39 吸盤ホテル
結局、シルフィがリアの所に行った。
「おい、おい、起きろ、おい」
鞘に入った状態の剣先でリアをツンツンつつく。
「な、なんなのだ?我は今寝てーーうぉっ、剣聖!?こ、殺さないでほしいのだ」
「……おい、ライナ、こいつ起きたぞ」
「あー、リア?もう大丈夫なの?あなたえげつない動きしてたけど」
「何の話なのだ?確か我があの枝を持った瞬間、意識が遠のいてーーあ、そうだったのだ!トライデントは!?あと、剣聖はなんでここにいるのだ?我はいつ殺されるのか、ビクビクしてるのだ」
そういえば、リアは意識を乗っ取られていたんだな。
「……シルフィと呼べ。あと、お前のことはもう攻撃しない。あ、アタシが悪かった」
「えっと、リア、本当に何も覚えてない?」
「全くなのだ」
「……リア様、あの枝の正体はーー」
リアが槍を手に入れてから現在に至るまでをエイレーネが全部説明してくれた。
「ーーという感じでした」
「うぅ……。それは悪いことをしたのだ……。その神様?が来てなかったら今頃世界が滅んでたかもしれないのだ」
「うん、冗談抜きでそうかもしれないね……。しっかり反省してください」
「わかったのだ……」
そんな感じで、海底の村の騒動は解決しました。めでたし、めでたしーーじゃなかった!
「ねぇ、私たち帰れるの!?」
「あー、それは多分大丈夫なのだ。我は今からこの海底の村の歴史書に記述しないといけないからエイレーネ、送り届けてくれるか?」
「かしこまりました。では皆さんはわたくしについて来てください」
エイレーネに連れてこられたのは、村の端っこの海水との境目あたりだった。
「ちょっと待ってくださいねーー」
エイレーネがそう言うと、どんどんエイレーネの体が大きくなっていき、最終的に巨大なイカの姿になった。
「あれ?あなたも巨獣型の魔族なの?」
「正確には、獣型などの判断はセキツイ動物かどうかなので、わたくしは巨獣型ではなく、巨獣型モドキ型の魔族です」
「巨獣型モドキ型……」
なんだそれ!
「あらかじめ言っておきますが、この辺りの海流はとても荒いです。ライナさんやシルフィさんならともかく、普通の人が一度巻き込まれると、永遠に海中をさまよい続けることになってしまうので、絶対にわたくしから離れないでください。あ、魔法は各自でお願いします!」
「ライナ、頼む」
「はいはい」
エイレーネに乗り込む三人に魔法をかけた。
「ライナ様、ワタシは自分でできますよ」
「あ、そうだったね。まぁ、貸し1ってことにしといて」
「じゃあ、また今度エイレーネさんから教わったシーフードカレーを作ります」
「いつの間に教わったんだ!」
「それでは、この足の吸盤に乗ってください」
エイレーネが足を一本差し出してきた。
とりあえず、一番大きな吸盤に乗り込むと、なんかホテルの一室みたいなのがあった。ベットとか、色々ある。あと、置かれている机になんかお菓子と一緒に書いてあった。
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海底の村銘菓 デンキエビせんべい
ちょっとピリっとくる食感がクセになります。
お酒のおつまみにはぴったりです。
是非。
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「なんて本格的なんだ……」
「ちょっと食べてみる?」
「エイレーネさん、いいですか?」
「ご自由にどうぞ。室内にあるものはなんでも使っていただいて構いません。地上までは、1時間ほどかかります」
「ど、どうも……。ありがとうございます」
「あ、またじゃんけんで決めない?誰が食べるか」
「いいですね!」
「返り討ちにしてくれるわ!」
「「「じゃんけん、ぽい!」」」
結果は、俺がパー、カズサがパー、シルフィがグーだった。
「ぬぉっ!?」
「じゃあシルフィ、お願いね」
「いや、納得いかんぞ!紙は石に包んだらーー」
「はいはい、さっきカズサも言ってたでしょ」
あれ?ほとんど同じの会話したような……。気のせいかな?……うん、気のせい、気のせい。
「じゃあ、食べるぞ」
ぱくっ。
「うん、普通にエビせんべいの味ーーあばばばばばばばっ!」
急にシルフィがぶっ倒れた。
「こ、これ、「ピリッと」の意味が違うし、色々とおかしい……」
「どうしたの!?」
「……舌に触れた瞬間、体中に電流が流れた。めっちゃ痛い。痺れて動けん……。お、お前らも食え」
「いや、まぁ、じゃんけんに負けたあなたが悪いでしょ……」
「宿屋にこんな菓子置く所があるか!?」
うん、ないな。
「えー、皆さん。そろそろ出発しますね」
エイレーネがそう言うと、吸盤の側面からシャボン玉みたいなのが出てきて、完全にドーム型の密室になった。
「それでは、出発します!」
地鳴りと共に、クラーケン形態のエイレーネが海の中に入って上昇し始めた。
「到着は1時間後を予定しています。海の旅をごゆっくりお楽しみください」
「ふぃ〜。快適だね〜」
「快適すぎるだろ」
「ですね〜」
シャボン玉のおかげで水が入ってくることはないし、外に魚とか、色々いるおかげである意味で水族館みたいになってる。
ベットに寝そべりながら、仰向けで景色見れるって最高だろ。
そんな時、急に景色が真っ暗になった。
「なんだこれは?急に真っ暗になったぞ」
「ちょっと確認してみるね」
そう言って俺は「光操」を使って辺りを探る。
「これってーーリヴァイアサンじゃん!」
「ライナたち、10分ぶりなのだ」
「なんで来たんだ?」
「まぁ、人間形態で話すのだ。ちょっとエイレーネ、ストップしてくれ」
「了解です」
エイレーネがストップして、リアが人間形態になってシャボン玉の中に入った来た。
シャボン玉高性能すぎる!
「あー、ちょっと問題が発生したのだ」
「どうしたんですか?」
「いや、まず、お前ら魔法陣で来て、時間が狂ってたんだろう?」
「そうだよ」
「地上に戻る時に、お前らがもう1人いることになるぞ?神様が魔力の乱れも消したのなら、ちょっと面倒な事に……」
むっ。ちょっとまずいんじゃないか?
「えー!?どうすんの!?」
「ワタシたち以上に、アキアちゃんたちが混乱します!」
「まぁ、最悪、地上のお前らを倒せばいいだろう。アタシもいるし、何とかなるんじゃないのか?」
「いや、私とカズサだけだったらいいんだけど、娘たちがいるから……」
「お前っ!?娘だと!?……旧友が性転換してたと思ったら、今度は人妻か!」
「違う!違う!ちょっと訳があってーー」
俺はアキアとナツナの事をシルフィに説明した。
「ーーという訳なの」
「なるほどな。じゃあ、そのアキアとナツナはお前が本当のお父さんって事を知らない訳か」
なんか、17歳の女の子の見た目で「お父さん」は嫌だな。
「……それで、地上に戻ったらどうなるのだ?」
「あ、もしかして、もしかしたらだけど、神様がその辺りも何とかしてくれたんじゃない?」
「……もう、それに賭けるしかないのだ」
結構ピンチ。
「とりあえず、リアも地上まで着いて来てよ」
「わかったのだ。……という訳だから、エイレーネ、我も乗せていくのだ」
「かしこまりました」
エイレーネがまた動き出した。