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助けたのは王女様

……さて、どうしたものか。

俺の目の前には、白を基調とした清楚なドレスに身を包む、いかにもお嬢さまといった感じの女の子がいた。歳は俺と同じか少し小さいくらい。恐らく、あの馬車に乗っていたのが彼女だ。王女様あたりだろう。

暫く沈黙が続いたが、それを彼女が破った。


「……私はマリー=エズワルド=フィア=セイラム。セイラム王国の第二王女です。

この度は助けて頂き、ありがとうございました」


そう言うと、マリーは小さく頭を下げた。

驚いたな。一国の王女が正体不明の男相手に頭を下げるとは。お付の女騎士も驚いている。


「やめてくれ、そういうのは性にあわない。というか、初めは見捨てるつもりだったんだ。アンタらを助けたのもただの偶然に過ぎないし」


「貴様、誰の前に立っていると……!!」


「よしなさいアイリス。私達は助けられた立場ですよ」


俺のぞんざいな口調に腹が立ったか、それとも見捨てようとした事実を伝えたからか。

女騎士……アイリスが腰の剣に手をかけたが、マリーがそれを制した。


「……貴方は?」


「名前……ってことか?」


「ええ」


名前か……別にここで嘘をつく必要は無いが……

というか、多分マリーはこちらの正体はあらかた察しているのではないだろうか。

アラクネの話では、俺達を召喚しようとしたのはセイラム王国。マリーの国だ。

その王族である彼女が、俺とクラスメイト達の共通点……制服やアジア系の顔に気づかないことはないだろう。


「……日向。境 日向」


「ヒナタ様……ですね。覚えました」


マリーは少し考え込む様子を見せた後、話を続けた。


「……ヒナタ様。先程お教えした通り私はセイラムの王族。助けていただいてありがとうございましただけで済ませることは出来ません。どうか王城にお目通り願えませんでしょうか」


「正体を隠したままでも良いのなら」


「なっ!? 素性も分からぬ人間を王城に入れるなど出来るはずが」


「いいえ、構いません。私達王室に不信を抱くのも当然でしょう。貴方が自身の立場を理解しているのなら」


「……」


やはり、俺と召喚された奴らの関連性を確信してるな。

それでも王城に招こうと言うのは俺を嵌めようとしての事か、王族のプライドか。はたまた本当に礼がしたいだけなのか……

現状、俺に分かることは多くない。

そもそも俺はこの森から出ようとしていた所だ。しかし森を出てからの方針は決めていなかった。

この際、罠でもこの誘いに乗った方が今後の方針を決めるためにも良いのではないか? ハッキリ言って拘束とかされても力づくで抜け出せる自信はあるし、リスクゼロとはいかないが危険性は低いと思う。


「……構いませんか?」


「……分かった。行くのは良いが……どうやって帰るつもりだ?」


「あっ」


短く声を漏らし、恥ずかしそうにするマリー。考えてなかったんかい。


「そうでした……馬は既に殺されるか逃げ出すかしていましたね……」


「最悪、馬車本体さえ残っていれば私共で牽くことも出来たのですが」


「ダメよ、それじゃタチの悪い奴隷みたいじゃない」


馬車の本体は先程のドラゴンブレスで跡形もなく消え去っていた。

結構豪華な装飾でいかにも高級ですという感じだったため、惜しく感じてしまうな。

そういえば、ライムは……


「あるじ、おつかれさまなの!」


「お、居たな」


「あら、さっきの……」


ライムが俺の懐に飛び込んで抱きついてくる。


「……思っていたのだが、貴殿は何故このような場所に? しかもこのような子供まで連れて……」


アイリスが俺に聞いてくる。

さて、どう説明したものか。まさか魔王に送り出されましたとか言えないだろ。

王国が俺達を召喚しようとしたのも魔族の王の討伐のためらしいし、別物の魔王とはいえ魔王の眷属となった俺をどう思うかは明白。かと言って下手な言い訳は余計な疑念を与えかねない。


「……気づいたら森にいまして」


「……ほう?」


ダメだ。俺に腹芸は無理だな。

マリーも小声で何やら呟いている。やはり怪しまれるか。


「……っと、そうだ。ライム、『アレ』になれるか?」


「んー? あのとかげ? つかれるけど、たぶんできるの」


「人を乗せて飛べたりは……」


「できるとおもうの」


「よーし」


俺とライムの会話を聞いて、首を傾げる二人。

まあそうか。見た目はただの幼女だもんな。実際は魔王スライムなんだけど。


「じゃ、さっさとこのドラゴン片付けて……」


「……ヒナタ様ッ、後ろ!!」


さっさとドラゴンの死体を処理しようとしたところに、マリーの声。

振り返ると、ドラゴンが頭だけ上げてこちらにブレスを放とうとしていた。

マズい、避けられない……!! 俺だけならともかく、後ろにはライム達が……!!


「オオオオッ!!」


俺は咄嗟に、渾身の力を込めて迫り来る業火に向け拳を突き出した。

直後、パァン、という何かが弾けるような音がして、炎は俺の少し前で二股に分かれ、俺達を避けて通過した。

……まさか拳の風圧でこうなったのか?


炎が晴れると、そこには根こそぎ吹き飛んだ木々と、先程直接殴ったより吹っ飛んでいるドラゴンの死体。

火事場の馬鹿力というやつなのか……ただでさえ人外だった俺なのに……


ギギギ、と振り返ると、目を白黒させて呆然とするマリーとアイリス、そして目をキラキラさせているライム。


「あるじ、やっぱりすっごくつよいなの!」


『派手にやったのお。我好みじゃ』


アラクネの言葉にはライムの純粋なものと違って暗に小馬鹿にするようなニュアンスが感じられる。

クソっ、まだ力を制御しろとでも言うのか……これでも頑張ったんだぞ。

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