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あの夜会から私とイリス殿下の関係が噂されるようになった。
実際にアレクセイ家と、政治が絡んでくるので国王陛下のところにもイリス殿下から私への縁談申し込みが来ているようだ。
我が国には王女がいない。私を嫁がせて国との関係を深めるのもいいという意見が多く貴族の中から出てきている。
だが娘を持っている貴族はそうは問屋が卸さない。
「リリス嬢はルーファス殿下に嫁がれる。その上、妹まで王族に嫁がせるのではアレクセイ伯爵家の力が強すぎませんか?」
議会の場で赤いコートを羽織った銀髪巻き毛の男が立ちあがりそう意見した。
これに対し、隣に座っていた男も立ちあがり同意を示す。
「一つの家だけが突出すべきではないと私も思います」
「リリス嬢は精霊の加護を持っているので彼女が嫁ぐは決定。相思相愛とも伺っておりますし」
小太りの男が座ったままの状態でそう言う。
「想い合う男女を引き裂くは不粋というもの」
小太りの男の対面に座る金髪の男が頷きながら言う。
それに対し、私とイリス殿下の縁談に賛成の宰相はギリリと奥歯を噛み締める。
「イリス殿下とヴィオラ嬢も仲がよろしく、休み時間などは常に一緒にいると専らの噂ですぞ」
「友人として、ですよ。宰相殿」
小太りの男がすぐに宰相の言葉を否定する。
「どのような関係であれ、親しいことに変わりはない。友情が男女の愛情に変わることも別段、珍しいことではない。むしろよくあることだ」
宰相を擁護するように宰相の斜め右に座っていた男が立ちあがり、言った。
「なれば傷が浅いうちにすませるのが優しさだというものだ」
再び赤いコートの男が声を上げた。
そんな感じで私とイリス殿下の縁談話は右往左往している。
もちろん、そんなことを政治とは無関係な私が知るはずもない。
私は部屋にこもり、イリス殿下のことを考えていた。
「はぁ」
私がため息をつくと、くすりと音がした。
ミランダが微笑ましいという感じで笑っていた。
「申し訳ありません。ですが、先程からお嬢様はため息ばかり。まるで恋する乙女のようですね」
「こ、恋って!」
頬を真っ赤にして慌てふためく私をミランダは楽しそうに、けれどどこか嬉しそうに見つめる。
「お相手はマキナー殿下ですか?」
私の顔を見て図星と知ったミランダは更に笑みを深めた。
「あのバカ子爵との縁談も潰れましたし」
「バカ子爵って」
分からなくもないけど、ミランダがそんな言葉を使うところをあまり見たことがないのでちょっとビックリした。
「上級伯爵家であるお嬢様の身分ではマキナー殿下との縁談も問題ありませんし。何よりもマキナー殿下はお嬢様自身を見つめてくださいます。私はマキナー殿下とお嬢様の恋を応援いたしますわ」
「私に王妃なんて無理だよ。お姉様のように優秀でもないし」
自信がない。失敗した時に落胆されて、嫌われるのではないかと。
私の脳裏には姉と比べて劣っている私を見て、落胆する両親や周囲の顔が刻まれている。
「最初から全てが上手くいくわけではありませんよ」
落胆される私を見てきたミランダが優しい声音で話しかけてくる。
「マキナー殿下なら、お嬢様に合わせて歩んでくれると思いますよ」
「そうね。とても、お優しい方だから。でも、だからそれに甘えたくはない」
「お嬢様」
「ミランダ。お父様たちに内緒でイリス殿下の国について分かる資料を取り寄せることってできる?」
私の問いにミランダはパッと花が開いたような笑顔を見せた。
「もちろんです!お嬢様。直ぐに取り寄せますね」
そう言ってミランダはまるでスキップでもしそうな勢いで部屋から出ていった。
そんな彼女の様子に私は思わず苦笑がもれる。
「さてと」
一人になった部屋で私はこれからのことを考える。
お父様たちが私の縁談についてどう考えているのか分からない。
そもそもお父様たちにとっての私の立ち位置が不明だ。
姉よりも劣る、でき損ないの娘だと思われているのは分かる。だから、家も継がせない。適当な相手を見繕って、さっさと家を出て行ってもらおうと考えているのも分かる。
じゃあ、利用価値があると分かったら?
魔力がなくとも私を見てくれるだろうか?
それとも変わらない扱いなのだろうか?
それは私とイリス殿下の縁談について深く関わってくるかもしれない。
私のせいでイリス殿下に迷惑はかけたくない。
それと気になることがもう一つ。
「・・・・お姉様はどう思っているんだろう」
私とイリス殿下のことは噂になっている。
お姉様の耳には当然入っているはず。
「お姉様は、どう動くだろう」




