はっきり言うがライバルって闇堕ちするよな
ぬっぺふほふ→ウィキへどうぞ。
だいぶ久しぶりの更新ですみません。
「よし。んじゃ、まずは行動の確認だ。梨花は多分うちで一番弱そうに見えたから捕まえられたに違いない。これでも空手黒帯なのに。恐ろしい」
「兄貴もしかして私のことバカにしてなーい?ぶつよ」
「一方お兄ちゃんはルール無用喧嘩殺法が得意なわけですよ。んでもって、イマココ」
縁は瓶にくだんの肉の塊を詰めているし、もう何が何やらさっぱりだ。ついでに梨花はきょとんとした顔をしてる。
「ってかだいたいこのお肉何?クトゥルフ神話的なやつ?めちゃめちゃ正気度削りに来てない?」
「ぬっぺふほふの方が近いんじゃねぇの?」
「なにそれ、兄貴って変なことばっかり覚えてるから変なんじゃないの?」
妹が辛辣すぎるんだけど。
「桐葉。とりあえず、サンプルはとったし、戻るぞ。私の能力で分析をかけてみたが、魂がぐちゃぐちゃになっている。組み替えをなんども繰り返したようで、再構築がもうできにくくなっている。つまりさっき肉に戻って崩れた後は、もうもはや指示すら覚えていなかったみたいだ」
「えーと、つまり、つまり……」
「まあ、理解しなくても構わん。セナなら外見と脳みそは再構築できるだろうが、頭の中の記憶や体験まではそうはいかない。情報も得られないだろうと予測する」
こいつが人に戻れないってことか。俺は密かにため息をついて、それから妹を見た。梨花は俺の視線に気づいて、「視姦?」と聞いて来た。
こいつマジで大丈夫か。
「なんかよくわかんないけど、とりあえず兄貴の拠点が一番安全でしょ。連れてって」
「おま、……まあ、とっくにここは割れてるからな。梨花があっけなく眠ってたことは証明されたわけだし」
「殺気があんまりにも薄くって途中までは大人しく拘束されてたんだけど、眠いから寝た」
「危機感とかそういうもの持ってる!?俺めちゃくちゃ心配なんだけど!」
「大丈夫大丈夫。兄貴に対しては、ちゃんと持ってる」
「おい、おかしいだろそれ。どうもお前今日当たりが強くないか、っていうか、重ねて言うけどおかしいだろそれ!!」
今日は俺に対してギリギリな発言が多くないか!?っていうか縁サンまで俺のこと微妙な視線で見始めているからやめてほしいです。
「……二人は付き合ってるの?」
「いや、どっちかってーと自由に選べねぇんだろうな、多分……」
「そうだな。年周りから行けばお前か九音か、ただ九音は変態だからな。お断りしたい」
「はあー、まあそうなるか。じゃあ、とりあえず拠点行くか、縁」
「そうしよう。少々待ちたまえ」
彼女はちょっと電話をかけると、家の前にまもなくタクシーが停車する。鍵を気休めにかけておいて、それから今日は家に帰らないよう両親と兄に告げておくと、シートに軽くもたれかけた。
「しんどー……いやめっちゃだるいわ。なんかまだ事態が収束してねぇってのもあるけど」
「ああ。国府が占拠されているという相当な事態だ。もしかすると内通者もいるかもしれないから、十分注意しておけ。それと運転手……どこに行くつもりだ?」
「…………」
ハンドルがぐわぁっと切られて、思わず妹を抱きしめたまま運転席のヘッド部分に顔をぶち上てられるが、それどころじゃない。
俺の見た限り、いや、感じるかぎり、運転手から強烈に嫌悪を催す何かがある。これはほぼ毎日体感しているものだ。
「戸谷 九音……テメェ、一体なにしてやがる」
ぎゅうっとまた、スピードが上がった。俺は妹を抱きしめて、車のドアを開けようとした。だが、開かない。ライトの先に港が見えて、俺はゾッとした。
「縁頼む!!」
「え、ああ、わかった!」
