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全裸、すごく、大事

ひたすら煽るスタイル。

「不意打ちなら、手も足も出ないということですね。とても興味深い。いやはや実に」

櫻子さんは慈愛に溢れた微笑みを向けながら、戸谷の頭をナデナデしている。その手を忌々しそうに戸谷がピッと払うが、「んー?悪い子がいる様ですね」と櫻子さんが笑いながら顔を覗き込むと、大人しく撫でられていた。


櫻子さんマジお母さん。


「今のすごいね!アタシもどーんってやってね!」

「やらねーよ」

アホなことを言っているセナの頭をグリグリ撫でると、はしゃいだようにぴょんぴょん跳ねまくる。トランポリンがあるわけでもないのにジャンプし続ける。


妹が3歳くらいの時はこんな感じであしらっていたなあ、と思いつつ、抱きかかえてブンブン振り回す。

「きゃはーーー!!」

手足を遠心力に任せつつも、大笑いしてはしゃいでいる。その中で、二人が真剣な表情で話し合っていた。俺は難しいことはわからんので、あとは任せてセナをぶん回す。


そういえばセナって幾つなんだ?


不思議に思いつつセナを床におろしてから、握りこぶしに隠した親指が伸びるマジックをしていると、頭をがすんと蹴られる。

「ってーな、何すんだよ」

戸谷がイラついた様な顔をしているが、子供と遊ぶのはこっちが楽しいからじゃない。子供が笑っていると心が温かくなるからやるものだ。


「下らないことばかりしていないで、あなたもまじめにやってください。なんで超能力者なのに超能力が使えないんですか」

「俺が知るかよ。大体超能力を使う感覚すらわかんねーってのに、どうするんだよ」


戸谷もある程度無茶なことを言っていると分かっているのか、一瞬泳がせた目をそらしながら舌打ちをして、腕を体の前で固く組んだ。


「はっきり言って、僕は実働隊の一人です。足手まといが増えればそれこそ、人手不足のこの状況でより周りに負担をかけるでしょう今だって……」

「やめなさい、戸谷くん」


その後の言葉を察して、俺は口をつぐむ。

セナさんと櫻子さんを借り出してきていること自体が負担だと、そう言いたいのだろう。


俺だけが使えないという状況で、ひどく焦燥感にかられる。俺はセナの頭にかけていた手をおろして、どかりと座り込んだ。

言い返せぬ悔しさを覚えたが、ふとあることに気づく。


「じゃお前が具体的な使い方を教えるんだな?」

「は?なぜ僕が。野蛮人に教えるなどと——」

「だって俺と組まされてるってことはそういう役割が期待されてるんじゃねぇの?あとお前なら抜けても穴を埋められると思ったとか」


ぐさりと刺しこむと、うっといううめき声が聞こえてきた。だが俺は「止まるんじゃねぇぞ」とそそのかす心の中の声に従って、追求は止めません。てへ。


「だいたいお前、あれがいけないとかこれがよくないとか言うばっかりで、全く建設的な意見すら出さねぇじゃねーか。上司が無能とかそのレベルだぞ、わかるか?」

「いやそんなことはないでしょう?僕がしているのは忠告であって——」

「いや何もわかってねぇやつに忠告とかまどろっこしいことしてんじゃねぇよ」


せせら笑うと、顔にさっと赤みが走って指がぐっと握り込まれる。

「ただ文句言うのと、教えてから文句言うのは違うだろ。そんな当たり前のこともわかんねーのかよ」

さらに顔が赤くなった。


「俺の求められてることは知ってる、出来るだけ早急に実地で使えるようになることだ。お前の役目って客観的になんだと思う?んー?」

首を左右にひねりながら、覗き込むように煽ると、踵を返して走り去っていった。俺はあーあ、とため息を吐きながらも、櫻子さんに向き直った。


「というわけで、感覚的な感じを教えてください」

