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精霊に愛された少女の妹は叶わないからこそ平凡を願う  作者: 音無砂月


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「いやぁ、素晴らしい庭ですね」

ニコニコと話しかけてくるライセル子爵に私は顔がひきつらないように注意しながら庭を誉められたことに対する感謝を述べた。

視線をわずかに動かしてミランダがライセル子爵の死角になる場所でこちらの様子を伺っていることを確認する。

あまり見ていては気づかれる可能性があるので直ぐに視線を前方の庭に戻した。

「ところでヴィオラ嬢は今回の話、前向きに考えてくださることは可能でしょうか?」

「ライセル子爵、姉は何れは王妃にならなければならない身です。なので、私の夫となる方は必然的に我家を継いでもらうことになります。子爵は既に爵位を継いでいる身です。本来なら私との婚約は不可能です」

って、姉も確か似たようなことを以前言っていた。にも関わらずなぜ子爵を紹介するのか。姉の行動は不可解だ。

子爵はニコニコしながら私の話の続きを待っている。私はできるだけ相手を刺激しないように気を付けながら言葉を紡いだ。

「ですので、今回の話はお断りさせて頂きたいのですが」

「だから嫌いなんだよ。上位貴族ってのは」

「え?」

急に雰囲気と話し方が変わったと思ったらライセル子爵が私の手首を掴んできた。

まるで私を逃がさないように。

彼は力の加減を知らないのか骨がギシギシと痛む。

「お前は無能だからな。お前の父親と姉が言ってたぞ。跡継ぎは親戚から養子で貰うと。お前のような無能が万が一生まれては困ると」

「っ」

痛いのは捕まれた手首なのか、心なのか分からない。

もしそれが本当なら私の存在理由はなんなのだろう。

「恐れながら子爵様。ヴィオラお嬢様のお手をお離しください」

「・・・・ミランダ」

ミランダが私の手を掴んでいるライセル子爵の手首を掴み、力づくで私から引き剥がした。

「ぐぅっ」

ライセル子爵から痛みを訴える呻き声が漏れる。

女であるミランダが男の子爵を力でねじ伏せることは本来なら不可能だ。

だが、今のミランダは肉体強化の魔法を使っている。

ライセル子爵も魔法を使えるはずだが魔法とは集中力を必要とする。痛みで集中できないライセル子爵には魔法を使うことは難しい。

それを予測した上でミランダはライセル子爵を痛め付けているのだろう。

「侍女のくせに貴族に手をあげるのか!」

負け犬のごとくライセル子爵が怒鳴る。だが、ミランダはそれを失笑した。

「上級伯爵家の使用人が平民だとでも思っているのですか?この屋敷にはあなたよりも位の高い使用人なんて山ほどいますわ」

使用人をするのは礼儀作法を学ぶことを目的とした未婚の貴族令嬢か、未亡人となった貴族もしくは働く必要のある下位貴族となる。

「私の家はあなたと同じ子爵家ですが、私の姉は伯爵家に嫁いでいます。この意味がお分かりですか?」

今度は悔しさを訴える呻き声がライセル子爵から漏れた。

上位貴族の恩恵に与りたい人の中には愚かにも手段を選ばない人がいる。

そういう人達から守るためにも上位貴族は上位貴族の血筋から使用人を選ぶようになっている。

「ご理解頂けたのならお引き取りください」

「こんなこと、伯爵が許すとでも思っているのか」

苦し紛れのいいわけにも聞こえるが、彼の目には明らかの勝利への道が見えているようだった。

本来ならこんなことを両親が許すわけがない。

でも私は魔力を持たないから後ろ楯がないのだ。

握り締めた拳に力が入る。

怖かった。

私のためにミランダはその身を呈して守りに来てくれたのに私はその彼女を守る力が無さすぎる。

私のせいでミランダが傷つくかもしれない。そう思うと怖くて仕方がなかった。

「私の主人はヴィオラお嬢様です」

毅然とした態度にライセル子爵は舌打ちをした。少し脅せば引くと思ったライセル子爵にとってミランダの態度は予想外だったのだろう。

「ふん。まぁいい。どのみちこの話は既に決まったも同然。故に寛大な私は今回のことは許してやる。その代わり、結婚したら覚悟しておくことだ」

ミランダの手から逃れたライセル子爵は痛めた手をさすりながらニヤニヤとまた嫌な笑みを浮かべた。

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