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なんでロリババアとかショタジジイとか上司にいるんだよ

定番。

「そいつが新人ね!待ってなさいそこで!」

たたたたた、と走ってきたのはゴシックロリータと言われる衣装を着て、小さなシルクハットを被っているふわっとしたツインテの少女、だろうと思う。

ただ気になるのが見た目が俺より年下そうなんだけどこの人。

多分ギリギリ中学一年を名乗れるレベルだぞ?


「私は藤岡(ふじおか) 美遊(みゆう)。みゆちゃんって呼ばれてるわ。年は永遠の17歳よ」

「あ、はい、ども……新田桐葉です」


俺は握手すると、嫌な感覚がぴきんと走った。神経が浸食されたような、ぴりぴりする痛みだ。俺はすぐさま手を振り払って飛びしさった。

「いい反応ね。でももう遅いわ、操り人形(マリオネット)さん?」

「ぐぇ!?」

いきなりブリッジさせられて、体が捻じ曲がって腹と喉が苦しい。崩れ落ちたいのに動けない。


「ふぐっ……ぶふぅ、フヒッ、ふひひひ……」

イケメンにあるまじき笑いを漏らしながら、戸谷が地面をドンドン叩いて笑い転げている。動画撮って群がってた女子に見せてやりたいくらいだよねこれホント。

「ぬが、ぐぉお……」

俺がそれなりに柔らかくなきゃ折れてたぞテメェ!

と叫びたいのに口が動かない。


クソが!

なんだこれは!

「ぬぁあああああ!!」

「ぅわ弾くのこれ!」

「ふざけんなぶち転がすぞアホ!!」

いきなり何しやがると叫ぶが、相手はニヤニヤ笑って頷いているのみ。戸谷は顔が失礼だと思うけど笑いの発作は治ったらしい。


「……能力総量はだいぶ高そうね、組ませる相手も限られてくるんじゃない?」

みゆちゃんがくるりと戸谷の方を向いて笑うと、戸谷もそれににこやかに頷いた。

「そうですね、忌々しいことに能力は高いようで。だからこそ俺と反発をしたんでしょうけど」

「俺の切実な訴えを聞けよ!?」


取り合ってもらえなかった。


「……ってなわけで、俺としてはひっっっじょーにめんどくさいけど、体力測定ってこったな」

「そうですね。まずは走ってもらいます。瞬発力と、それから持久力をみます。が、疲れたら早めに言ってください。あなたの代わりはいくらでもいますよ」

「お前戦力外通告はここに招く前にやれよ。迂闊に抜け出せねー地点じゃねーか」


戸谷の顔に一発きついのを突き込んでやりたいところだが、うっかり歪ませると女子を怒らすのでやめておく。

代わりに後で腹パンすることにした。


「っと、僕はそろそろ失礼します。定時なので」

「……就業時間終わり!?」

「いやいや、これからお仕事があるんですよ。未だ採用試験の終わってないあなたとは違うんですよ、僕は」

いちいちトゲのある言い方をしやがって。

俺はそれに舌打ちで返すと、相手が立てた親指ですっと首を横になぞり、下へぐっと向ける。


俺はそれから奴のいない空間でストレスフリーに体力測定を行った。単純に飛んだり跳ねたり走ったりパンチングマシーン殴ったりしただけである。

それなりに見られる結果を残したので、みゆちゃんも驚いていた。

「そういえば、ブリッジの時もどこか痛めたとかはなかったものね」


「みゆちゃん冗談キツイぜ。これでもそれなりに鍛えてる。体育の成績がちょっと微妙なのは、球技が全般的に苦手だからだ。ノーコンだ」

具体的にはバドミントンのラケットにシャトルが当たらない。

ちなみに陸上部は諸事情によりうちの学校にはない。柔道とかは喧嘩殺法がうっかり出たら失格になるからやめておいた。


「ま、走れてそれなりに頑丈だし、というか、頑丈すぎる気がするけれど、私としては十分以上だわ。今すぐ第一線放り込んでみても、それなりに動けるんじゃないかしら」

「よしてくれ。俺のコマンド『あばれる』だけだぞ」

「いやぁね、そんなの相手にしてみればわかるわよ。特に現代の武術なんか、ルールに縛られてひどく弱いわ。判定勝ちなんて実際戦場じゃ役に立たないし、レフェリーすらいないもの」


スポーツと武道は異なる。

中身が消え、薄弱になり、極めて薄弱になっていく。


「喧嘩殺法はその点実地で養われた体験則に基づくそれなりに理論的なものよ。怯まずに殴りかかれることに関しては、非常に優位でもあるの。精神修養とか寝ぼけたこと言う武道と違って、その気になれば一般人の格好した人にだって殴りかかれるでしょ?」

