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精霊に愛された少女の妹は叶わないからこそ平凡を願う  作者: 音無砂月


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イリス殿下と仲直り?をして、いつものように話したりできるようになった頃、私の縁談相手として話が進められていたライセル子爵が脱税、横領、人身売買などさまざまな罪が明らかになった。

詳細は不明だが、まだ余罪があるとかで調査中だ。

「アレクセイ伯爵は運が良かったですなぁ。あのような厄介者に娘をやらずにすんで。もう少し遅ければ巻き込まれていたかもしれませんぞ」

王妃様主催のパーティ。王妃様から私も招待状が来ていたので出席することになった。さすがにお父様も相手が王族なら私を出さざるをえなかったようだ。

そんな社交界で壁の花を決め込んでいた私の近くで父に話しかけている男がいた。

男は親しそうな態度だけど、仲が良いわけではないようだ。

父の顔は穏やかだけど、あれはイラついている時の顔だ。

常に誰かの顔色をうかがっているせいか私には人の心の機微がよく分かるのだ。

「でも幾ら無能でも見た目は良いのですからヴィオラ嬢は同じ伯爵辺りでもいけるのではないですか?」

随分と失礼な男だ。

それに対して父は「娘が希望したのですよ」と答える。

「アレクセイ伯爵も娘に甘いですなぁ。私も息子にはついつい厳しくなりますが娘にはどうも」

そんなことを照れながら男は言う。

私はそこまで聞いてバルコニーに出た。

華やかなドレス。着飾った娘たち。それらを照らすシャンデリア。

どれも心踊ることはない。

「あらやだ、こんなところに平民がいるわ」

バルコニーに出て五分も経たずに甲高い声が耳の鼓膜を貫いた。

「あら、本当だわ。どうりでくさいと思った」

クスクスと私を見ながら彼女たちは笑う。

「魔力を持たない無能がこんなところで何をしているのかしら」

こてりと首をかしげる仕草はかわいらしいと言われる分類に入るだろうが、その顔には醜悪な笑みが浮かべられている。

血のように真っ赤なドレスを着たつり目の金髪巻き毛の令嬢。

ピンク色のふんわりとしたドレスに黒いレースをつけた可愛さの中に妖艶さのある令嬢。

紫のコントラストのドレスを着た碧眼の令嬢。

その他多数。

ざっと見た限り、先陣を切って嫌味を言っているのは赤いドレスの女性。

私と同じ伯爵家の人間だ。

その他の中には子爵家や男爵家も含まれている。彼女たちは自らは言葉を発することはないけれど、虎の威を借りる狐の如く仕切りに頷いている。

「あなた、最近図に乗ってマキナー殿下に近づいているそうじゃない」

「いやぁね。殿下に媚を売るなんて。まるで娼婦みたい。これだから無能は」

「同じ貴族だなんて思われたくもないわ」

私がなにも言わないからか、彼女たちは好き放題言いまくる。

いつものことだ。気にする必要もない。

ここで私がなにか言って騒ぎになっても庇ってくれる人間がいない。

私の立場が悪くなるだけだ。

あとで父にどんなお叱りを受けるか分からない。だからいつも心を閉じ、耳を塞ぐ。そうすれば、いつも知らない間に終わってる。

でも、今回は違った。

「全くだ。こんなところで一人に大勢を相手にするなんて。同じ貴族だとは思いたくないな」

氷河期到来のような寒さに身をすくませる、私以外の令嬢。

彼女たちは動きの悪いブリキの人形のような動きで背後を振り返った。

そこには冷めた目で令嬢たちを見つめるイリス殿下の姿があった。

令嬢たちは一瞬で青ざめ、がたがたと震えだした。

その様子をイリス殿下は無感情に見つめる。蛇ににらまれたカエルというのはまさにこのような時に使う言葉なのかもしれない。

