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乱入者

「……分かったか? 今後はさっきみたいな無茶はしないように!」


「……分かったなの……」


目の前の青年と少女は、この場の空気を一切読んでいないかのように振る舞いだした。

青年が悪い事をした少女を窘めている場面なのだが……如何せんこの場でやることでは無い。

幸い賊共も呆気に取られて2人を見ているが……いつ我に返って2人を襲ってもおかしくない。

この身はマリー様を守る為の物だが、騎士である以上市民を守るのもまた務め。

彼らがただの市民なのかは甚だ疑問があるが……とにかく、この場から離れさせなくては。


「君達、何をしている! 早く逃げろ!!」


そう叫ぶと同時に、足元に落ちた剣に手を伸ばす。

しかし私の声に我に返ったのか、賊の頭の足が私の愛剣を蹴飛ばし、私の手は空を切った。


「……貴様等、何者だ!! この場を見られたからには生かしてはおかん……!!」


「うるさいよ。喋ってる」


「な……!!」


男の凄みにも動じず、青年はまるで子供を諭すかのように口の前で人差し指を立てる。

マズい、何故煽るようなマネを……!!

案の定、男は剣を構えて目の前の青年を殺す準備を整えた。


「ガキが……舐めた口ききやがって!!」


男がとったのは上段の構え。肩から脇腹にかけて切り裂き、致命傷を与える一撃だ。

やはり男は相当の使い手のようで、狂い無く致命の一打を繰り出した。

彼はもう助からな……


「遅い」


……剣は、青年の2本指でいとも容易く止められた。

青年はそれほど力んでいる様子も見せずに、人差し指と中指で剣を挟んだ。たったそれだけで男の剣はピクリとも動かなくなってしまったのだ。

私は今まで男と打ち合っていたが、男は相当な膂力があったはず……なのだが。


「……は?」


男はまたも固まった。しかし仕方がないだろう。それほど有り得ない状況なのだ。


「……で、何? 俺達を『部外者』にしてくれたら、お前ら見逃してもいいけど。てか元々そのつもりだったし」


「ぐ……!! 何なんだ貴様ァ!!」


男はさらに力む様子を見せるが、青年はさも赤子を相手にするかのようにやる気のない声を出す。


「はァ……頭悪いの? 見逃すって言ってんのに……ったく」


バキン、と。


剣が折れる音が周囲に響いた。


青年が指で挟んでいた部分から先の剣が、綺麗に折れてしまっていたのだ。


「…………」


「はーい、武器はぶっ壊れました。これで力の差は理解できたかな?」


周囲の人間は、皆口を開けて呆然としている。

今の今まで殺しあっていた者全員がその青年を凝視し、戦慄していた。

全員、心の中でこう考えていただろう。


『ああ、彼は化け物だ』と………



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



……ほらね、目立つ。

いや、煽りに煽った俺も悪いんだけど、言うて剣から身を守っただけなんだよな……


(……それに見逃してもいいとは言ったけど……故意ではないにしても一度助けちゃったからには、それを見殺しにするってのも後味が悪いしなあ……全く、やってくれたぜ)


心の中で愚痴りながら、俺は呆然と立ち尽くす男を睨んだ。


「……で、どうする? 今ならまだ見逃してやるぜ」


「……ッ、クソ!!」


「あっ!」


男はライムの手首を掴んで引き寄せると、懐から取り出したナイフをその首に当ててニヤリと笑った。


「ッ、『待て』っ!!」


「ハ、流石のバケモノも人質(このガキ)は弱点か!! 動くんじゃねえぞ、動いたら即このガキは殺す!!」


「貴様ッ、子供を人質になど卑怯な!!」


「黙れ(アマ)ァ!! 立派な戦術ってやつだろうが!!」


女騎士が俺の代わりに激昂してくれている。

しかし人質にライムとは……この人も間抜けなことをする。


『……お主、どうするつもりじゃ?』


「ま、少し情報を貰ったら用済みかなぁ」


「テメェ、何独り言を……!!」


おっと、そうか。アラクネの声は俺にしか聞こえないんだった。

さて、拷問でも始めるとしようか。


「……何が目的?」


「はァ? 状況分かってんのか? 今テメェが質問できる状況か?」


「そっくりそのままお返しする。ライム、右腕は『よし』」


「何言って……!?」


シュウウ、という音が男の腕から聞こえる。

男が恐る恐る自分の腕を見て、「ヒッ」と短い悲鳴を上げた。


「腕、俺の腕……!!」


「ごちそうさまなの」


「よし、よくやったライム。偉いぞ」


何をやらせたのか? 単純に、ライムに男の腕を食わせただけだ。

そもそもスライムであるライムには核以外への物理攻撃は全く効かないから脅しの意味は無い。

むしろ全身胃袋のライムに密着するとか自殺行為以外の何でもない。


「さぁて、もっかい聞こうか……何が目的? 次は左腕な」


「わ、分かった!! 話す、話すから……助けてく」


次の瞬間、俺は男の背後で巨大なあぎとを開ける魔物の姿を見た。

男は左腕どころか、全身その口腔にすっぽりと入ってしまっていた。


「……あらら」


悲鳴をあげる間もなく、男は食われた。

そして俺達に向けられる、爬虫類特有の眼球。全身を覆う黒鱗。優に10メートルは超えているであろう巨体。

ファンタジーの定番とも言える、その大翼を持つ魔物の名は……



「ドラ……ゴン……!?」



女騎士の絶望に満ちた呟きが、ヤケに大きく聞こえた。

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