「承知しました。ふふ、ここまで戸谷くんを怒らせるとは……彼はなかなか感情表現をしないタチですから。いえ、ナマズの様な人間ですから」

「いやいやダウトですって。バリバリドS陰険野郎じゃないですか」

「ふふふふふ」


含み笑いをしながら、櫻子さんは俺を座らせた。


「いきなり言われても難しいでしょう。まずは、自身と外界の境目をはっきりさせること。これは誰しもやったことがあるでしょうかね、全裸で取り込んだ洗濯物の山に飛び込んでみるとか、裸で部屋の中でいるというのもある意味手です。ちょっと変に思うかもしれませんが、体の感覚を研ぎ澄ますという点では非常に有用です」


部屋でまっぱ……いや、パンイチなら兄貴がやってるから問題ないか。


「次の段階は、体内にある妙なものを探る行為です。そうですね、うまく言えませんが、素っ裸で座禅をして、落ち着いているのに落ち着いていない感覚、それを探ってみてください。自由自在に動かせるようになるまではいくらかかかります」


トイレ行きたくてそわそわする感じってことか?

わからないが、とりあえずやってみて、だろう。


「最後はその感覚を体外に拡張し、思いを込めることですね。こうなってくれとか、こうして欲しいとか願いを込めることによって、現象を起こします。まあ、命じると言った方が伝わりやすいと思います。これも裸の方がやりやすいと思いますよ」


結局全裸推奨なんだこの人!?


「逆に全身を拘束するという方法もあるにはあるのですが……見た目の点でおすすめは、できませんね」

「家族に見られたら死ねますけど結局全裸だと一緒な気がするんですけど?」

「ふふふふふ」

誤魔化して笑いやがったこの人!?


「そういえば名前なんだっけ?」

セナの質問に、ぐりんぐりん頭を撫でて膝の上に抱き上げる。怪我は多少あるが、大したことはない。せいぜいが打撲くらいだ。

「新田桐葉だ。ま、好きに呼べ」

「よろしくきーちゃん。セナはセナだよ!」

「おうよろしくなセナ」

子供は無邪気で、居心地がいい。飾る必要はないし、何より可愛らしくて好きだ。


「セナも働いてんの?」

「書類上は、高校三年生となっています。……ただ、ひどく長い期間眠っていたので、身長とと精神の両方が」

「ああ、そういうこともあるのか。今はどうなんだセナ?」

「どうって何が?セナはセナのままだよ?おかしなきーちゃん。そうだ、セナの宝物見せるね!」


ポケットから出したのは、よく磨かれたどんぐりだった。よくよく見ると、どうも中に虫がいるらしい、黒い穴がポツンとある。

殻が割れたら白い粉を吹くように芋虫が出てくるだろうなあ、と遠い目をしながら愛想笑いをした。


家に帰ると、すでに夕食は始まっていてへこんだ。俺のコロッケ食ってんじゃねーよ。


うちのコロッケは、変わり種もいくつか入っている。揚げると訳がわからなくなるが、中に一度アボガドが入っていたりしてびっくりした覚えがある。

前一度カニだと思って食べたらカニカマですごくがっかりした。


食事を終えて風呂に入って、ふと思い出して服を脱いで全裸になって見る。結構開放感があって……という気持ちにはなれなかった。

「でも、感覚はわかる気がするな」

手を振ってみると、ちょっとぬるい空気が冷たく感じられる。立ち上がって歩いていると、ドアががちゃんと開いた。


「兄貴ちょっと赤ペン貸し…………何してんだよ?」

「あ」


動きを止めたまま、俺は脳みそを絞るようにして一生懸命考えて、ただそんないい案が出せるわけもなく。


「…………全裸、すごく、大事……」

「精神科って救急車でいいんだっけ」

「梨花ちゃんまって君のお兄様はすごく正常だから待ってお願い!?」


今日の成果 妹の軽蔑





2018.05.18©︎あじふらい

全裸推奨(全力)

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