アーサーはまじめにアドバイスを聞けない
少しずつまじめな雰囲気を醸し出すようになってきました。ふう。でも友人が言ったんです「これって、わかる人が読めば意味深なんだよね」ふざけないでくださいよ、どこが意味深ですか。そう考えてるあなたの脳みそが意味深ですよ!
「いいか、小僧。伝説の扉というやつを夢見るな」
「・・・なんでですか」
「あれは伝説の扉ととても呼べない代物。その返り血を浴びるが最後、二度と獅子に戻れぬ。お前が抱く淡い夢も必ずや砕けるだろう」
「・・・」
息子、アーサーはじっとエクスカリバーをにらんで決して視線を外そうとしなかった。
「あのなあ、アーサー。人様がアドバイスしてやってんだ。少しは聞く態度を示せよ」
「・・・」
「すまんな、ヤマト。こいつ最近難しい年齢でねえ」
「フン、よく言うぜ青二才が」
ヤマトはみずからの聖剣、草薙を大切そうに撫でた。僕は視線を友人へ向ける。
「あんたの息子、大人びてんな」
「ああ。皮一枚脱げたみたいでよお。こいつも戦に明け暮れる日々を欲しているようだ」
「それほどなのか、伝説の扉って・・・」
「・・・うん。戦う前はきっと、今まで訓練とかで培った知識を全部開放して相手を逝かせてやろうと思っていたが、その実逝かされたのはこっちだったというわけ」
「だれがうまいこと言えと」
「父さん、もう帰りましょう」
アーサーが聖剣を握って縮こまっていた。これが『猛者』か。まるで目の前の獲物をすべて喰らおうといわんばかりのヤマトの雰囲気。ちびるぜ。
「おいおい、来てからまだ1時間も経ってないぜ、こうして久しぶりに会えたんだ。お手合わせ願おうじゃないか」
「・・・お断りします。以前のあなたならそんなことはしなかった。弱い者いじめはいやだって」
「へえ、自分で自分を弱いものと認めて引き下がるとは殊勝だ。だがそうもいかないようだ。クサナギがそのエクスカリバーと共鳴してやまなくてよお」
自らの腰に据えるクサナギを見やるヤマト。アーサーはあからさまに拒否の表情をみせた。
「気色悪いです。はじめてエクスカリバーを向けるのはまともな伝説の扉と心に決めているのですから」
「まともってなんだ? 伝説の扉にいいも悪いもあるのか? 御自慢の聖剣をぶち込むだけだろ?」
「・・・あなたが受けた返り血はクサナギの認識ごと変えてしまった。そんな伝説の扉に僕はエクスカリバーをぶち込みたくない」
「なんでだ? さっきも言ったがあの戦いに夢は抱くなよ? いい感情が割り込む暇なんてない。どちらが先に逝くかの真剣勝負だ。キャハキャハしながらの戦いなんて反吐が出る」
「僕はキャハキャハした戦いを望んでなんていない。 ただ・・・後悔したくないからだ」
「ん?」
アーサーのその言葉に、僕と友人は目を合わせた。
「僕の聖剣はまだ、戦いを知らない。それは『猛者』であるあなたから見たらまだ若いかもしれません。でもはじめての戦いが、後悔しか残らないような戦いなんて、僕は御免です」
「戦いに感情が入る余地なんてないといっただろうが?」
クサナギを抜こうとするヤマト。アーサーはまだエクスカリバーを構えない。
「さっきからきれいごとばかり聞いていたらムズムズしてきた。これが最後の忠告だ。伝説の扉に聖剣をぶち込む行為に夢を見るな」
クサナギが刀身を覗かせた。エクスカリバーがぶるっと震えるのが親である僕にもわかる。アーサーの体中を小刻みに走る震えもわかる。恐れているのだろう。
「あなたは、伝説の扉にクサナギをぶち込みたい一心で戦いに挑み、『猛者』へ身を窶したのでしょう。きっと伝説の扉は、あなたにぶち込まれるのを待っていたのではないでしょうか?」