俺は前と後ろの座席のヘッドに腕を絡ませて、そのまま膝を胸につくほど引いた後に蹴り飛ばす。数度それを繰り返すと、ドアがひしゃげ、そしてばん、がごんがごん、という音とともにすっ飛んで行った。
「出るぞ!!」
時速100キロ近く出している車はさらに加速して、目測で最高160キロほど。そして運転手ごと、そいつは海にダイブした。
海水が吹き上がり、続いて熱風が吹き荒れる。俺が踏ん張りきれずに地面に倒れると、一気に明るくなっていた景色がすぐまた暗くなった。
「……アレはたしかに……でも、どうして」
「…………悪い事は言わないが、多分アレは……戸谷の能力だ。一体なぜこんな場所に私たちを連れてきた?場所は多分、東京港のあたりだと思うが」
「この俺が知るかよ。ってか、はっきり言っていいか、さっきのでちょっとヒビ入ったっぽいんだけど。足」
「折れているくらいで普通だと思うが……まあ、致し方あるまい。妹さんが気を失っている。先ほどの爆発で鼓膜をやられたようだし、私も足をくじいている。病院に行きたいが……」
「まともに浴びちゃったらしょうがねぇよ。でもまあ、簡単に逃がしてくれなさそうだ」
チョークで描かれた石の人形が立ち上がる。その数たるやもうヤバイくらいで、俺は背筋を震わせた。
本来はこういう使い方なのだ。
罠にはめ、場所の有利を取って、事前に準備を綿密にしておき、そして自分はほぼ無傷のまま勝利する。
「ったく、最初のあの模擬戦じゃ、能力どころの話じゃねぇだろ。マジでステゴロで俺のことぶっ飛ばす気でいたのかよ、あのナヨもやし。……実はスッゲェバカじゃねぇの?」
「誰がバカですか誰が」
「……お前のことだよ。ってかどうしたんだよ戸谷お前よぉ。正義の味方ヅラしてたのに、なんだそのしけたツラは」
非常に不服そうな顔のまま、そいつは目の前に現れた。そして俺のことを非常に嫌そうな顔で見てくる。
「非常に不本意ですが、拘束されてください。……これも櫻子さんのためです」
「はぁ!?あの人捕まったのかよ!?」
「捕まるわけがないでしょう!……いいから大人しく、捕まってください。いくらなんでも骨折の人間ですから、そう動けはしないはずです。投降しなければ、後ろの二人を殺します」
わかった。
こいつ、すげえバカだ。
「ハッ、……俺ァ常々お前のことが嫌いだと思ってたが、今日ほど哀れに思ったことはねぇぜ」
「……哀れ?」
あっけにとられたままの顔は、すごく面白い。俺は頭をぶん回して、それから思いついた策を縁に囁いた。
「俺、縁を守る対象だと思った事は一度もねぇし、妹を俺よりか弱いとか思った事は一度もないね!むしろ俺が守ってもらわねーとまずいくらいのゴミメンタルだっての!!」
「あなたのクソメンタルの話は聞いていませんから。で?」
つまりだ。
こいつらのことを、こと戦いにおいてはめっちゃくちゃ信用してるからこそ、俺に取っては人質になり得ない。
特に梨花は切れるとヤバイ。
「つまり俺が一番三人の中で強いとか思ってたら、クソみたいな目に合うってことだよ。にしても、俺の捕縛ときたら……あの頭おかしい宗教団体のことか?」
一瞬表情がピタリと止められて、そして戸谷は目を一度伏せた。つくづく嘘の付けねーヘタクソだ。誰かのためってんなら、そいつを全て押し隠すくらいの度胸は見せておけよ。
お前の発言で櫻子さんとそのゼロとかいう女神宗教団体がつながりがあるか、あったように聞こえるんだからよ。
まあ、普通はそんなもん意識して喋らねーけど。
「お前には関係のないことです」
「あっそ。じゃ、頼むぞ縁サンよ!!」
「任された」
とにかく梨花が起きる時間に作戦全体がかかってる。早く目覚めてくれ、と祈るばかりだ。
闇堕ち九音。
理由は次話にて。