初めての町は戦争中で魔族に
ブクマが増えてありがたいです(ヘヴン状態
森を出て歩き続ける事2日……
2人は何事もなく(?)エイボンの町に到着した。
移動中にアルカは強盗から奪った服を改良しつつ、フリルが多めのデザインにした物に着替えていた。
ディアも眼鏡では目立つと思い、何故か持っていたコンタクトレンズに変えた。
「ディアちゃん、コンタクトなんて持ってたのね」
「眼鏡の方が楽だから普段は使わないんですけど……イベントに参加する時とかはこっちにしてるんです」
「イベントって?」
「夏と冬の祭典とか、コスプレする時とかですよ」
祭典については何度かニュースになっていたから知っている。
だがアルカが知るコスプレは職業別の制服等を着て性的なサービスをする事、もしくはメイド姿でウェイトレスをする事であったが……ディアの事だから多分後者だろうと察した。
その時ふとディアのスキルに【変装】という物があったのを思い出し、恐らく【変装】はそのコスプレで得たスキルなのだろう、と思った。
そう考えれば自分達のスキル……例えば【魅了】はアルカがボディビルダーだったから得られたスキルだとしたら、日本での経験や趣味が反映されているのではないだろうか?
「……って推測が頭を過ったのよ」
「成程、一理ありますね……【変装】がコスプレで得たスキルとしたら【裁縫】も衣装作りの成果だろうし、アルカさんの【魅了】がボディビルというのも納得です」
流石にアルカも【裁縫】まで趣味の結果とは思っていなかった。
「あ、因みにあたしはメイド喫茶でバイトした事はないですよ……あそこ18歳にならないと働けませんから」
「あ、そうなのね……」
つまりただの趣味、という事だった。
「で、ちょっと気になったんですけど……アルカさんの仮説が当たってるとしたら【調合】って何が影響したんですか?」
ゲイバーで働いていたならカクテル辺りかとも思ったがそれなら【料理】という扱いになるだろう。
まさか何か危ない薬に手を出していたのか……そんな事が頭を過った。
「多分だけど……アタシ、プロテインを自作してたからそのせいじゃないかしら?」
プロテインって自分で作れる物なのか?
でもアルカが嘘を言っている様には見えなかったし、よく考えてみれば本当に危ない薬をキメてたら今頃禁断症状が出ている筈である。
「それにしても……妙に活気のない町ねぇ」
「人の出入りはあるのに……確かに変ですね、それとやけに重装備な兵士が多い様な」
辺りを見回せば出歩いているのは兵士ばかり……他の者は家に篭っているのか姿が見えない。
何かの店も看板はそのままに、商品がなく誰も居なかった。
「おいあんた等、昨日の避難命令は聞いてなかったのか?」
現れたのは全身……頭や顔までも金属の甲冑で覆われた兵士。
辛うじてその声から男性である事だけは解った。
「避難命令?アタシ達は今この町に着いたばかりなのよ」
「着いたばかり……ああ、他の町から避難してきたのか、だとしたら間が悪かったな」
「一体何があったんですか?」
「何がじゃない、ここは今から戦場になるんだよ」
更に詳しく聞けばここに魔王の部下が攻めて来るという。
今残っているのは王都から派遣された兵士と、戦う術を持つ狩人や冒険者達のみらしい。
「正直勝てる見込みはないが君達が避難するまでの時間は稼いでみせる、だから早く逃げるんだ」
「……勝ち目がないと解っていながら、どうして立ち向かうの?」
「力のない者を守るのが兵士の仕事だ、俺はそれを全うするだけさ」
2人は再び森へ向かおうと踵を返す……だがその足取りは重かった。
そして町を出ると同時に怒号が響き、血と炎の匂いが充満し……足が止まった。
「アルカさん、あの兵士の人……助けたいんじゃないですか?」
「そうね……あの人、顔は解らなかったけど性格は文句なしのいい男だったもの」
「うん……あたしもあんないい人が殺されるなんて、考えたくない」
これまでのアルカは道行く人々に笑われ、ディアは学校中で馬鹿にされる、そんな状態で生きていた。
だから同じ趣味を持つ者以外の他人と関わる事を最大限に避けていた……
「アタシ達は戦う力はなくても、助ける事なら出来るんじゃないかしら?」
「2回だけでも、回復が出来るならあの人だけは助けてあげたい」
唐突にこの世界に喚ばれた時も、もしかしたら意志の疎通を可能にする魔法やアイテムがあったのかもしれない。