「ま、まあ……いや、どちらかというと頭の中で切り替わる感じか。俺の感覚としては、悪い、よし殴るかくらいの短絡的行動なんですよね」


なので、それをひたすら褒めちぎられても困る。俺のしていることは、善悪をとっさに判断し、殴ることを基準に動いている。


「ま、その辺はおいおいやっていく中でわかるでしょ。……時に、新田くん。あなた、今さっきまでむちゃくちゃやらされてたのに、そうして元気な訳?」

「若い奴なら誰でもそうだろ」

「いや普通は……なんでもないわ。とりあえずは、体力および頑丈さの評価は終了ね」

「あざす」


一礼すると、ふと気になっていたことを尋ねてみる。

「あの、みゆちゃんって、先輩だろ?いつ頃から働いてたの?」

「んー、十年とちょっと」

……おい、高校生から働いてたとしてもまずい年齢じゃね?顔には出さないけど。

「はー。……そうかあ。敬語とか使ったほうがいい?」

「いらないわよ。それよりも、とっとと使える戦力になってちょうだいね。私、結構期待してるわ」


ニッコリと微笑んだその姿に、俺は慌ててこくりと頷いて、その日はお開きになった。

夜中、不意に目がさめる。目の前にいたのは妹だ。月明かりに照らされた横顔が凛々しい。


「……兄貴バイト始めたんだって?」

「ちょっとなんでいきなりお前ここ俺の部屋ってか夜中じゃん梨花!?」

「うるさい静かにしろ母さんたち寝てんだよ」

「ぐぇ」


首を抑えられて蛙のような声を漏らしながら、理不尽だと思う。幸い手はすぐに離れた。


「危ないわけじゃないんだよなそのバイト?」

「いや、危なくないとは言い切れないだろどんなバイトも。もしかしたらファミレスのバイトでも立てこもりとか起こるかもしれないし」

「いや起こんないよどんな確率だよ。ってか誤魔化さないでしっかり喋ろうな?」

ニッコリと笑ったまま俺を脅しにかかってくる。俺は冷や汗が背中に滲むのを感じながら、ちょっと目をそらした。


「あ、危ない」

「やめろ」

「いや、これはある意味で不可抗力なんだって。俺のせいではない!」

「そんなこと誰も聞いてねーし」

「いや落ち着け梨花ちゃん、俺は至って真面目で真剣に家族のことを思ってバイト始めてるんだぜ?」

「己が身も省みろ。ボッコボコにされてあと1センチずれてたら肝臓逝ってたバカはどこのどいつだ?」


ぎろんと睨まれてそう言われると俺のことという他ない。まあ、殴り合いにもルールというものがギリギリ存在する。相手は輪をかけてボコボコにしたわけだが、俺の怪我と相手の怪我は別物のようだ。

イモウトコワイ。


「……アハハー」

「それでも奈々香嬢との付き合いはやめないし、私はいったいこのむちゃくちゃな兄をどうやって止めるべきだと思う?とりあえず手足の骨でも折っとく?」

「とんだミザリー思考だな!?」

ちなみに映画版だと脚をばき折るけど、原作だと切断されるよ。アレは原作の方が恐ろしすぎる。

どうでもいい今はそれどころじゃない。


「……まあ、折ったところで止まったら兄貴じゃないけど」

「人を化け物みたいに言うのやめてくれない?地味に傷つくんだけど」

「それはいいや。もう諦めてるけど……何をしてるとことか、連絡先とか、上司とか、教えてくれたっていいのに。ケチ。掘られてしまえ」

「あかん腐ってた!?」

妹腐女子だったァ!!


「いや、ホモは好きではないよ。いかにこれは兄貴が酷い目にあってしまえという……」

「あ、よかった。妹無事だったか」

そのままちゃんと育ってくれ。アニメ見ながらカップリングの話とかされると最高に萎えるから。


「ま、いいや。今日は私ここで寝るから」

極々稀に言い出すことに、俺もまあ慣れていて、あくびをして眠りにつく。

「えぇえええ?いいよ」

「いいのかよ」

ツッコミを受けつつも、もぞもぞと布団に入り、その次の瞬間腹部に衝撃が走った。いやまだ男の子一人分くらいの重み……。


重み。


「ヨォ、テメェが新人だってな。俺は中城(なかじょう) (やしろ)。これでも成人済みの社会人だ。以後、よろしく」

「……兄貴。このちびっこなんだ」

「……俺が知ってると思うか初対面の人だぞ」

「オイオイ冷てぇな。お前の上司だぞぉ?」


右の顔半分に眼帯様に布を巻いて、黒のロングコートを着てニヤリと笑うその姿は、普通に小学校か中学校かくらいだった。


ってかなんで上司にロリババアとショタジジイがいるんだよ。どこのラノベだこのやろー。




2018/05/17©︎あじふらい

実はこれアクションの皮を被ったローファンタジーなんだぜ。

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