ダメ出し、ダメ出し、ダメ出し
全然話の大筋関係ないと思ってるだろ?
ちょっとはあるよ。ちょっとは。
「センスないわぁ……」
満身創痍でコンティニューする気すら起きなくなっている俺と、ALL20000円越えの服をチョイスしてきた戸谷は失格を食らっていた。
ちなみに俺は毎日棚の一番上にある服を着るタイプだ。
「なんで柄に柄を合わせるんですか?不思議です」
「ありえないよ。モノトーンで全部まとめるとか。差し色は欲しかった」
「可愛くない」
「……ねぇ」
俺の肩がみょんと跳ね上がった。
「なんで私にこれをチョイスすんのよ」
「い、いやあその。……習慣ってか」
奈々香のイメージ的にはほら、やっぱ勇ましいとか似合いそうだし。
「だからってなんで特攻服なのよ!」
ぐぬぬ、と歯噛みしながら俺はペチペチ殴られている。しかしまあ、なんというか、なぜそんなに女性らしさを無理に求めるのか理解に苦しむ。
俺の憧れからは遠くなっていく。
「もっとこう!可愛いのとか!あるでしょう!」
「あーすまんな、やっぱ無理だわ。俺、奈々香のイメージがヤンキー時代で止まってる」
「……どういうこと?」
奈々香の顔からすこんと表情が抜けた。やばい、怒っている。
「え、あの、ごめん」
「何を怒ってんのか分かってんの?」
「わかりません……」
「じゃあ謝ってんじゃねぇよ。はあ、マジ分かってないわ」
っていうか。
なんで俺がキレられて針のむしろに座らされてるんだよ。
意味がわからない。
あと分かってないとか言われても困る。一度も俺はそんなこと考えたことはないし、『女子』の扱い方なんてあんな妹で身につくと思ってんのか。
「……別に期待なんかしてなかったけどさ……私だって女の子なのよ?」
媚びるような、恨みがましいような、じっとりとした視線。
「……ぁ、」
誰のためかなんて分かっていなかったけれど。
こいつは俺のせいで変わってしまったんだ。
「おい、どうした桐葉?大丈夫か、顔色が悪いぞ」
「……悪ィ、今日は帰るな、俺。お金渡しとくから」
「え、いや、……分かった」
ふらふらと家に帰って、みんなで出かけると言う話を聞いていた妹が驚いていたこと以外は、あんまり記憶に残っていない。
「……兄貴、大丈夫?」
「梨花……?」
「井嶋さんから話はちょっと聞いた。ねえ、兄貴は、奈々香嬢のことどう思ってた?」
「……横暴で傲慢で暴力的で、もうどうしようもない人間だと思ってた。でも涙もろくて情に厚くて、俺は奈々香という人間を慕ってたよ」
「……そう」
慕ってた、という言葉の過去形に気づいたのか気づかなかったのか知らないが、俺は梨花の顔に浮かんだ安堵を見てしまった。
「……私はてっきり奈々香嬢が義姉になるんじゃないかってヒヤヒヤしてたよ」
「え?お前、あいつのこと嫌いだったの?」
「兄貴はさ。私の友達で、私を死にそうな目に合わせる奴を我慢できると思う?」
「でもお前は女だろ」
「今そういう話してんじゃねーよばかちん」
げしっと腹を蹴られて「おっふ」と声が漏れた。
「でも、兄貴は絶対そういう人に惹かれていく。……奈々香嬢が自分の恋心を自覚した時から、彼女の敗北は決定したんだよね」
「まあ、変わっちまったもんな。女らしくなって」
「それが私が奈々香嬢との付き合いをなんとしても止める気がなかった理由。……兄貴がドリーマーだからこそだな」
うんうんと頷きながら言ってるけど、慧眼すぎやしないかお前。
ってか、なんで俺が奈々香とそういうことになるのを阻止しようとしたんだ?
「……とか思ってるでしょ」
「俺のモノローグ勝手に使わないでくんない?」
「理由なんて簡単だよ。私、あの人のこと生理的に大っ嫌いなんだよね。何でもかんでもマヨネーズかけるとことか、なんかもう色々と無理。何より兄貴をあれだけ引き摺り回して、自分だけ女の子ですって顔して人の後ろに隠れようとしたところとかね」
ちょっと同族嫌悪だと思ったのは内緒で。
イライラする、と吐き捨てて、そして俺をにらんだ。
「兄貴とアレが結婚するなんて、嫌。それだったらまだ井嶋さんと結婚したって言われた方が納得いく」
「なんで唐突なBL展開!?」
「腐ったからだよ!!」
「たかが一ヶ月弱でお前に何があったんだよ!?」
全力で突っ込むと、息切れがしてきた。めまいもあるから疲れたってだけじゃないだろう。
「……クソ兄貴は、夕飯食べんの?」
「食べる」
なんだかんだ言って、腹は結構減っている。俺は無理やり体を起こして、ふらついた体を妹に文句を言われつつ支えてもらって階下へ降りていった。
その日は、寝付けずに真っ暗な天井を見上げていた。
はっきりといえば、俺は奈々香の気持ちに気付いてしまっていた。だから、拒絶したし、あの格好に嫌悪を抱いていた。
俺は、傲慢で横暴で馬鹿で暴力的で、それでもって涙もろく情に厚い彼女に、憧れてしまっていたのだ。
勝手に憧れ勝手に幻滅した。
他から見ていればこれ以上ないいい相手じゃないかと言われそうだが、幻滅した相手に、恋心は抱けなかった。
「最低だな」
俺は最低だ。
決着を、つけるべきだろう。
「おっはよ、具合もういいの」
「クソ、なんで朝から井嶋の顔なんか見て安心してんだ」
「あはは、あんまりだよそれは。まあ、いいか。……鈍感砲って通じた?」
「ああ、これ以上にない皮肉だったな」
俺は右手をちょっとひらりとさせて、頭の後ろに戻した。
「班はあのままにしてあるけど、いいの?」
「かまやしねぇよ。奈々香は友達だ」
「そうだね、君はとんでもなく残酷だ」
「残酷で結構。これもある意味優しさだ」
俺は井嶋の声にサラサラ答えると、浮かせていた椅子の二本足を地面に戻した。ちょっと酩酊感と衝撃があって、前のめりになる。
「っと」
「……何してんのよ」
「ああ、おはよう奈々香」
「お、おはよ……」
勢いが全くない。俺は苦く思いながらも、立ち上がった。
「あのさ!昼……時間ある?一緒にお昼食べない?」
「……わかった」
俺が頷くと、相手はホッとした表情になった。けれど、俺は全然ホッとできなかった。
嫌な時間ほど早く来る。
「……ん」
「サンキュー」
お互いにいちごみるくとコーヒー牛乳を放りあって、キャッチする。
「……色々、考えたんだけどさ」
「おう」
「私じゃ、ダメ?」
「……」
「私、あんたのこと好き」
けれど。
俺は、それでも。
「悪い。……俺はあんたに、憧れていた。今は幻滅して、多分、腐れ縁の幼馴染み以外には見れない」
沈黙が、長い。長すぎて、気まずい。
「……ぐずっ」
「え、あの、奈々香」
「慰めんな、触んなバカァ!!」
振り払われた手。確かに、そうだ。優しくするなと、奈々香の矜持が言っている。
お前は、立派なやつだよ。本当に。
俺みたいなやつじゃなくもっといいやつと出会える、そんな気がした。
服にダメ出し
妹のダメ出し
告白のダメ出し




