これはミラーハウスじゃねぇ
最近保存がうまくいかない。
途中までの作業保存してくれる機能すこ。
追いかけて行くと、そのまま職員入り口の方まで歩いて行く。その姿がゴソゴソと何やらしながら、着ぐるみにかわり中から出てきた。女性が操るには重たいだろうに。
その着ぐるみは、ひょこひょこと重たい足取りで歩き出し、子供の目を引いた。その子供がまとわりつこうとした瞬間、子供を突き飛ばしてまたひょこひょこと歩き始める。
泣き声が響く中、俺は静かにその着ぐるみの後を追う。そして着ぐるみはミラーハウスの中に入っていった。
「もしもし?ミラーハウスの中に入ってったぞ」
『見えています。あなたも僕のところからしっかりと。しかし、これはどういうことでしょう……操られている者特有の表情のおかしさやぎこちなさが一切なかったのですけれど』
「自分から何か目的があって協力してるか、おどしつけられてるかのどっちかだな。俺は協力の方を推す」
電話の向こうでも少し逡巡があったらしい。
『理由は?』
「子供が寄ってきたが、蹴散らしてた。ありゃ明らかに故意だな」
『……それでは一体、何のために……』
「わからん。だが、こう言ってもいいだろ、協力してるのは複数だ」
確かにそうですね、という言葉とともに嘆息が聞こえてきた。野郎の悩ましげなため息とかほんといらない。誰か金出すからこのイケメン引き取って。
「やっぱりここは突入する方がいいと思うわけだよ」
『女性もいないのに、狙われるわけないでしょう』
「と思うだろ?でもないんだなー、これが」
今俺たちは友人を探してる途中な訳で。
大声で名前を呼びまくっても違和感がなく。
さらに係員にまでそれを伝達するとミラーハウスの中で口にすれば。
「俺たちを消す、という選択肢が出てくるわけだ」
『あなたそんなことまで考えられたんですか?』
「いや、井嶋がそう言った」
『……真剣に彼の誘致を検討するべきでしょうかね?』
「やめとけ。あいつは小手先の理由付けが上手いだけだ」
『それでは、突入しましょうか』
見事に俺のつぶやきはスルーされたので、これは既読無視とみなしていいんだよな。
あいつ背後から飛び蹴りくらわしてやる。
「じゃあ、井嶋。一時間して何の動きも無かったら、俺のスマホから呼んでくれ」
「はいはい。了解」
背後にいた井嶋にそう言い残すと、スマホを手渡した。先に入っていった背中を追いかけながら、縁と奈々香の名前を大きな声で呼び続ける。
「おーい、二人ともいるか?」
「返事をしてください!」
「縁ー、奈々香ー。……ったく、あいつらどうしようもねぇな!迷子放送かけてもらうか?」
「いや、それは流石にかわいそうだと思いますが」
「……いや、でもな。やっぱりここは一度痛い目に合わせた方がいいと思うんだ。うん」
というわけで。
「俺、係員に——」
あれ?
俺の手足って、こんなに太かったか?
「——戸谷ァ!」
「聞こえてますよ」
随分高いところから声が聞こえて、ギョッとした。その姿は細く針金のような感じになっている。
「何だこれは!?」
ふふふふふ、という気味の悪い笑い声があたりいっぱいに響いた。
『よーーーぅこそ、ボクの、ミラーハウスへ!この場所は』
「……体はしっかり動くな。よし」
俺は正面の歪んだ鏡に正拳突きをくらわせた。
『へ?』
ビシビシビシ、という音とともに、鏡が砕け散る。体がすうっと元に戻っていった。
『な、な、な、何をしてる!?』
「いや割るだろ普通」
「……あなたって本当にバカですね。素手で割れないですよ普通は」
「はは、人間の体って意外と頑丈なんだよ針金」
「言うに事欠いて……ッ」
ゲラゲラひとしきり笑うと、俺はすぐさま声が聞こえた方向を見上げた。人がひとり、その中にいる。
「そこかッ!!」
だん、と針金が映った鏡を踏み壊しながらその場所に触れると、ぬるんという感触とともに、俺の体が飲み込まれた。
「んなっ!!」
「ちょ、阿呆ですか!?何を一人で突撃してるんですか!?」
「くっそ、お前初動が遅すぎんだよ!」
しかしながら文句を言い終える前に、俺は鏡の中へと飲み込まれた。
向こうでは戸谷が憮然としているに違いない。
俺は目の前の少年に向かって、せせら笑いを向けた。
「よぅ、小さいの」
「失敬なやつだね。このボクに向かって」
「このボクに、とは随分偉そうだな。まるで神か何かじゃねぇか」
「そうだけど?この鏡の世界はボクが構築したものだ。故にボクはここでは神だ!」
しばらく沈黙が流れる。
「……一個だけ、気になってたんだけどさ……」
「何?」
「神、社会の窓開いてる」
「ぎゃあああああ!?」
ジッ、と窓を閉めた音がした。俺もちょっと疑心暗鬼になって自分のを確認する。大丈夫だった。
「んじゃ、話進めんぞ。なんかこの中に赤毛の子とアホっぽいギャル来てない?」
「ああ、その子たちならボクのハーレムメンバーにしようかなって思ってるよ?」
ねぇ頭大丈夫キミィ?
「何だその目。ボクに向かって……」
「いや、ごめん。つい目で本音を語ってしまった」
「ハーレムがばかばかしいとでも?……はは。反抗的であればあるほど、いいんだよ。鏡に映るその人はまさに正反対の存在……つまりね、生意気なやつもめちゃくちゃボクに媚びてくるようになるわけさ」
「オイ、ちょっと待て。じゃあ、もしかして……縁と奈々香は」
「ん?あああの生意気な二人?ちょっと鏡に映したら大人しくなったよ?」
いやいやね、ちょっと待って。
奈々香は今本性を隠して大人しくなってる、ってことはね?
「……いや、事前に謝っておく。すまない」
「はあ?」
「俺にはどうも、止められそうにないんだ」
ビュッと伸びた白い腕が、少年の首根っこを掴んだ。
「ハァイ、こーんにーちは。死ね」
ガッ、と一撃が綺麗に少年の背中に直撃する。壊れるのがどこかしっかりわかってやっているから、あんまり心配はしていない。
「テメェだよテメェ。オラ気ィ失ってんじゃねーぞこのダボがァ!!」
惚れ惚れするようなビンタが少年の顔面にクリティカルヒット。すごい首曲がった。
「なぁにがハーレムだこのスカタン!短小包茎が××××してぇだの×××××しろだの頭のネジは大丈夫か?」
「う、うぅ」
「最近のガキマジませてんなぁ。ちょっとお姉さんに見せてみろや」
ズボンをひっぺがされて、尻を丸出しにされる。
「え、なに、ちょっと、待って!?」
「人をいきなりこんな目にあわせておいて自分だけ待ってなんて、言いっこなしだろ」
パァン、という破裂音。それから強烈な叫び声が響き渡った。あたかも屠殺場の豚のような(聞いたことないけど)悲痛な叫び声に、俺は手を合わせてお辞儀しておいた。
南無三。
お尻ペンペン。
(これはフィクション)




