超能力よ来い!→来ない
外出したりちょっと軽く一話増やしてたら予定通りに行かなかった……。
「ん〜〜〜〜……うーーーーん……」
「何ウンウン唸ってるのよあいつ」
「ぼくらのこと完全に忘れてるよね。興奮するね」
「さも当然のことのように私に同意を求めないでよ。……それにしてもひどいわね」
何やら聞こえるが、今はそれどころではない。
……って言うかさ。マジでこんなことやって本当に超能力とか発現できるなら、他の人だっていくらでもできんじゃねーの?
胡散臭い何やらに騙されているだけで、ほんとは超能力なんて一切ないんじゃねーの?
そんな嫌な想像を首を振って払おうとするも、むしろそうなんじゃないかと思えてくる。昨日きつく当たったせいで、戸谷は来ていない。
俺は腕を組んで、授業の始まっていた教壇を見つめる。
「おうどうした新田。そんなに熱烈に見つめるからには当てて欲しいんだろう?」
「うーーーーん……」
「この問題……って聞いてねえや誰か揺すってやれ」
「ちょっと新田くん大丈夫?」
「先生そろそろキレそうなんだけど」
げんこつを貰ってもまだ唸っていたと言うことを後で聞いた。すまぬ。
だが、今の俺ではらちがあかない。俺は連絡先を受け取っていたみゆちゃんにメッセを送ってみる。
『超能力使うってどんな感覚ですか?』
『うまれたときからつかえるからわかんない』
プルプルしながらヤシロさんの返答を見る。
『その場のノリ』
「参考にならねえええええ!!」
「新田が発狂し始めた!メディック!メディーーーック!」
衛生兵呼ばれた。
「……ぜぇ、はぁ……」
「どうしたのよ。様子がおかしいってレベルじゃないわよ?」
俺自身そうそう使えるとは思っていなかった。けれど、なんだかんだ言って、すぐに色々できるようになるとそう思っていた。
だから戸谷もあそこまで煽っていたわけで。
「あれ?そういえばどうして櫻子さんはあんなに詳細に使い方を言えるんだ……?」
「ちょっと聞きなさいよ!……グスッ」
おかしい。絶対櫻子さんは何か隠している。俺は両手をぎゅっと握りしめて、メッセを送り電話での約束を取り付ける。
夜の七時から七時半までしか受けないそうだ。
「こんにちは」
『あら、こんにちは。今日はどうかしたのでしょうか?』
「あの……全然発現しなくて、ですね。一度ドッキリを疑うレベルで行き詰ってます」
『そうでしょうね。アレはたくさんあった方法の一つに過ぎませんから』
「一つ……?」
『少し、昔話をしましょうか』
セナは過去、人質に取られて意識をなくした。なんだかんだ言って長い時間寝ていた彼女だったが、起きてみて能力が沈黙していることにパニックになりかけた。そこで『能力が目で見える』櫻子さんがパートナーとなり、彼女の能力を再発現させたらしい。
「あなたも潜在的には使えるようになっているはずなのですが、今までぐっすり寝ていた子供を叩き起こしても起きぬように、なかなかちゃんと活動してはくれません」
そこで、手を替え品を替えてとうとう全裸であれこれさせていたら戻ったらしい。
「そこで方法が確立できればよかったのですけれど、実際問題近い間隔でいくつかの方法を行っていたものですから、特定には至らず」
「なるほど……だから詳しかったのか」
強い薬の投薬なども行なっていたらしく、超能力発現薬に関してもこの時に櫻子さんが敵側の幹部から奪ったものをセナの体に投与したらしい。しかし一切の反応を示さなかったそうだ。
「結局のところ、わからんってことか。……ん?極限の集中状態……自分と他者の境目、だろ?」
あれ?
