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秘密の組織とか昔なら滾った

そう昔ならね。

「……こんな良いタイミングで転校してくるヤツなんざ、まあ、普通に言ってアレだろ」

「語彙力には問題が見られますが、ごく一般的な勘だけはあるようですね。褒めてあげましょう」


屋上なう。


本来は立ち入り禁止だが、まあそこはホラ、色々と裏技あるんだよ。ディスクシリンダーのピッキングとかは今時動画すらある。

今時だからフェンスが設置されてるが、そもそも立ち入り禁止にしてるんだよな。意味不明だ。


「上から目線ですげぇむかつくんだよ。そのアホ毛むしりとるぞ?」

「毟り取りたいとは野蛮で低俗ですね。振ったら良い音がしそうな頭です」

「誰が豆つぶみたいな脳みそだ。ぶっ飛ばすぞ」

「ぶっ飛ばせるんですか?人一人の重さをしっかり考えて発言した方がいいですよ?」


俺は苛立ちを抑えて息を吐き出すと、一歩後退して言った。

「らちがあかねぇ。話を戻すぞ。で、何の用だ?」

「僕らは公的には存在しないものになっている、政府特別平和維持組織、GSPOという者です。超能力者による犯罪行為の抑止及び実力行使のために、あなたに協力……いえ、こちらの組織に所属してほしいのです」


一瞬強い風が吹きすさぶ。

超能力者になったという話は、改めてされた。なんの能力かは知らないが、とにかくそういうことだと実際に見せられて証明された。

俺だって流石に直に自分の目で見たものは疑わない。


普段使わない頭を使いながら、確認すべきことを挙げていく。


「俺のメリットはなんだ?」

「ご家族の安全確保。単身では守り難いでしょう。それからあなた自身の安全、でしょうか」

「俺自身の安全?」

「ええ。あなたには自覚はないでしょうが、後天的な超能力者の例は珍しいはず」

つまり実験動物的なことか。


「バラしたりはまあないと思いますが、ちょっと腕がなくなるとか、そういうことがないように我々の組織に所属してほしい、ということですね。あなたを返した時点で早々変なことはしないとそれなりに証明できているはずです。まあ、実際のところはお願いではなく決定事項とも言えます」


「じゃ、聞く意味ねーだろ。デメリットは?」

「不自由と、それに付随する不愉快な事態の処理でしょうか。場合によっては、足に子供がすがりついた父親でも、容赦なく殺さなければいけないんですよ」


殺す。


「……俺は殺すなんてできねぇ」

「では、動きを止めてください。それくらいなら、できるでしょう?」

「気絶させろ、ってか。一番難しいだろ、それは」

「殺した方が簡単ですが、拘束して情報を吐かせることはだいぶ必要ですからね。情報を吐かせる側の拷問官としてはありがたい限りですよ。皆殺してしまうので、仕事が少なくて困っていたんですよ」


肩をひょいとすくめて、飄々と笑う。なんとなくムカつく顔である。俺はフェンスを指先でなぞると、鼻を鳴らした。

「俺にできることはする。死にたかねぇし、殺したくもないから、それなりに頑張らせてもらう」

「ええ、その答えが聞ければ上々です。普段通りの生活は送ってもらいますが、部活などはしていますか?」

「してねーけど?」


唐突な質問にキョトンとしたが、あっさり一つうなずかれて流される。

「あ、そうですか。運動は得意な方ですか?」

「なんか質問の仕方がムカつくんだが。……球技は苦手だ。それ以外はそれなりだよ」


適性審査っぽいことを聞かれながら、俺はそう答える。まあ、それなりがどれくらいかは人によるから、あながち間違いでないと思いたい。


「それなり、と。ま、いずれ体力測定を含め身体検査を受けてもらうことにはなります。その時僕よりも低い結果になったら見ものですね」

ふふふ、と笑んでいるが、少なくともこのヒョロもやしに比べれば全然問題ないと思う。


「お前こそ、俺の成績見て悔しがってたら盛大に指差して笑ってやるよ」

そう吐き捨てて、俺は教室へと戻っていった。


「お疲れん。どだった?」

井嶋の言葉にひらひら手を振って、なんでもないアピール。

「あぁ、まァ大したこっちゃねぇよ。どうも知り合いの息子さんだったらしい。とは言えムカついたのは嫌いな知り合いだったからだがな」

「あはは、たしかに嫌いな奴ほど寄ってくるよね。俺そんなのにたかられむしられ骨までしゃぶり尽くしてほしいんだけどねーーそれにしても、よく手が出なかったね、特攻隊長?」


