忘れていたよ、暴走の力を……。
なんかこんな長くする気なかったんだけどまあいいや。
「どうも」
縁は白のカッターシャツを肘まで捲り上げ、黒のスキニーを着てゴールドのバックルのついたベルトをしっかり締めていた。赤というカラーリングといい、金色の瞳といい、どこぞの筋の人に見えて気後れしそうである。
「よぉ」
「遅かったねえ」
「なんだ桐葉、あまり気合の入った服装ではないな」
「まあ、な。あんたはバッチリ決めてんな」
「そうだな。友人と買い物など初めてだ。何か突拍子も無い事が起こってほしい」
「……やめろよ。俺はこことは違うとこだけど起こったあとだぞ」
「おっと、失礼した。だがここに我々がいる限り早々おかしなことも起こるまい」
力強く微笑みながら頷かれると、そんな気がしてくるすごいふしぎ。
「おまたせ!」
「集合時刻は守れよ。立ちんぼじゃ疲れるだろ」
「し、仕方がないじゃない」
見れば結構なオシャレ度である。ひらひらのワンピースに、下はヒールのあるサンダルを履いているし、それで幾分遅くなったんだろう。
……ただ、なんというか、違和感がある。
「どう?」
「……不思議?」
「妙なコメントの上に疑問系で返さないでよ」
「はあ、全く桐葉ときたら。そこはふつうに似合ってるよ、って微笑めば完璧だろ?」
「……ああ」
そうではあるのだが、俺にはどうしてもそれができなかった。憧れは未だ風化しきっていない。俺の中にはまだ、あの頃の奈々香が力強く傷痕を残している。
だからこそ、縁にひどく親近感を覚えるし、可愛らしくなった幼馴染を素直に受け入れられない。
「じゃ、行くか。そういや昨日のテレビ見たか?」
「私Mステージ見てたわ」
「エリナ様かっこいいよね。踏まれたい」
「Sadistic Queens だったっけ?お前が好きなのって」
「そうそう。俺の推しはギターのエリナ様。縁ちゃんはドラムの子に似てるかなー」
「そ、そうか。今度聞いてみるよ」
「わあありがと。無理はしないでね、音楽はガチでかっこいいけど、Mの道に進みかけてる人がハマるヤツだから」
まあ、格好はボンテージの女王様だからな。
「……ん?いや、まさか……っ、や、やはりそうだ……」
「あ?どうした縁?」
「い、いや、なんでもない。なんでもないぞ。おおあそこに猫がいるぞかわいいな」
「いや動揺っぷりがなにもなかったって感じじゃないんだけど」
縁がスマホを突きつけてきた。
「これ、私の母親だ」
「……Sadistic Queensの。ドラムの人?」
「そ、そうだ」
「え!?ギリーさんって縁さんの母親!?」
井嶋が顔をわずかに赤く染めながら、縁に詰め寄った。
「ぎ、ギリーさんって……狭霧からとったんだろうが、またそれはなんとも。あ、会ったりは期待できないぞ?私とは六年前に分かれている。お互い承知の上でだ」
「離婚したの?」
「そうだ」
いや、多分違うんだろうなと俺は想像しつつも、あまりにきっぱり言い切った事で聞かれ慣れているんだろうと判断して、話を戻す。
「そりゃ似てて当たり前だったな。まあこの美貌じゃ経産婦には見えねぇか」
「えっ!……や、やっぱり、桐葉ってそっちの趣味!?」
「ねーよ。ってか、ここにいる全員、恋人いねーの?」
「僕は欲しいと思ってるんだけど、なかなか性の一致が得られなくってね。今の時期で同年代は難しいよね」
今はまだ模索の時期だから同年代は許してやれ。
「私は……そのっ、別に?モテはするけど?」
「へー、じゃあラブレターとかもらった?」
「い、今時ラブレターなんてあるわけないじゃん。ってかあんたはどうなのよ」
「俺はなー、なんかハードル変な方向に高くなってるっつか……」
