刀と生きる殺し屋の少年に護衛の依頼が来る話
その少年が生を受けたのは、東洋にある《キキジマ》という村であった。
刀を作り、扱うことを生業としたキキジマでは、子供が生まれると一本の刀を授けるという。
その刀を使い、少年は幼い頃から戦い方を学んだ。
作る側と使う側――村には二種類の人間がいる。少年は、使う側でしかなかった。
本来、刀は斬れば斬るほど刃こぼれをしていき、場合によっては折れることもある。
だが、異様であったのは、少年が使う刀はほとんど刃こぼれを起こすことはなく、十歳になるまで一度も新しい刀を手にすることはなかった。
――その歳には、すでに戦場にいたにも関わらず、だ。
一見すると少女とも見間違うように少年の名は、ユウキ・シドウ。もはや《魔法》とも称される彼の剣術は、村の者達さえも恐れさせた。
ユウキが十三歳になったある日、村の精鋭を集めてそれは決行された。
ユウキの暗殺――それを知った父と母は、息子を守るために戦い、戦死した。
仕事から戻ったユウキが、倒れ伏す父と母を目の前にして、動揺した瞬間を狙うつもりだったのだろう。
――結果として、暗殺は失敗した。
ユウキはそれをすでに予見していて、自宅に真っ直ぐ戻らずに、周辺を囲う村の精鋭達を逆に暗殺していったのだ。
最後に残った一人に対して、ユウキは言い放つ。
「僕を殺すなら……僕より強い者を連れて来るべきだったね」
そうして、ユウキは村を出た。
村の人間達からは異常だと思われていたユウキであるが、彼も人間である。
父と母の死に悲しみを感じないわけではない――二人と弔うと、彼は自分の暮らした国を捨てた。
船に乗り、別の大陸へと渡る。遠く遠く、やがて北方の地に辿り着いた彼は、そこで一つの組織には所属しない《暗殺者》を生業とした。
――暗殺者と言っても、ユウキの殺し方はある意味では彼を象徴させた。
殺された人間全てに残るのは刀傷。得物の長短はあるが、ユウキは必ず相手を刀で仕留める方法を取っている。
『黒い刀身』の刀を使うユウキは、戦う相手にも知られていることが多くなっていた。
「お前がユウキ・シドウか……確かに、まるで女みたいな奴だな」
「女みたい、か。人を見かけで判断しない方がいいよ」
「無論、判断はしない。私は――かひゅ」
「それが油断だって言うんだ。勉強になっただろう」
軽い不意打ちも防げないのであれば、戦う必要すらない相手だと判断する。
やがて、《神剣使い》とまで呼ばれるようになったユウキには、数え切れないほどの殺しの依頼がやってくるようになる。
そんなある日、ユウキの下へとやってきた女性はこんなことを切り出した。
「ある少女を護衛してほしい」
「護衛? 面白いな、それを僕に頼むのか」
女性は《魔法学園》の学園長を務めるらしい。
公的な機関からの依頼は珍しい話ではなかったが、教育機関からの依頼というのは珍しかった。
それ以上に、誰かを守るというのはユウキの専門ではない。
「僕は殺しが専門だ。その僕に、女の子を守れって言うのか?」
「彼女を守るためならば、敵になる者は全て殺して構わない。それが、この国を守ることに繋がる」
「なるほど、言い得て妙とはこのことだね。守ることはすなわち、殺すことと言うことか」
「そういうことだ」
女性の言葉に、ユウキは納得する。
護衛のために殺しをする――確かに、依頼としては間違っていない。
いつもの依頼ならば対象が存在するが、この仕事では護衛対象の少女が狙われる限り、敵がいつでもやってくることになる。だが、それだけではまだ受けるかどうか判断しかねていた。
「それで、その女の子はどういう存在なのかな? この国のお姫様だとしたら、僕みたいな奴に任せるのはどうかと思うけどね」
「ああ、それについては問題ない。この国のお姫様にはもちろん、相応の護衛が付いている。君に守ってほしいのはこの国のお姫様ではなく、《帝国》の姫君だ」
「《帝国》……? 他所の国の人間か」
「他所というよりは、もう存在しない国の姫君だ」
滅び去った国の姫君――ユウキに依頼されたのは、そんな少女の護衛だった。
王国側の人間も危険分子の一人として彼女を狙う者がいて、帝国側の人間は皇帝の血を引く彼女を新たな皇帝とするために動いている。……つまり、少女はあらゆる方向から狙われているという。あまりに危険で、この依頼を受ければ命を落とす危険は今までの比ではなかった。ゆえに、
「ははっ、いいよ。僕がその女の子、守り切って見せるよ」
ユウキは笑顔でその依頼を受けた。
それだけ敵が多いのなら、ユウキの求める相手もいるかもしれない。自分の剣術と、対等に渡り合えるだけの相手が。
「ありがたい話だ。早速編入手続きをしよう。ちなみに伝えておかなければならないことがあるのだが」
「何かな。依頼料なら護衛対象を守るのに殺した頭数で払ってもらう形でいいよ」
「……それについては承知したが、彼女の通う魔法学園は、女学園なんだ」
「ああ、そういうこと――ん、女学園?」
そこでユウキは初めて、自らに依頼が来た理由に気付く。
誰よりも強くて、男でありながらも女学園に馴染めるのは、ユウキを置いて他にいなかったからだ。
数日後、少年はメイド服姿に身を包んで護衛対象の少女の前に現れる。
「あなたの世話係になったユウキだ。よろしく頼むよ、ご主人様」
「……メイドなのに、どうして偉そうなの?」
その返答はごもっともである。
刀と共に生きる少年の、新たな戦いが幕を開けようとしていた。
そう、女の子みたいな男の子が刀を使って女の子を守るみたいなコンセプトのお話を書きたかったのでそのプロローグ的なやつです。
何が言いたいかと言うと、帝国の姫君を刀を使って真っ赤になりながら守るメイドな男の娘ってことだよ!!