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僕とアーサーとエクスカリバー

エクスカリバーを磨くのが日課になってるとか噂を聞きましたが、違いむす。

「父さん、お出かけになられるのですか?」

「ああ。気分転換にな」

「では僕も参ります」

「うむ、最近の訓練で疲れているだろう。たまには羽を伸ばすのも悪くなかろう」

「今回はどこへ行かれるのですか? 遊郭?」


 我が息子の原動力は性欲だ。これは親である僕からでもわかる。そして、僕の原動力も恥ずかしながら性欲だ。蛙の子は蛙というよね。似た者同士わーお。


 ドアを開ける。風に乗って遠くの木々の香りがこんにちはしてきた。文字通り、いい天気だ。ということは、獲物が跳梁跋扈することを示す。そこを僕は狙うというわけだ。

 ぐへへ、っといかんいかん。親の興奮を子は敏感に感じ取り、一定値を超えるとエクスカリバーを放出させてしまいかねん。こらこら、言ったそばからエクスカリバーを抜こうとするな。上を向かせるな、下を向け。人生たまには下を向いたっていいじゃないか。上を向くのも大切だけど何か間違えている気がする。


「おはようございます。いい天気ですね」


 突如、甘い香りとともに声がした。隣の家の塀の向こうから、肩まで髪を伸ばしたメガネの若奥さんが顔を覗かせていた。


「そうですね。いますぐ脱ぎだしたくなるくらいですね」

「ふふふ、言うようになったじゃない」

「何言っているんですか、僕ももう大人ですよ」


 若奥さんは童顔な顔つきをしており、華奢な体つきをしている。すでにアーサーが血眼になってエクスカリバーを抜かんとしているあたり、感服する。この人は、僕とアーサーが出会うきっかけとなった人物である。これまで何度か訓練でアーサーと対峙させた。ま、全戦全勝だったが。それでもその風格は衰えていない。ありがとうございます。

 気づかれないように親指を立てておいた。


「父さん、まだアレを使わないのですか?」

「まあ落ち着け。せっかく獲物が向こうから近づいてきた。急いては事を仕損じるだろう」

「そうですね。期待していますよ」


 この時のアーサーは獲物を見据えた猟師の顔つきをしている。我が息子ながら頼もしく、そして恐ろしくさえ思える。


「今日は朝からお出かけ?」

「はい、いい天気なので」

「若いわね。お姉さん、もうそんなに元気が残っていないわ」

「元気なんていつでもあげますよ」

「うれしいことを言ってくれるわね」


 軽いセクハラ発言だったかと口を押さえたが彼女は笑っている。この笑顔で僕はかつての暗黒時代を耐えヌイた。そう、耐えヌイたのだ。


「では、散歩いってきます」

「いってらっしゃい」


 手を振ると、振り返される。いつも通りの光景に踵を返し、家を離れる。


「父さん、結局使わないのですか?」

「よい。お前も見たであろう。手を振ってくれた時の彼女の表情を。それを拝めただけでも十分な収穫であろう」


 アーサーは考え込み、満面の笑みで返した。


「そうですね。あの表情をエクスカリバーでめちゃくちゃにしてやろうと思うと、楽しみです」

「よろしい」


 アーサーを見やる。いつか必ず喰ってやろうという決意を秘めた眼をしている。いい眼だ。今日も我が息子は支障なく成長をしている。一方で、親である僕は大切な一人息子を人妻好きに目覚めさせてしまったという責任を感じた。まあ、俺も人妻は嫌いじゃないよ。


「それで、行き先をまだ聞いていませんでした」

「ああ。そうだったな。友人のところへ出向こうかと思うんだが」

「友人、ですか・・・」


 むっとアーサーは険しい表情をした。無理もない。聖剣エクスカリバーをもつ息子は数多くいる。友人もその一人なのだ。日々の訓練でアーサーが目まぐるしい成長を遂げると同様に、友人の息子もまた成長しているのだ。スタン〇使いは引かれあうというようにね。

 

「まあ、そう怖がるな。同じ聖剣使いだ。仲良くしてやれ」

「あまり気は進みませんが、社会の勉強としてならいいでしょう」


 ふんと鼻を鳴らすアーサー。よほど自分のエクスカリバーに自信があると見える。だがその自信も案外本物かもしれない。先ほど見せた野獣のごとき眼光は親である僕をも震え上がらせた。


 だが、これから会う友人の息子は、同じ聖剣使いにして異なる聖剣使いだ。この世界でいう『猛者』に覚醒してしまった。その知らせを聞いたとき、僕は友人を祝福しようとしたがアーサーは快く思わなかった。問い詰めたところ、若き頃のその息子は『賢者』になって一途な人生を歩みたいと話していたからだ。その生きざまに我が息子はあこがれを抱いていたからこそ、強い裏切りを受けたような気持ちになってしまったのだろう。

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