協力者の存在感ハンパない
存在感!
「……うぅ、ぐすっ、ひっく……」
「おい、大丈夫か?」
「うぅう……」
俺は少年を奈々香から奪い返すと、能力を早めに解いたほうがいいと説得して、今まで捕らえていた人たちを解放してくれるように頼んだ。
奈々香が鞭なら俺は飴である。
というわけで、縁は顔をひどくしかめながら少年をぎろりと睨みつけていた。
「……もうすでにボコボコになっているみたいだし、あまり責めるのも酷だとは思いたい。だがな……やはり無理だというものだ」
「ひぇっ!?」
その手にはいつの間にやら人形が握られていた。そしてそれをじわじわとひねっていく。
俺はそこから目をそらしかけて、ハッと気がついた。
「あ!」
「げぶぇ」
およそ人から聞こえちゃいけない声が聞こえたのを無視して、縁が「どうした?」と言う。手元の人形がねじくれているのには目を向けないほうがいいんだろうか。
「そういえば聞きたいことがあったんだが、協力者がいたよな。外に出て、明らかに鏡の効力が届いていないやつ」
げっほげっほと咳き込む少年に俺が尋ねると、彼はようやっと元に戻ったのか一度息を整える。
「あ……?ああ、レンさんか。あれはあっちから話をもらって、この中に入ってきた人を好きなようにしていいから人員を隠すためだけの空間を提供してくれって……」
「人員を、隠す?」
「ほ、本当だ!」
いや、そこじゃない。
そこじゃなくて——。
「その人員ってのは一般人?それとも戦闘員?」
「戦闘員だけど……でも、たった数人だし」
「今すぐ全員をこの空間からほっぽり出せ!」
「ひぃっ!?」
俺の怒声に反応して、全員が全てここに集められ、ぬるんと外に押し出される。その間すらもどかしく、地面に降り立つと、戦闘音が聞こえてきた。
「チッ、もう始まってやがる!」
「な、何があったの桐葉!」
「お前はその人たちについてろ!縁もだ!」
俺は角をグルンと回ると、目の前の光景に口をあんぐりと開けた。
「クッ……」
ぎりぎりと押されながら、それでも地面になにかを描き出している。しかし、それは矢継ぎ早に破壊されていく。
「少年。無駄だ。降伏を推奨する」
「あなたは、炎熱系の、自分を変化させるタイプの能力ですね」
「正確には異なる。私は遠距離の攻撃ができない代わりに、特異な能力が超能力の中に出現した」
「特異な、能力……?」
「自らを火となす。能力との一体化。人の枠を外れた神に最も近い存在」
遠距離の攻撃ができない。
それは俺にも言えることじゃなかったか?
いや、今はそれどころではない。俺は静かに忍び寄ると、その背面から雷を纏わせた殴りかかった。声も音も一切立てていなかったはずだった。
「あ……?」
「人としての枠の超越。それは視界の全体化、そして超越前の能力の無効化をも行う」
「なに、言ってんだよッ……わかんねぇよ!!」
絶叫とともに、俺の体全体がじゅうっと焦がされる。そして腕を掴まれたまま、俺が空中に釣り上げられる。
「ゔああああああああああ!?」
くそ、痛い。
相手が掴んでいる腕が焼け焦げながら、俺に絶え間ない痛みを与えてくる。
「が、ぁ、あぎ、」
「このバカ!加勢ではなく逃走を選択してくださいよ!」
「ぁ、」
「おっと。すまぬ。つい、肉の身の時のように扱ってしまったな。しかしながら、そうか。お前が聞きし器」
痛い。
熱い。
なんで俺は、
こんなにも苦しいんだろう。
「……ざ、けんな、よ」
残ったもう一方の手が、ガラスの破片を鷲掴みにする。どこかでもう一枚、なにかが砕ける音が聞こえた。
あの阿呆も敵わない。
相手は俺の上位互換だ。
「はああ、ンな……モンはな……!」
パチパチと俺の中で何かがスパークする。
限界なんぞクソくらえ。
俺はなにがあろうと俺だ。人の枠を外れたぐらいで変わってたまるか。
「偉ぶってんじゃ、ねぇよ」
しれっとした顔をされて、ムカつく。なんだかんだ言って俺は縁を信用していて、口喧嘩も嫌悪も絶えねぇ戸谷も、信用していた。
こいつらさえいれば勝てるとか甘えたことを考えてた。
違うだろ。
俺たちは数が少ねぇ弱小な立場じゃねぇか。追いかける側が馬鹿げた勘違いしやがって、とんだ恥さらしだ。
「俺は、弱いぞ。あんたは強いな」
「ん?まだ気絶していなかったのか?」
「楽しいな、未知ってのは」
能力に任せて頭の中で何かがはじけるような気がした。
「俺は実際雷のスピードって知らないんだけどさ」
「グッ!?」
一瞬のうちにして炎の腕に食い込んだ回し蹴り。相手の炎が、少しだけ、熱い。だが、身体能力ではそれなりに勝っていそうだ。
拳を叩き込む。
こうなって初めてわかる。
これは能力が肉体を食いつぶしてるようなモンだ。そう長くはもたねぇ、と。言ってみれば存在を上書きしてるようなのを繰り返してるようなものだ。
「エェイ、鬱陶しい!!」
俺の眼前に拳が迫ってくる。俺はそれを避けようとしたが、ついいつもの感覚で後ろへ飛びしさったため、飛びすぎてしまう。
「く、コントロールが……」
「当然。私ですら、使いこなすのに十余年かかっている」
轟、と唸りを上げて、炎が固まりになって突っ込んでくる。それを避けながらその喉元に手刀を突き込む。だが、一切通らなくなって、俺は地面へとあっさり落ちていく。
効果が、切れた。
「…………っはぁっはぁっはぁっ」
息が、できない。
呼吸が浅くなって、ギリギリと胸が引きちぎれそうなほど心臓が脈打っている。
よだれ垂れた。
「っが、」
「面白くない。やはり、君はわからない」
「ぁ、」
「神の器だろう。声を聞いたことは一度たりともないのか?」
「し、しら、な、」
ひゅっという呼吸音が時々混じった回答を返せば、薄氷のような美貌がにたりと笑った。
「では聞かせてやろう。神の声を」
「あ、」
その顔がじわじわと近づいてくる。そして俺の頭にじゅうっと指先で触れた。
その瞬間、声が流れ込んでくる。
「ぁがぁっ……!」
そこから俺の意識はなにかずっぽり抜け落ちているように、その瞬間なにがあったかを覚えていても、一切詳細を覚えていない。
目が覚めたら病院で、ベッドの横では奈々香がすうすうと寝息を立てて突っ伏していた。




