22 まさかの○族!
いつも通り、俺はギルドに向かう。
「おはようございまーす。クエスト何か入ってますか?」
「ライナさん……昨日やったばかりですよね?もう受けられるクエストはないーーいや、あります!ひとつだけ!」
当時15歳ぐらいだったアンさんも、すっかり大人だ。
「なんか、腕試ししたいって人がいるようです。最近、対人戦もなかなかないのでやってみては?」
確かに。ここ数年やってないな。
「ちなみに、男性2人で、ライナさんにも勝てる自信があるみたいです」
……よほど強いのか、それともよほどアホなのかの二択だろう。
まぁ、やることもないし、受けるか。
「じゃあ、そのクエスト受けまーー」
そんな時、外で大きな音がした。
慌ててアンさんと外に出ると、そこには見覚えのある顔が立っていた。
「……ライナ?」
「多分、そうだね」
自害転生する前、俺を殺そうとしたあの2人だ。
確か、両方ともレベルは200ぐらいだっただろうか。
「……腕試し、受ける?」
「といっても、殺し合いだけど」
周りを見てみると、近くの家が焼けている。
どうやらこの2人のうち、目が赤い方がやったらしい。
俺は水魔法で周りの火を消しながら言った。
「これをやったのは、貴方たち?」
「……だったら、どうする?」
「腕試し、受けてあげる。そのかわり、場所は移動しても構わないよね?」
「……どうする?」
「まぁ、いいんじゃない?」
俺は2人と村から300メートルぐらい離れた荒地に向かった。
○
「こっちは準備いいよ」
俺がそう言ったとたん、2人は魔法を展開し始める。
予想通り、片方が火操魔法でもう片方が水操魔法を使っているようだ。
2人の魔法が飛んできて、目の前まで来たところで魔法で爆風を巻き起こしながら相殺する。
砂埃で周りが見えないので、一応奇襲に備えて防御魔法を展開しながら、反撃の準備をした。
「……やった?」
「どうだろ?」
「「……え?」」
砂埃の中、俺はさっき2人が放った魔法の30倍ぐらいの威力の魔法を展開する。
「魔法って、こういうのじゃない?」
決めゼリフと共に俺は2人に向かってそれぞれ水と火の魔法を放つ。
前世の俺の敵討ちだ。
レベル200程度の素早さでは避けられないし確実に倒せる。
「……直撃だな」
そう言って風を起こして砂埃を払い、2人の状態を確認する。
「嘘……」
2人がどこにもいないのだ。
「ライナさーーーんっ!!!上ぇぇっ!!!」
村の方からアンさんの声がした。
言われた通り、上を見てみると、100メートルぐらい上空に魔法を展開する2人がいた。
「……バレたみたい」
「とにかく、いくよ!」
最初に放ってきたものとは比べ物にならないぐらいの威力の魔法が飛んできた。
「さすがに、二つは無理か……」
俺は「風操」で自分の体を浮き上がらせ、回避しつつそのまま2人がいるところまで上昇する。
「あなたたち……魔族?」
ツノと翼が生えているし、魔力反応も魔族のそれだ。
だいぶパワーアップしたらしい。
「フン、だったらどうした!?」
「お前が負けるという未来が確定したんだ。これ以上語るまい」
青い目の方はもともとだったが、赤い目の方はめちゃくちゃ口調が荒くなっている。
俺の残り魔力も少ないし、本当に負けるかもしれないな……
昨日調子に乗って魔力9割消費しなきゃよかったなぁ。
風操魔法でも、空中での機動力は魔族ほどないし、そもそもあまり知られていない技だ。
こうしている間にも魔力はガツガツ減っていくし、何か策をーー
と思ったら、いきなり水の塊が飛んできた。
「くっ……!」
俺は飛んできた魔法に対して電気を流し込む。
魔法の属性には、火、水、雷、地、風、氷、闇、光、無がある。
無属性以外は、それぞれ相性があり、水魔法に強いのは雷魔法だ。
予想通り、相手の魔法は消える。
コンマ数秒後、今度は火の塊が飛んできた。
今度は水操魔法でーー
ドォォン!
「えっ……」
俺に当たる直前、急に爆発したのだ。
とっさに「風操」を解除し、防御魔法を展開した俺は爆風で吹き飛ばされ、そのまま地面に落ちていく。
普通、魔法で爆発を起こす時は、その分の魔力を余分に込めないといけないし、魔力反応がわかりやすいので、簡単に避けられしまう。
だが、今のは爆発するような魔力反応がなかったのだ。
俺はさっき水魔法に電気を流し、その後飛んできた火炎に水魔法をーー
あっ!
水に電気を流すと、電気分解されて酸素と水素にーー
つまり、爆発を起こしたのは、魔法ではなく空気だったということか。
残り少ない魔力ですべきことはひとつ。
火炎が飛んできた時は避け、水魔法が来たら、電気を流し、散った水素と酸素を風魔法で集める。十分に溜まったら一気に近づいて火炎を展開、そして一気に爆破だ。
「くっ、小賢しい奴め!」
「何故当たらないっ!?」
上空から迫ってくる魔法を避け、分解し続けることおよそ10秒。
こちらの爆破用意はもう十分だが、さすがに2人もイライラしているようだ。
「「ハァァッ!」」
水と炎の弾幕が止み、2人が巨大な魔法を展開する。
どうやら短期決戦に持ち込むようだ。
だが、こちらとしては好都合だ。
俺は足元に結界を作り、それを踏み台に飛び上がった。
今作った結界は、言わばトランポリンのようなものだ。
空中で一気に加速した俺は溜め込んだ空気と炎を2人に向かって打ち込んだ。
先に異変に気付いたのは青い目の方。すぐさま魔法を解除し、逃げる準備をするため、翼に魔力を込め始めた。
「ぐっ……!」
青い目の方ほギリギリ回避に間に合い、この場所の離脱に成功したようだが、赤い目の方は直撃のようだ。
凄まじい爆発を喰らった赤い目の方は、無防備のまま地面に落下した。
「逃げたか……」
相手の魔力もほとんどなかったようだ。
「情報収集で一応縛っておくか」
倒れ込んだ赤い目の方を見ながら言った。
一応、顔を確認しとくか。
そう思い、ずっと被っていたフードをめくろうと、ゆっくり下降していくと、急にめまいが襲ってきて、意識を失った。
どうやら魔力切れのようだ。