僕のたいせつな
久しぶりの投稿。
戸谷がちょっとアレ。
「ああ。櫻子さん」
櫻子さん櫻子さん櫻子さん櫻子さん櫻子さん櫻子さん櫻子さん櫻子さん櫻子さん櫻子さん櫻子さん櫻子さん櫻子さん櫻子さん櫻子さん櫻子さん櫻子さん櫻子さん櫻子さん櫻子さん櫻子さん櫻子さん櫻子さん櫻子さん櫻子さん。
あのクソみたいなマフラー女が入ってからしばらく経つ。
セナは許せた。櫻子さんの『血縁者』だから、まだべたべたしていても僕の許容点としては問題ないし、櫻子さんが気にかけるのも許容できた。
桐葉はそもそも櫻子さん自体にあんまり興味がなさげで、それはそれで腹は立つものの、そのままで問題はない。
シュリ・D・ブラッドリーとかふざけた名前を名乗って、そして櫻子さんに気にかけられている。櫻子さんは子供が好きだから仕方がないと思うが、かわいがられるのが当たり前の顔で撫でられているのは許せない。
「……な、撫でられるなんて嬉しいわけないんだから」
「あら、嬉しくなくっても私が楽しいですから。うふふ」
いっそ櫻子さんが普通の人であれば、俺が手足を拘束して部屋に押し込めて捕まえてその全てを手に入れられるのに、どうして。
俺だけを見てほしい。
そう。
普通の人であれば。
ただしそれを除けば彼女は彼女でなくなり、本末転倒してしまうから、それは避けるべきだ、と思う。
「……ああ、勿体無いなあ」
シュリ・D・ブラッドリーは僕の目の前に半身を落とされた状態で困惑したように立っていた。や、立ってられるわけはないから、まあ、上半身だけだけども。痛みも何もないんだし、とりあえず感謝して櫻子さんからはなれてほしい。もしくは死んでくれないと。
「……なんなのか知りたいんだから。あなたには答える義務があるんだから」
「櫻子さんに自ら近づいておいて、まだ余計なことを考える余裕がありますか。とっとと離れてくださいね、さもないと僕はキレます」
「今まさにキレてるんだから、落ち着くといい。そして戻してほしいんだから。私が慕うのは赤の君のみなんだから」
「はは、そうですか?でも僕の気が収まらないので、とりあえず半分消しとばさせてくださいよ。…………二度と余計なこと考えなくていいように」
かつん。
そんな音がして僕は振り向いた。そこにはセナが立っていて、そして僕を冷ややかに、冷たく見ていた。障害にならない。邪魔だ。大人しくしていろと仕込んでいたロープで手足を拘束するとシュリの方へ向き直る。
「くーちゃん?」
「あなたは今何も見なかった。いいですね、セナ」
「何してるのかな?」
その声に、子供らしくない何かを感じ取って、それからもう一度振り返って見た。
「何をしてるのかなって聞いてるんだよ。聞こえなかった?くーちゃん」
「…………お前」
「櫻子のためと言いながら、本部長の命令に背いて、この大事な時期に何をしでかしてるのか、聞いてるんだけど?」
「そ、れは、」
「しーちゃんは早く出てってねぇ。危ないよぉ」
「……礼は言わないから」
「お礼は言いなよぉ〜」
「ケタケタと笑う彼女が、まるで別物に見えた。……そんな風に思った?それは正解。私はずっと私。セナの中の人はねぇ〜……櫻子ちゃんがずっと話しかけてるのを聞いて悔いて恥じて考えてこのキャラを演じてたんだからね!あ、今のしーちゃんっぽい」
「どういう、ことです」
喉が痛いほどに乾いていて、唇のささくれが上を這った舌に突き刺さるくらいにがさがさだった。
「あ?鈍いクソガキだなあ。私は寝てる間意識があったのです。で、体動かないしいぃ、どうしようと思ってたらさ。ある日突然動くようになったんですぅ〜パチパチ。でもそれは身長やそのほか、これから先のぼんきゅっぼんを諦めてこの二つ目の能力を手に入れたわけですねぇ、パチパチー」
一人で大げさに口で擬音を言いながら、手を楽しそうに叩く。そんな姿は、やはり初めて見る。いつもはどうしてあんな風に振舞っているのだろう?
