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張り手一発リポ◯タンD

あんま長々うだうだしてるとめんどいし作者がうざいのでここで妹を召喚。

「少しは食べないと、退院できないわよ?」

「……は、はい」


喉を一切通らない粥を口に入れるが、思わず吐き出しそうになる。無理やり飲み込むと、そのまま吐く。


「……きっとこれじゃだめね。ねぇ、何か食べたいものは?」

「……思いつかないです」


申し訳ない気持ちがするが、俺の胃袋がじわじわキリキリしている。気持ち悪い。

「……たぶん、心因性のストレスもあるんでしょうね。音楽をかけてみたらどうかしら」

「お願いします……」


優しく真綿で包まれるように、だがしかしゆっくりと停滞しかけた俺の時間。それは次の日の朝ぼんやりと外を見ていた俺の視界に入ってきた、一人の人物によってぶち壊される。


「……り、梨花(りか)?」

「よぉ兄貴。シケたツラしてるね?」

かわいい顔に左の頬をひきつらせるような皮肉げな笑みを浮かべて、俺をじっとりと睨む。


「なんだよ」

「いや?なんかメシ食ってないっていうし、無理やりぶち込んで、吐いたらもっかい口ん中流し込んでやろうと思ってさあ」

「横暴だぞ」

「兄貴私が横暴じゃない時なんてあったっけ?」

「中間管理職の弱さを察しろ」

「はいはい惰弱乙。じゃ、あーん」

「うぁ……」


鞄を開けてタッパーを取り出し、香ばしい香りをさせているフライを、口に近づけてくる。俺はベッドの際に追い詰められるように、後じさる。

「や、やめ、」

「ほら現役JCのあぁーん、だぞ?ありがたがれよ」

「妹がなんか怖い!?」

「こんな惰弱な兄貴を持った覚えはないから他人仕様の妹ちゃんでーす」

「初めて聞いた!!」


むぐ、と口の中に広がる油となにかの味に、俺はそれを吐き出しそうになる。

「ぁ、ぎっ」

「吐くな。飲み込め」

「ひっ」

ぐぶり、と飲み込み喉がフライのパン粉で傷つきながら、それでも俺は吐き気を催していた。


「ぅ、おぇ、げぼっ……」


布団の上に転がった固形物。俺は咳き込みながら、涙目で妹を見上げた。


「む、無理だ」

「は?……いっとくけど、私、これ全部食べさすまで帰ってくるなとか言われてるから。口開けてよ、何吐き出してんの?」

だって。

そんな。


俺は生きる資格なんか、


「生きる資格なんかないとかくだらないこと考えてるならぶっ殺す」

「ほぁ!?」

こいつ妖怪サトリか!?


「ねぇ。兄貴は知んないと思うけど、お母さんとお父さんどんだけ心配したと思う?」

「……」

幹柾(みきまさ)にぃちゃんは、警察の人を殴り殺しそうだったし」

「カズ兄何してんのあの人ォ!?」

「黙って聞けアホ」


妹の当たりがキツイでござる。


「んでもって一番冷静な私が来たの。兄貴さぁ、自分が死んだらこの状況がどうにかなるって思ってんの?」

「ち、違う、けど……俺なんかが生き残っちゃって……もっと、俺が動けてれば、こんなことには、」

「なってたよ。少なくとも兄貴の見えないとこでな?」

「でも!」

ぎろりと睨み返されて、息が詰まりそうだ。


「自分一人の命も背負えずに何ができるってんだよ。腑抜けには似合いの寝ぼけた脳みそしてるんだな?」

「だ、って、俺……」

怯えた目で妹を見ると、その目がくっと細められる。次はどんな言葉を浴びせかけられるのかとそう思って身構えていたら静かになって何も起きなかった。

「……?」

顔を上げる。


慈しむような笑みの妹が、そこに立っていた。

「そうだよねぇ。なぁんにも兄貴は悪くないよ?兄貴のせいで死んだ人なんて、いるわけないじゃん」


違う。俺の、せいだ。


「殺したのはテロリストだって、兄貴はなぁんにも悪くないよ?」


甘い言葉が降ってきて、俺は首を左右に振りながら「違う!」と繰り返し叫ぶ。

「違うんだよ……ッ」

「何が?」

「俺は……奴が空に銃を向けて、何かをきちんと狙って撃ち落とすくらいの、その、間ずっと、……動けたはずで、俺……ちょっと状況に、ワクワクしてたんだよ……!!」


無力なのに。

どことなく勘違いしていた。

自分が人質に取られているなんて、とドキドキしていた。

俺は無力で無意味で無知で無能で無謀な馬鹿だったのだ。


無論怖いと思う自分もいた。

けれど、一番に思ったことはそれではなく、状況を楽しんでいた自分への罪悪感。


ぼたぼたと布団に涙が滑り落ちていく。泣く資格は俺にはないはずだった。けれど、一度出たら止まらなくなってしまって、油の味の残る口の中に流れ込んで生ぬるいしょっぱさを残した。


「そうか。それは兄貴が悪いな?」

「あ゛ぃっ……」

「よし。歯ぁ食いしばれ」

俺は固く目をつぶり、そしてぎゅっと歯を噛みしめる。だが、なかなか来ない。

「え?あぐぼぉっ!」


痛い。

痛い。

転げ落ちるほどの強烈なビンタに、俺はヒクヒク震えながら、梨花を見上げる。

その冷たい相貌たるやまさに大魔王。


「今ので、兄貴の失敗はなかったことになった」

「いや今のでって流石に無理があると思うけど」

「何もなかった。いいね?」

「……おす」

「で、あとはどうするかは、兄貴に任す。私は一発ぶん殴れて大満足」

「……そこは優しく慰めてくれよ」

「私、かわいい女の子しか慰めたくないから。男はめんどくさくて繊細だから、したたかな女の子の方が扱いやすいし」

「おう待て今すごい理由聞いたぞ」


かわいいからとかじゃなく強かで扱いやすいからだと?


「いつまでぐちぐちしてんのよ。無駄飯ぐらいにもほどがあるわ。退院できるんでしょ?自殺するならすっぱりしてしまえ。何かをしようと思うなら、ちゃんと飯食って退院して頑張れ。私に言えるのはそれだけだから。……食ってもらわないと私帰れないし」

「……思いのほか慰められて動揺してる」

「お前が慰めろっつったんだろもっぺんしばくぞクソ兄貴」


うちの妹は、口が悪いし、女の子からバレンタインチョコレートをもらうし、胸はちっちゃいし、顔は可愛いし、ツン93%デレ7%だし……全く、最高の妹だぜ。


その四日後、俺はなんとか退院することができた。若いってすごい。





2018.5.16©︎あじふらい

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