これはもしかして……。
「喧嘩、とかいいんじゃないの?」
というわけでやって来ましたアングラな場所。
久しぶりの重ったるい空気に俺は深呼吸までして、ニット帽を目元まで引き下げた。
ニヤニヤしながら歩いていると、ちょうど良さそうな頭のネジのいったような相手が歩いて来た。
「殴り合いができる相手が欲しい」
「ちょうど荒れたのが二番におるよ。……まいどあり」
ひひ、と細い笑いを漏らした男は、ひどく痩せている。先程渡した2000円は日々の稼ぎだ。
本来なら徹底的に管理され尽くした場所で殺しあいたいといえば場所を用意してくれるんだろうけど、これに関しちゃ助けも来ない何にも来ない身ぐるみ剥がれかねない場所でやるのがいいのであって。
まあ命だけは取らないってルールはギリギリある。
倉庫からは怒り狂った声が聞こえていた。久々だ。血が沸騰しそうだ。錆びかけた金属の鍵をみしりと押し上げて、魔王城っぽい音を立てながら扉が開いた。
「よぉ。遊びに来たぜ」
中にいる男は知らない顔だが、俺をみて目を見開いていた。
「人喰い……帰って来やがってたのか」
「おぉよ。高校ってのが存外忙しくてなあ、バイトも始めたんだが、これまた気の合わねえ奴が一緒でな。ってなわけで、ヤろうぜ!」
「テメェの顔面に鉄パイプぶち込んでやるよ!」
互いに一歩ずつ踏み込んで、殴り合う。鉄パイプを手のひらで受け止めながらもう片方の拳がその腹に食い込もうとしたが、なかなか鋭く相手も引く。俺はケラケラ笑いながら、その足元にローキックを仕掛ける。下半身は弱くないと思ったのだが、引いた直後だったためかよろめく。
「っしあぁ!」
「く、っそ!」
拳を鉄パイプで受け止めようとしたので、一瞬迷いが出た。このまま殴れば拳自体が潰れる。
そこを突かれて右足で吹き飛ばすように蹴りを食らう。俺も一度下がりたかったのでそれを利用して吹っ飛んだ。
ただ吹っ飛んだとはいえそう遠くまでではなく、そこから蹴りを入れられる距離だ。しかしながら俺はあえて拳を握りしめて体幹ではなく末端に素早く丁寧に当てていく。相手は防御一辺倒になり、動きが鈍くなる。
その袖が不自然に動いた。
「——っ!」
俺は背後から来ていた二人を回し蹴りで潰した。それはもうもはや反射に近かった。だが、その一瞬で十分だった。鉄パイプのような重たい金属が俺の腹にがっつり食い込み、俺は横に引きずられるように倒れこむ。
ああ、痛い。痛いがこれしき全く問題ない。潰した相手は血を吐いたりしてないし、だいぶん手加減している。
「弱いな、本当に本物なのか?」
「残念ながら本物だよ。ああ、いってぇな。肋に思わずヒビが入りそうだ」
「折ったつもりだったんだがな。悪いことをした」
「はは、ちげぇねぇ。めんどくせぇなあ、折れてると呼吸がしにくいから、ここ狙うなよ」
俺はふう、と息を吐いてニヤつく。しばらくは大きく息をしないほうがいいだろう。浅く呼吸を繰り返して、それから左足を大きく踏み込む。
鉄パイプが髪をかすめるのを無視して、そのまま前に。めり込む拳と、服に擦れる感触。
ようやく輪郭が出て来た。
「はは」
横から薙ぐようにして襲ってくる鉄パイプを上体を半分倒して避けると、そのまま頭突きをするように相手にぶつかる。
「ぎっ……」
タックルとも言えないものだが、それなりに衝撃はあったらしい。二、三歩よろめいてしっかり鉄パイプを構え直す。
俺も体勢を崩していたので、そのまま落ち着いて構える。しかし、いつもと何かが違う。俺は落ち着いているのに、腹の中では熱が蠢いて止まらない。
「そうか。これが」
「何をグダグダ言ってやがる!!」
——わかったしもういいか。
「おやすみ名も知らぬ少年よ」
「ガッ!?……俺の、名前は……」
気絶した。
俺は首をごき、と左右に曲げてから、背伸びをした。
「帰ろ」
その日、俺は櫻子さんの言ったように超能力の発現前段階にこぎつけることができたのだった。
2018.05.19©︎あじふらい
全裸じゃなくて喧嘩。