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いつも通りの日常だと思った?残念でした〜

残念でした〜(΄◉◞౪◟◉`)

「うぃーす」

「おぉ、勇者よ。食中毒とは情けない」

「微妙にゴロがいいのが悔しい。……よぉ、井嶋(いじま)

「よっす、やつれたな新田」


目の前のチャラいっぽい男は井嶋(いじま) (こう)。俺の小学校からの腐れ縁その一だ。

普通の男に見えるが、実はドMであったりする。

まあ食中毒とは、そう言うことになっている、ということである。

「そりゃ数日は点滴で食えなかったもんよ」

嘘をさらりとつくと、襟首がいきなりキュッと後ろに引かれた。喉が苦しい!


「桐葉、あんた来てたんならそうと言いなさいよ!」

「おぅ、っふ。締まってる奈々香(ななか)しまってりゅうっ!」


襟首をつかんでいるこいつは、庄内(しょうない) 奈々香。ギャルっぽい見た目は、高校デビューに失敗したらしい。中学まではバリバリのヤンキーでした。

こいつが小学校からの腐れ縁その二。


「腹はもう大丈夫なの?授業中にトイレ行きたくなったら遠慮なく先生に言った方が良いよ?」

「みんな俺のシモ事情ばっか気にしすぎじゃねぇ?しかもやばかったら行くからな。人間の尊厳的に」

「……漏らしても、付き合いはギリギリ続けるつもりよ」

「ギリギリってそれ救われねぇからな!?」


俺の魂からのツッコミだったが、奈々香はそうだと手を叩いてスルーした。

「今日転校生が来るみたいよ?」

「転校生?」

「ええ。なんだか、男だって」

「性別だけか。他のことはわからんのかー」

「わかんないわよ。……興味ないし」


「ヘェ、意外だな。お前結構こういう話題は好きだと思ってたんだけど」

奈々香が最後に呟いた言葉に反応すると、聞かれてなかったと思ったらしくキョドりだした。


「いや、その、えっと噂って当てになんないし……」

「あー、たしかに」

そういや俺の妹もどこのヅカみたいな扱いされてるし。ちょろっと『妹が女の子からバレンタインチョコ本命もらってた』みたいな話をしたら、膨れ上がって俺の妹女たらしの男前、いやむしろ弟じゃね?みたいな噂が持ち上がってたし。


「っと、やべぇ、先生来る」

急いでガタガタと着席すると、俺は斜め前の席に目をやった。

高校になってから仲良くなった奴なのだが、今日は来ていないだろうかと思う。ちょっと変だが良い奴なんだ。


あと横の席が空いてる。嫌な予感しかしない。

と、扉が開いて馬場(ばば) 宗吾(そうご)先生が俺をかっと目を開いて見た。


「新田、あとで職員室に来なさい。休み中のノート、プリントしてあるから」

「あ、はい」

「じゃ、出欠を取る」


はい、と返事をする声を聞きながら、俺はぼんやりしていた。先生の声におざなりに返事をすると、俺はカバンの中から筆箱等を取り出してふわぁ、とあくびをする。一時間目の準備をすべく、引き出しの中をまさぐっていたらどうもすでに状況は移り変わっていた。


「では、転校生の方どうぞ」

「はい」


入ってきたのはイケメンだった。あ、語彙力が少ないので描写は勘弁しろ。俺的には普通にイケメンだと思う。黒髪はなんか女子よりツヤツヤだし、シュッとしたイケメンだ。

……ええい俺の語彙力仕事しろ。


「はじめまして。戸谷(とや) 九音(くのん)です。よろしくお願いします」

「えー……みんなイケメンだからと嫉妬していじめたりしないように。特に男子。じゃ、今日来たばかりの新田、面倒見てやれ」

「え、俺?」

ガチトーンで返すとそうだと肯定される。


「どうせなら頭いいやつとは頭悪いのと組ませて成績を上げてもらおうと思って」

「そんな公式バカみたいな扱いは不服ですけど」

「今回の入院での不利はでかい。神妙に職務を遂行した方が身のためだ」


正論返し。

これされると何にも言えなくなるので、渋々席に着く。

前から歩いてくるそいつはいやににこやかで、俺はぞわぞわくる何かに二の腕をそっとこすった。

そして横を通りがかった時、その感覚は決定的となった。


軋んだ音を延々と聞かされているように、こいつの存在が疎ましくてたまらない。今すぐあの顔を捻じ曲げられたらと思うほどに、イライラしているのがわかった。

相手も俺を唾棄すべき何かのように見ているのがわかる。

睨み合って互いに襟首をがっしりと掴む。とっとと視界から消したくなるほどの嫌悪。


「「先生やはりこいつとは無理です」」

迂闊にもかぶった。


「おいテメェ何かぶせてきやがる」

「何ですか?僕のセリフに被せてきたのは犬の鳴き声でしょう?」

「誰が駄犬だ誰が」

「自覚があるなら三回回ってワンと泣いていろ愚犬」


にこやかながら険のある言葉に、俺は応じるように苛立ちをぶつける。


「顔だけ立派だが人間性は最低じゃねぇのか?いきなり人を犬呼ばわりとか」

「……人?」

「そこに疑問を呈してんなよ耳がおかしいんじゃねーの?あ、問題あるのは頭かよ」

「うるさいですね駄犬の分際で。座して詫びろ」

「安心しろ膝を屈するのは絶対にテメェじゃねぇからな?」


ちょいちょい暴言がポロポロしている。シュッとしたイケメンはにこやかなままキレていた。


「……二人とも、落ち着け」

「だってセンセー!やっぱ無理ですこいつ無理ィ!」

ゔあー、と叫びながらズボンで襟をねじり上げていた手のひらを拭く。相手もハンカチで手を拭う。


「僕もここまで相性が悪いとは思っていませんでした。うっかり近づいてしまった自分を殴りたくは無いのでこいつを殴っていいですか?」

「んなへなちょこそうな腕でか?傷一つできねーよバーカ」

べろべろばあ、とやってみせると相手の片眉がつり上がった。


「殺す」

「二人とも止まって!そしてその怒れる拳は僕にどうぞ!」

井嶋(マゾ)の言葉に気炎を削がれ、というか無理やり苛立ちを押し隠し、互いに互いの足を踏みにじりながら一歩同時に退いた。


「あとで殴る」

「返り討ちにしてやりますよ」


そんなわけで最悪の出会いだったが、今後こいつとは険悪なまま付き合いを続けざるを得ないということを、今の俺はまだ知らない。







2018.5.16©︎あじふらい

天井からでっかい羽アリが来てて最悪なう

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