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イリス殿下とのお出掛けは楽しかったけれど、ドキドキがいっぱいで私の心臓は破裂寸前だった。
でも、終始嬉しそうな顔をしているイリス殿下を見ると私まで嬉しくなった。
何でだろう?
初めてできた友人だからかな?
よくは分からないけどこんなに楽しい日というのは生まれて初めて味わったかもしれない。
だから私は帰ったら直ぐにミランダに報告した。
ミランダは終始ニコニコしていて「良かったですね」と言ってくれた。
「星も、とても綺麗だった。また見てみたいわ」
「イリス殿下とまた行けたらいいですね」
「そうね」
でもそれはきっと難しい。
姉は反対なようだし。姉がそれを両親に言ったらきっと即決で採用される。
そうなれば今日のような日を過ごすことはもう二度とないだろう。
別に姉のように王妃になりたいわけでも贅沢な暮らしがしたい訳でもない。
ただ、『幸せだな』って笑って言えるような日々を送りたい。
それはそんなにも難しいことなのだろうか。
「ミランダにもお土産があるのよ」
私はそんな心を圧し殺して笑顔でミランダにクッキーを渡した。
これは王都で形が可愛いと評判のクッキーだ。
今までのクッキーは丸いものしかなかったけど、そこにはハートや星形など様々なクッキーが並んでいた。
買うのをとても迷ってしまうお店だった。
「まぁ!ありがとうございます。とても可愛らしいクッキーですね。食べるのが勿体無く思えてしまいます」
良かった。ミランダ、とても嬉しそうだ。
今日はとても幸せそうな気持ちで眠れそうだと思った。
でも、現実はそこまで甘くはなかった。
私の部屋のドアがノックされた。
ミランダは私があげたクッキーをポケットに仕舞い、対応する。
来たのは邸で雇っているメイドだった。
「旦那様がお呼びです」
メイドはそれだけ言って、一礼して去っていった。
「お嬢様」
私のテンションは一気に下降。
ミランダは心配そうに私を見つめる。
まだ用件を聞いたわけでもないのに嫌な予感がするのは、笑って父の執務室を出たことがないからだろう。
「行ってくる。ミランダはここで待っていて」
「しかし」
「大丈夫だから」
渋るミランダを安心させるために私は笑って部屋を出た。
扉を閉める際に見たミランダの顔は不安でいっぱいという顔だった。
私は安心させるために笑ったつもりだけど失敗したのだろうか?
鏡を見て笑った訳じゃないから実際に自分がどういう顔で笑っているのか確認できないから少し不安。
貴族の嗜みとしてしっかりと笑顔を作れるようにならないと。
私は毎日朝、鏡を見て笑顔の練習をしようと決めて、父の執務室の前に立った。
立つだけで緊張する。私は深呼吸をしてから扉をノックした。
直ぐに執事のマイラーが扉を開けてくれた。
私は緊張で止まりそうになる呼吸を意識して行う。
鉛のように思い手足を動かして何とか父の前に立つ。
「リリスからお前の縁談について提案があった」
どきりと心臓が嫌な動きをした。
なぜか脳裏にはイリス殿下の顔が浮かぶ。
するとなぜか泣きたくなった。
イリス殿下とは烏滸がましいかもしれないけど親しい友人のような関係を築いているだけなのに。
きっと、初めてできた友人だから甘えているのだろう。
それではダメだ。イリス殿下に甘えるなんて。
「近々場を設ける」
「はい」
これは決定事項。私に拒否権はない。
「これが相手のプロフィールと肖像画だ。相手のプロフィールは頭に入れておきなさい」
父の冷たい声が私の心をどんどん冷やしていく。
私は父の言葉に対して「はい」としか言えなかった。
「用件は以上だ。下がれ。ああ、それと。隣国の王太子と仲良くなったなど、くだらない妄想は金輪際するな。自らの惨めさを晒すなど、愚かとしか言いようがない」
「・・・・失礼しました」
私は父に肯定の返事をする代わりに執務室から退室した。




