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OKOKとりあえず大人しく殴られろ

一撃必殺だったら無理だな。

「……っ!!」

目がさめると同時に身構える。目の前にあった炎の色が、染み付いたように網膜から離れない。


「……こ、こは」

「ここは病院だ。目覚めたな」

「縁……他の人たちは!?」

「皆無事だ。ただ、戸谷だけは意識が不明だ。能力の乱用で少しおかしくなっている」

意識不明と言うよりは発狂中のようだ。


「ひとしきり暴れさせたら大人しくなるだろう。櫻子が面倒を見ている」

「そう、か。腕はセナが?」

「ああ、ビビっていたぞ。ひんひん泣きながら治していた。お前は能力に身体中焼き切れていたからな、はっきり言ってセナが二時間くらいかけて治療していたぞ」

「そうか。あとで礼を言っとかないとな」


そこで、病室の扉ががらりと開けられた。


「そうそう。お礼は人として大事だもんね」

ヘラヘラした日常の微笑みに、俺はあんぐりと口を開けた。


「……井嶋?な、なんで、ここに?」

「あっはっは、面白い顔してる。指突っ込んでいい?」

「噛み切るぞアホ!って今はそれどころじゃねぇ!家族すら面会謝絶状態だったんだぞ!?なんで、お前が……」


嫌な想像が、俺の脳裏に貼り付いている。喉がカラカラに乾いて、口の中が干上がったような気がした。

喉元にせり上がってきた酸っぱいものを飲み下して、井嶋の胸ぐらを掴み上げる。


「テメェ、まさか……!!」

「やだな、やめてよ。桐葉のためじゃないよ。俺の生活と、弟のため」

ニッコリと笑って、こいつはいつも隠す。嘘くさい微笑みだが、俺に殴られた時だけマジで嬉しそうにしやがるから嘘の笑いはわかる。


「……そう言われたら踏み込むもんも踏み込めなくなっちまうだろッ、クソが!!」

そう吐き捨てて、その言葉は言わないことに決めた。それでもやっぱり腹立たしさはおさまらない。


「んで、アレを使ったわけかよ。生存率が絶望的だったんだろうが。適合者がほとんどいねぇって聞いたぞ、俺ァ」

「俺も聞いた。まあ、ソシャゲの☆5より確率高いって。全然無問題」

「問題大アリだよ!」

「オオアリクイ?」

「茶化してんじゃねぇっ!」

どす、と井嶋の腹に裏拳が食い込んだ。苦しみながら笑顔でサムズアップしてんじゃねぇ。


「落ち着け桐葉。本当に大丈夫なのか?そんなにポンポン殴って……」

「あのね、俺、もう無理って言ってるところを笑いながら容赦無く殴られたいんだよね」

「……わかった。真性の変態だったか」

「えへへ、わかってもらって嬉しいや。というわけで桐葉……ひさびさに、喧嘩しようぜ。俺の能力は、受けてみて」

「……ああそうかよ。じゃあ遠慮なく行かしてもらうからな」


こいつはこいつなりに頑張ったんだろうな。

俺が一人で窮地にいるように見えて、それで突っ走って。


ただただ、心配だったんだろう。

あんな言い訳クソくらえ、だ。嘘八百にもほどがある。


「寝起きだからな、ちょっと鈍ってっかも」

シャドーを繰り返すと、うまく動けるようになってきた。俺は丁寧にストレッチすると、全身の動きを軽く確かめる。蹴り、突き、全ての動きを確かめて、終わる頃には体があったまっていい具合だ。


水をそれなりに呑んで、体重が増加した分も動きを確認する。


「あんまり長くはねてなかったのか」

「一日も経っていない。さて、二人とも準備はいいか?」

「桐葉はバチってして倒すのなしね!」

「ずっけーぞお前!」

「しかたないジャーン、ま、俺のは殴られなきゃ出ないからさ」


その言葉はしっかり覚えておくとして、俺は肩をぐるりと回すと、神経と筋肉の操作に全ての能力を回す。

まあ、言っちゃあなんだが反応速度は格段に上昇する。


「行くぞォ!!」

踏み込みとほぼ同時に、俺の拳がめり込んだ。綺麗な重心移動、丁寧に乗った体重。

だいぶ理想的な拳が井嶋の腹に一発入ってくの字に折れ曲がった。同時に、ごつい衝撃を腹に感じて倒れこむ。

「っかは……!」

「あぁ、っはっ、っはぁっ、すごい、クる……!」


やばいやばいやばいやばい。なんだこれ。

なんなんだよこれ。


いや、違う。


「お前の能力、相当ヤベェよ……」

ドMと戦うなんてほぼ無理ゲーじゃねぇのか?これ。


鏡写しの、生き写し。

自らが傷を負い、それをそっくりそのまま相手と共有する。我慢比べの力比べ。


「……っらぁ!!」

「けほ、もう立ち直った!?早いな、今度は俺からも行くよ!」

俺に殴りかかってくるが、俺はそれを全て避け……られなかった。

衝撃を右わき腹に食らいながらも、そのあまりの軽さによろめくことすらない。

「どうなってんだァ……?」

「筋肉の鎧で通ってねーし。やっぱ、ダメ食らってしかないかー」


いや、これはわかる。


「逆側からの襲撃、か」

「うわぁ、しかも鋭いって……やばいな、あと一個しかないんだけど」

「いいぜ、きてみろよ」

構えると、憮然とした顔をされた。それから首を左右に振って、違うと訴えてくる。

「……殴ってよ」

「……いや殴られること前提なのかよ……まあいいや。ちゃんと反撃してこいよ?」

「もち」


殴る。殴る。殴る。蹴る。殴る。殴る。殴る。蹴る。

戸谷よりはだいぶマシな反撃だが、やはり軽い。


その幾度目かに、ぞっとするようなプレッシャーを、目の前の男から感じた。

まるで、何か別の化け物のような。


拳を握りしめて、井嶋が笑った。


「いくよ、桐葉」

そしてその拳が、無造作に突き出される。

「ぅ、ヤベッ……!?」


その衝撃が過ぎた後、全身に感じる、光と熱。それから痛み。ぼたぼた、と下に落ちる血潮。

水たまりには程遠い。


「頑丈すぎ」

「はっ、テメェこそ火力不足が解消したじゃねぇか」

「そうだねえ。はっきり言って、倒せると思ってたんだけど」

まだこれくらいじゃふらつきもしない。俺はタオルを探して、それからあちこちの傷を適当に塞ぐ。


「井嶋。さっきのって、自分が受けた攻撃を人に返すってことだよな?」

「まあ、有り体に言えば一撃に圧縮して、それを放つんだ。僕としては桐葉の拳と蹴りが圧縮したとはいえあそこまでできるなんて、思ってなかったけどね」


俺に向けて放射状に草が剥げている。

「見事に焦げんだなあ」

「あー、二人とも、一応聞くが、すぐに治す必要ないんだよな?」

縁の言葉に頷くと、救急箱を手渡された。


「とっとと手当てして、気持ちよく迎え入れてやれよ」

ふふ、と笑いながら言ったいたずらっぽい笑みにぼんやりと頷いた。


「まったく、ようこそ、歓迎するよ。俺もまだまだだけどな」

「はは、まあそれでも先輩にはあたるわけだしね。ていうか戸谷君はまだ?」

「まだ、みたいな感じだな。さて、準備はいいか、井嶋?」


……まあ仲間内への紹介だけなんですけどね。

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