多分おとなしい女の子じゃ俺が耐えきれなくなってしまうだろうな。
「そうだよねえ、縁さんは?」
「私か?すでに一般的な恋愛はできないと思っているがな。お前も例外じゃないぞ、桐葉」
「え?」
「我々というのはそういうモノだよ、桐葉」
「……そう、か」
血統すら、俺たちは実験材料なのだ。
「まあそれは致し方ないこととしても、それなりの自由はある。要はすでにヤってしまえば問題ない」
「ゲッホゲッホゲホ!?」
あまりにもあからさまな言い方に、俺の顔に血がかっと登る。
「ウブな反応だな」
「臆面もなくそんなこと言われるとビビるんだよこっちも!」
猥談くらい井嶋に付き合ってりゃ嫌でもなれるが、女子の口からさらっと出てくるとビビる。そりゃもうビビる。
なんせ童貞ですから。
「まあ、私も経験はないだけで耳年増という状態だから、あまり下ネタは飛ばさないでくれると嬉しい」
「普通は飛ばさないんだよ。なんで唐突にそうぶっ込んでくるかな……」
俺ががっくりしていると、くいくいと手を引かれた。
「ね、桐葉。あれ、戸谷君たちじゃない?」
「あ?」
「あ、本当だ」
井嶋の言葉に凍りついて、俺はスッと逃げ出した。しかしながら奈々香に回り込まれてしまった。
正確には掴まれていた袖のせいである。
「ねえ、せっかくだから一緒に行きましょうよ」
「い、嫌だ!絶対に俺ァ嫌だぞ!」
「イケメンだから嫌なの?」
「違う!生理的に無理なんだ!あいつの存在自体がカンに触る!」
「……大声で僕のことをディスらないでくれますか?苛立ちで消しとばしてやりたくなります」
そう言われて俺はぎぎぎ、と錆び付いた人形のように首を回した。振り返った先にはアルカイックスマイル。
よくよく考えて見たらこいつの笑い方、櫻子さんにそっくりなんだよな。
本人たちはそこまで仲良くなさそうってか、弟を気にかけるお姉ちゃんと、ウザがるけどお姉ちゃん嫌いじゃない弟みたいな。
ってなわけで俺たちはやはり会ってしまった。
「でなんでお前がいんだよクソ野郎」
「はは、躾のなっていない犬に出くわすとは思ってませんでした」
互いに睨み合いながら、肘でお互いをどつく。
「んで?お前他四人の女子をはべらせてハーレムしてるのはいいけど、なんで俺と同じ日に外出するんだよ。ないわ」
「お前が僕に合わせればいいだけの話でしょう、僕はあいにく犬の事情なんて知らないので」
「あっそ。じゃあな」
「ちょい待ち!……ねえ、ちょっと、そっちの女子の方なんだけど……」
ヒソヒソと肩を組んで内緒話を始めた。縁がそれを外からこっそり聞いて、俺を見てはニヤついている。
「なんなんだ?」
「……さあな」
嫌な予感しかしない。
「そうだ。こういうのはどうだ?……」
縁まで参戦して耳打ちを始めた。
「それ!いいわね!」
「昔やったゲームでな」
……縁さんって結構ぼっちエピ多くない?しかもゲームのエピソードってろくな奴じゃない気がするんだけど。ねえ。
「改めまして。じゃあ、この五人に似合うコーディネートを組んでください!制限時間は午前中。ちなみに私たちがそれぞれ持ってる予算内に収まらなかった場合、……失格ね?」
「は!?」
「いきなりですか……」
「わーい、面白そうだね。なんかテレビの企画っぽくて面白そう!」
「よーい!どん!」
とりあえず俺は声を大にして言いたい。
男の選ぶコーディネートなんて、女子にしてみればなんてクソなもの選んでくるんだよセンスねーな的なものだよ。
「あれ?縁は?」
「私は司会だ」
「テレビの企画かよ!」
俺の激しいツッコミはとどまるところを知らない。
明日から一日一話にします。貯蔵切れました。