「さて本題……私がこんなキャラになった理由は、櫻子がもし私のままだったら、絶対困ったからです。年の上だった頼れるお姉ちゃんが、いつのまにか妹に姉属性が付加されているなんて思わなかった。それに……御火鉄のことを思い出すから、私が前のまんまだと都合が悪かったわけですねー」
「はい?御火鉄だと何か都合が悪いんですか?」
僕がぽかんとしていると、セナがゲラゲラ笑ってそれから僕に衝撃的な事実を伝えた。
「ミカガネと櫻子ちゃんはね、付き合ってたんだよ」
「彼氏彼女でさ」
「とおっっても仲良しさんだったんだよ?」
ぐらりと視界が揺れて、それから床が急に近くなった。いや、僕は今倒れていた。
「……ミカガネが」
「ミカガネが……櫻子さんの恋人だった?」
あの腐りきった男が、櫻子さんに目をつけていたのだ。僕の知らないうちに。僕の手の届かない位置で。
「みんな、知っていたのか」
「知ってたけど?」
あのクズが。
ゴミが。
カスが。
櫻子さんを——。
気がつけば夜は明けていて、そして僕もまた自分の家にいた。静かに起き上がると、冷え切った心の中はほとんど何も響かなくなっていた。
櫻子さんがみんなにあの男と付き合うことを強制されていたんだろうと思うと櫻子さんを殺して僕も死にたくなってくる。
こんなこと、おかしいに決まってる。
櫻子さんが普通の人であったなら、きっと、彼女を危険にさらすことなく、いい恋愛を探して、一生幸せに暮らせるのに。
僕らが超能力者であるばっかりに。
「……ねぇ」
「——っ、だ、誰ですか」
ばくばくと心臓が鳴っている。僕は目の前の少年を見返した。
「おにーさんぼーっとしすぎ。ま、いいか。ねぇ、君さ、寝返らない?」
「は?」
「女神ゼロ。彼女をこの世に復活させる。……世界を作り変えるんだよ、超能力者だけの世界にね」
「……超能力者だけの、世界?」
そうだ。
それだよ。
実に簡単なことじゃないか。
世界に超能力者だけしかいなければ、櫻子さんは相対的に『普通』になる。恋愛も、何もかも、そうだ、確かに僕は彼女を普通にできる。
「……ははは」
そうだ。それしかない。それしかないんだよ櫻子さん。
待ってて、今、僕がなんとかしてあげるから。あなたを欺いて、縛っていた仲間ヅラした悪党どもをぶっ殺して、そしてそれから人間を殺す。
少年の目が妙な紫をまとっていることには気がつかないままに、僕は勢い込んで行動を開始した。
あの胸糞悪い野郎の家に狂信者とともに足を運び、そして事前に注意していた場所の一つへ丁重に案内する。劣等種族なんて滅んで仕舞えばいい、何故それがわからないと言うのか。けれど僕の中に何か、何かそんな声を否定する言葉がジリジリと胸を焼いてきた。
気持ち悪くて僕はその声を頭を振って散らすと、ゼロという女神の器になるための体に手を向けた。その動こうとしていたそいつの体に、地面から突き出た杭が打ち込まれる。
「……く、そが、つえぇじゃ、ねぇか、腕力皆無の、クソイケメン……」
「あなただけ手に入れば、あとは用済みになる。死ねとは言えませんね、とにかく意識をとっとと手放してください」
持つのは気持ち悪いな、と思ってそれから布で包むと、強烈に嫌な予感がして僕は背後を振り返る。
「そのまま動くなよ」
「……日本は銃火器の類については一般人は所持できませんよね?」
「そうだったかな?私はアメリカにいたものでな、その辺りの倫理観はザルなんだ」
まずい、な。ここで縁に捕まってしまえば、俺は対抗手段を持たない。
「それを撃とうとしたら、こいつを殺しますよ」
「困るな。私は射撃はそんなに得意じゃない」
「……仕方がないですね。ついてきてください」
「ほお?」
「そっちのガキは逃げていいですよ。どうせ警察に駆け込んだところで、何もできないですからね」
縁はふっと笑うと、銃を胸ポケットにしまった。そして僕をぐっと睨みつける。
「とりあえず、貴様は後で脳漿をぶちまける予定だ。泣いてすがっても、許してはやらんからな」
「おおこわ。……僕はそんな無様な真似はしませんよ」
そうだ。そんな無様な真似は絶対に、この僕がするわけがない。
ゼロのために動く。それが僕の至高の存在理由なのだから。
執着対象が入れ替わっていることに気づいていない。