「なにをほざくか。あの伝説の扉が、自らを斬る存在を待っていただと?」
「父さんとの訓練を重ねて僕は思うんです。伝説の扉とのはじめての戦いに対する感情は、伝説の扉を想うべきであると思うんです。それできっと、返り血は浴びなくてすむでしょう」
「想い、だと?」
ヤマトの顔が強張る。クサナギを鞘に納めるが、表情はより闘気を露わにしていた。これ以上は危険だと思い、友人が割って入る。
「はいはい、そこまで。ヤマトもアーサーもそれぞれ思うところがあるんだろうね」
「邪魔をするな、景行」
「アーサーも、落ち着け。ヤマトタケルの言うことは間違ってない」
「なぜですか、父さん」
「ヤマトタケルなりのアドバイスってやつだ」
アーサーはきっとヤマトタケルをにらむ。腕を組んで仁王立ちで顎をあげて見下すヤマトタケル。これは一触即発といえる。
うわさに聞いたことがある。聖剣同士のぶつかり合いがごくたまにあることを。そんなことあるのかと疑問に思ったが、伝説の扉に拒絶され、正気を失った聖剣使いが血を欲するあまりにその行為に及ぶという。
「聖剣使い同士の戦いを好む野郎もいるが、それは伝説の扉より深い業を背負うことになるぞ」
「ほう。景行よ。その話を聞かせてくれ」
「伝説の扉相手に繰り広げる戦いは、聖剣が折れるか、伝説の扉にぶち込むかどっちが先かの話だが、聖剣使いとなると、ぶち込む先が別のものに変わる。俺とてまだ見たことはないが、こう呼ばれている。『深淵の闇』と」
「深淵の闇・・・」
アーサーがぴくりと反応する。ヤマトタケルもわずかに視線を揺らす。なんだ二人とも。
「その闇は、聖剣をいくらぶち込もうが、決して消滅しない。つまり聖剣が折れるまで続くということ」
「待て、『深淵の闇』はどこに現れるんだ?」
「・・・聖剣使いの背中に現れるという。急所といった感じだろうか。自分で自分の闇を覗くことはできないらしい」
「そんなことってあるのかよ・・・」
「父さん、帰りましょう!」
アーサーがしびれを切らしてきたようだ。こういう時はまだ幼い一面を見せるアーサー。その姿が、ヤマトの言う通り、いつか戻れなくなると思うと心が軋む。
「なあ。アーサー」
殺気を覗かせていたヤマトの声色が柔らかくなる。
「俺にも、お前のような感情を持ってクサナギを磨き倒していた時代があったさ」
僕と友人はヤマトに視線を注いでいたが、アーサー一人、向けなかった。
「あの戦いが終わってどれだけの月が流れただろうか。気づけば、クサナギは新しい血を欲している。だがその使い手である俺は最初は戸惑ったが、いずれ楽になる。もしお前が『猛者』になってしまった時が来たら、俺がお前を受け入れてやる」
ヤマトもなんだかんだ言って、若き獅子のアーサーを心配しているんだな。でも最後の一言から汚いスメルがするのは気のせいだということにしておこう。『猛者』ってそういうことなの????
「・・・」
アーサーは返事をせずに僕の手を引いて、家を出た。僕は一礼して後を追う。
「珍しいな。ヤマト。お前が優しさをこぼすなんて」
「・・・同じ過ちを犯す獅子を見たくないだけだ。そうだろう?クサナギ」
クサナギを抜き、語り掛けるヤマト。それを見た友人は、はるか昔、アーサーのようなことを元気よく話していたヤマトを思い出した。そうだ、こいつは好きで『猛者』に身を落としたわけではない。
「それにもしあいつが同じ世界へ足を踏み入れた時は、真っ先に俺がその闇を更に黒く染めてやろう」
9話完結を目指します。ん?あと6話? ヒェッ・・・