だがディアの話を聞き、助けを求めていると察した時……だからどうした?としか思えなかった。
2人のそれまでの生い立ちが他者を助けるという選択をさせなかった。
アルカもディアも、お互い以外は金のやり取り以外で関与する必要はないとさえ思っていた。
そんな時、この世界で初めて……他者の優しさに触れた気がした。
見ず知らずの他人を助ける為に自らの命すら捨てられる……アルカの今の服装からオカマだと知ったであろう上で助けると言い切った、あの優しい兵士だけは助けたいと。
「……アタシは危ない事はしない主義だったんだけどねぇ」
「それ、山籠りしてた人の言う台詞じゃないですよ」
所代わって町の中……
既に多くの兵士や冒険者が血を流し倒れていた。
「はぁ……ホンット人間って弱いわね、その癖しぶといったらないわ」
「ぐっ……クソッ!」
今、対峙しているのはたった1人の魔族……種族は淫魔。
その背後には多くの魔族とモンスターの屍……その光景から激戦だった事が窺えた。
「ま、下級とはいえ魔族には違いない200体のインプにそこら辺から適当に誘惑して連れてきたモンスター達を全滅させた事は褒めてあげるわ……あなた、私の食事になるなら命だけは助けてあげるけど?」
「……断る」
「そ、残念ね……ならそこで寝てなさい」
淫魔の合図を受け背後からしぶとく生きていたインプが飛び出した。
流石の兵士も抵抗する余力は残っておらず、諦めかけた……その時、兵士の目の前にアルカが乱入した。
「はい、【モスト・マスキュラー】!」
唐突の出来事に呆気に取られる兵士と淫魔……そしてモロに見てしまい動けなくなったインプ。
いち早く意識を取り戻した兵士がインプに槍を突き刺し、九死に一生を得た。
すかさずディアが回復魔法を使い、兵士の側に居た者達も意識を取り戻す。
「動けたら他の怪我人を連れて下がって、あたしの回復魔法は後1回しか使えないから!」
「わ、解った!」
幸い倒れた者達は命だけはあったらしく、淫魔が意識を取り戻しす前には辛うじてその場を離れられた。
「……あなた、何者なの?」
「通りすがりのオカマよ……貴女に勝負を挑みに来たわ」
「ただの人間が私を倒せると思ってるの?」
「倒すつもりはないわ、だって貴女……悪人ではないもの」
お前は何を言っているんだ?
その場に残っていた兵士達とディア、淫魔の視線がそう語っていた。
「これはアタシの推測だけど……貴女はこの場に居る人達を殺さない様に厳命していたでしょ、チラッと聞こえた話から察するに貴女と同族の食料の確保の為よね?」
「ええ、そうよ……魔王様が下した命令は人間の殲滅、だけど私の種族は淫魔、人間の男の精気がなければ生きていけないわ」
「人間だって動物や魚を食べて生きている……なら淫魔が男を誘惑するのを悪事と呼べるのかしら?それに敵から合意を得ようとしてた辺り良識的じゃなくて?」
「人間にしては思慮深い奴ね、チラッと聞こえただけでそこまで理解するなんて……そうよ、私が魔王軍に入ったのは仲間の食料……人間の男と、その番になる者を生きたまま捕まえる為よ、殺したりなんかしたら私達が飢死しちゃうもの」
つまり魔王が人間を殲滅しようとしなければ淫魔はこんな事をしなかった、そういう事だろう。
だからってこんな侵略をされたら堪った物ではないのだが。
「だからアタシと魅了で勝負をしましょう、貴女が勝ったらアタシを食料にしてもいいわ」
「へぇ……淫魔の私に魅了で勝負を挑むの?ならあなたが勝ったら潔く撤退してあげるわ、それでルールは?」
「お互いに得意なポーズを3つ、それで自分より美しいと思わせられれば勝ちよ」
いわばタイマンの男女混合ボディビル……観客は兵士や冒険者の皆さんとディア。
だが雌雄を決める審査員は競技者である2人という異質なルール。
「言い忘れていたわ、アタシの名はアルカ……カフェを開く為に旅をしているオカマよ」
「……魔王軍4幹部の補佐役、淫魔のティーラよ」
此方が死なない様に手加減していながらあの強さで幹部の補佐……
その事実は密かに、兵士達の闘志をへし折った。
※新キャラステータス
【ティーラ】
STR:10
CON:12
POW:15
DEX:11
APP:18
SIZ:13
INT:9
EDU:10
B:89
W:64
H:86
【技能、他】
不明