井嶋はニヤニヤと俺を見ている。中学時代の傍若無人っぷりを思い出してニヤついているらしい。

「ま、バイトの斡旋だったかんな。金入るし、ちょうど暇だったから問題ねー」

「成績は少なくとも問題あるじゃん」

「るせーぞ参謀」

「はっはっは、まあにっちもさっちも行かなくなったらたかってね。俺興奮しちゃう」

「だからオメーには頼りたくねぇんだよ……」


まさに変態というかなんというか。絞り尽くされて骨の髄までしゃぶってほしいというのが本人の言だから、そこまで深く愛してくれるヤンデレと合わせたらどうなるんだろうか。


「じゃあ、そのバイトに入るってことで桐葉はカタがついたわけだ。あれ?それ、奈々香には教えた?」

「まだだけどなんで?」

「いやぁ」

へらりと笑ってみせたその顔があの胸糞野郎と被って、デコピンを額にぶち込んだ。

「ぅぉおっ……ッ!」

痛みで悶絶しているのを放置して、自分の席に戻る。額を抑えて、息を大きく吐き出した。


……そのあと戻ってきたあのクソイケメンの周りに女子が群がっているのを見て絶望した。






「……って、ここ、俺がこないだまで入院してた病院じゃねーか!?」

「そうですよ?」

なんとも思ってなさそうな顔でキョトンとしてるけどなお前!

常識って言葉知ってるか!?

と思ったけど突っ込んでやらない。こいつが常識なしで困ることは何にもないし。


「では、中に入りましょうか」

ガードマンはイケメンが何かを見せたら大人しくなった。俺もそのあとに続いて歩き出す。


「こちらです。どうぞ」

地下へと歩き出すその歩みは、全く止まらない。死体安置所と書かれたヤバげな雰囲気を感じる部屋の前で足を止めた。

「ここは死体安置所です」

「それで?」

「……別にただの死体安置所ですが何か?」

「そういうとこホントヤラシイなお前。頭打って1ヶ月ぐらい寝てろ」

「お前が寝ていろ愚犬」


くっそ、軽口だろうと死ねとは言えない。ブレーキがかかってしまったかのように動けなくなってしまう。


「本当は死体安置所の横の、ここですね」

「……これって、荷物しか載せられないエレベーター?的なものじゃね?人入っちゃダメだろ」

「屈む必要はありますが、入ってみればいかに自分が狭い見識に囚われているかが分かりますよ?」

「……お前さあ、常識って知ってる?」

「常識?もちろんふつうのマナーなどはきちんと叩き込まれていますよ。問題ありません」

「いや聞いた俺がバカだったわ。マジですまんな。お前、かわいそうなやつだな……」


本気で哀れんでいたら、癇に障ったのかキレられて蓋を開けてその中に押し込まれた。多少の浮遊感の後、俺はぼそ、と地面の上に落ちた。

一面の草原。風が穏やかに吹いていて、気持ちがいい。

「って、……草?え?なにこの草原。いや何これげふごん!?」

「邪魔ですよどいてください」

上から降ってきたアホ。俺の体はそれなりに頑丈なのだけど、人一人はキツイ。


「何すんだよテメー」

「いや、ちょうどいいところにマットがあると踏みますよね」

「踏み心地抜群じゃねーよ!避けろとか邪魔とか一言言う気すらないのかよ!!」

「そのために消費されるカロリーがもったいないですね。……さて、ここが仕事場です」

「いやなんで草原なんだよてか仕事ってこの草原でどうすんだよ」


書類仕事って言っても風吹いてるし飛びまくるだろうこれは。


「我々の仕事はごく単純です。相手を倒すか否かの判断は全て頭に任せて動く実働部隊です。はっきり言えば、何か起こらない限りここで訓練を積んで有事の際には制圧に向かう、軍隊のようなものです」

「要するにあれか。訓練するのが仕事、みたいな?」

「ええ、平たく言えばそうですね。僕の知る限り超能力者による事件は月に1~2回ほど起きていますから、それ以外はほぼ鍛錬ですね」


要するに、細かい仕事は他に任せて、俺たちは殴り倒して動きを止めるところだということらしい。

けどこんな摩訶不思議空間に案内されるいわれはない。こいつじゃない案内役に懇切丁寧に色々懇切丁寧に教えを乞いたかった。


と、突然広い空間に大声が響いた。







2018.5.17©︎あじふらい

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