明確な解決法は外に出ることのみで、先日それであわやかなめに殺されかけた。
そうだ。それでかなめが申し訳なさそうにして夜中布団に潜り込んできたのが始まりだった。
いずれは一族が経営する銀行を継ぐために、公私を混同せず己を律することができる人間になれと死んだ祖父は言っていたけど、おじいちゃんごめん、孫は性欲には勝てなかったよ。
今、かなめがトイレに入って放尿する音を聞いているけど、それを聞いているとまたなんかムラムラしてきた。大学生としては正しい生活なのかもしれないけど、個人的には脱却したいルーティンだ。
かなめの腹を撫でたり、舌を絡めあって唾液を循環させるたびに自分が人から猿に退化したような気分になってしまうのだが、かなめは平気なんだろうか平気なんだろうな。
いい加減服を着るか。僕は椅子の上にある僕のトランクスを履いたが、これも橋爪宅にある女性用下着を見つけるまではかなめが穿いているものだった。
そういえば、結局あの後外に出るという計画は頓挫したままとなっている。それもどうしよう。どうするべきだろう。
僕は外のべランダに撒いたビスケットの破片をついばむスズメを見つめながら、今が正月の三が日だということを思い出していた。なんという爛れた20歳の正月なんだろう。
僕がそう思った矢先、背後からかなめが僕に首に抱きついた瞬間、何故か家のチャイムが鳴った。