「ち、ちがいますわ。殿下」

赤いドレスの令嬢が取り繕うようにニッコリと笑う。

「そ、そうですわ。殿下」

続いてピンクのドレスの令嬢が腰をしならせて言う。

「ほぅ。では何が違うのかな?」

だがイリス殿下の態度は変わらない。むしろ、周囲に漂う空気がより一層冷たくなった気がした。

ごくりと令嬢たちは唾を飲み込んだ。

イリス殿下の質問に代表で答えたのは。紫のコントラストのドレスを着た令嬢だ。

「滅多に社交界にいらっしゃらないヴィオラ嬢が来ていたので、これを機に仲良くなりたいと思い、お話をしていたのですわ。そうですわよね、ヴィオラ嬢」

質問という体をしてはいるけどイエス以外の返答を許さない威圧感がある。

「・・・・そうですね」

私の返事に令嬢たちは満足そうに頷き、イリス殿下は不服そうだ。

でも私が自分の答えを撤回することがないと分かってかため息を一つついたあと、令嬢たちを睨みながら言った。

「ヴィオラがそう言うのなら今回は引く。けれど誰かに聞かれて困るような言動は今後二度としないことだ。私にとってヴィオラはとても大切な人なんでね。未来の隣国の王妃を傷つけて輝かしい未来を奪われたくはないだろ」

ニッコリとイリス殿下は笑って言った。

「未来の・・・・」

「隣国の・・・・」

「王妃・・・・・」

まるで伝言ゲームのように赤い、ピンク、紫のコントラストのドレスの令嬢は信じられないという顔で呟いた。

あれ?なんか、外堀を埋められた?

そんな気がした。

イリス殿下に視線を向けると、彼は私に蕩けるような笑みを浮かべた。なので、確かめるのが怖くて口を閉ざすことにした。

私を取り囲んでいた令嬢たちはふらふらした足取りで会場の中に戻っていった。

「あの、イリス殿下。助けていただきありがとうございます」

私がそう言って一礼するとイリス殿下はさっきの笑みが嘘のように不機嫌な顔をする。

「どうして言い返さない?」

「騒ぎを起こしたくないので」

「その気持ちも分からなくはない。君のご両親のことを考えると。でも、君は悔しくないのか?」

悔しくない?そんなはずがない。

でもね、イリス殿下。

「泣かない赤ん坊はミルクを貰えない」

「?」

私の言葉にイリス殿下は首をかしげる。

「ここよりも北にある寒い国で言われている言葉です。『泣かない赤ん坊はミルクを貰えない』。でも、どんなに泣きわめいてもミルクを貰えない赤ん坊なんて貴族、平民に拘わらずざらにいると思いますよ。それを無垢な赤ん坊は知らないだけ。私は知っています」

どんなに主張しても切り捨てられるなら声を上げない方がいい。

届かない言葉は虚しいだけ。

空虚な言葉に何の意味がある?

「私は違うよ。君の言葉は私の耳に届いている。届いているから無視をすることはしない。誰よりも愛おしい人の言葉だから」

「・・・・っ」

視界がぼやけた。

目頭があつくなり、必死で涙を飲み込もうとすればするほど涙が止めどなく出てくる。

私の涙を隠すようにイリス殿下が抱き締めてくれた。

私はイリス殿下の腕の中で嗚咽を漏らしながら泣いた。

本当は悔しかった。魔力がないだけで蔑ろにされる。そんな理不尽さが嫌だった。

私だけが異質みたいで、人間じゃないと言われているようで嫌だった。誰でもいいから温もりがほしい。ここにいて良いと言ってくれる人が一人でも欲しかった。

この人は、私の側にずっといてくれるのだろうか。

イリス殿下の腕の中で彼に視線を向けると、目が合った。

ふんわりと優しく微笑まれ、頭を撫でられた。

とても大きくて、優しい、温かな手だ。この温もりにずっとくるまれていたいと思った。

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