The日常!平和万歳!
HEIWA過ぎ。
「あああああああ平和だ」
「平和じゃないけどね。主に奈々香の機嫌が」
「ああ、俺、すごいHEIWA」
「だめだこりゃ、聞いてないや」
井嶋が頬杖をついて、物憂げに俺の方を見る。
「だってよぉ、バイトの方もそれなりに調査が進んでるとはいえ、今は準備段階だろ。使いこなす以外にはあんまり」
「へえそれは良かったわね桐葉」
「お、奈々香。どうした?」
「どうしたじゃないわボケ。そろそろ中間テストなんだけど勉強してんの?」
「……ハハッ奈々香って俺のことバカにしてる?やってるわけないじゃん当然」
「当然っておかしいだろおかしいよね!?」
井嶋がツッコミ側に回るのが珍しいが、俺は今割合にボケボケでいるので仕方がない。
平和が悪い。
「思えば生まれてこのかた平和だったことはあったろうか」
「悟ってないで勉強して!?」
「おや、腑抜けた犬がいますね。どこで拾ってきたんです?」
ふふん、という声が聞こえて、俺は一気にひやりとなにかを流し込まれたような気分になるわけだ。
戸谷マジぱねぇ。
「まあどうせ赤点でしょうけど、緊急の呼び出しもなくはないんですから、しっかり勉強してくださいよ。どうせ赤点でしょうけど?」
「は?お前喧嘩売ってんの?」
「……あ?やるんですか?」
「上等だコラ。試験勉強前の気晴らしに殴ってやる」
「全く野蛮ですね。ここはやはり、勉強で白黒つけましょう」
そりゃお前に有利すぎんじゃねぇの?
「一つの教科でも僕を越すことができたなら、そうですね……仕事部屋に筋トレグッズ一つ据え付けます」
「いらねーよ。つかなんで筋トレグッズなんだよ。人を脳筋みてぇに言ってんじゃねーよ。俺が勝ったら、でっかい堂のボリュームシュークリームとケーキ一個ずつ俺の家族分よこせ」
「いいんですか?そんなもので。では僕が勝ったら一日鍛錬でサンドバッグにされてください」
「へえいいのかそんなことで」
まあ、いいか。最近梨花も柾にぃも構ってねーから機嫌悪いし。
「試験は五日後ですからね。楽しみにしていますよ」
「ちょっと、やめといたほうがいいんじゃないの?」
「ええと、確か……奈々香さんでしたか?」
「あの、桐葉は馬鹿っぽく見えるけど、……バカではないのよ」
勉強しないだけで。
「ひゃっはっはっは、高笑いがとまらねぇぜ!!」
「……ば、バカな……」
「やっぱりこうなったか。ドンマイ戸谷君」
ぽんぽんと奈々香が戸谷の肩を叩くが、反応が薄い。やはり相当ショックだったらしい。
得意の数学でこてんぱんにされたことが。
「えげつないな、お前結構」
縁が呆れているが、俺はニヤニヤが止まらない。
「元の頭は悪くないけど勉強しないんだよね、桐葉って」
「ほっとけ。あはは、今日は早く帰ってシュークリームたーべよ。人の金で食う物はうまいんだよなー」
「……煽りが上手くなってる……」
ぽつりと井嶋が呆れるように呟いた。
「くっ、油断しました。見てくれが完全にバカだったので、てっきり中身もバカなのだと思い込んでいました」
「お前な……」
ムカついたが、今は最高に気分がいいので負け犬の遠吠えくらいは大目に見てやろう。
「あ、そういえば遠足の班って決まった?」
「遠足?」
井嶋の言葉に疑問を返すと、「そういえば桐葉入院してたや」と言われた。
「六月の初めにあるんだよ。みんなで遊園地」
「あー……遊園地」
「そうそう。結構太っ腹だよねえ」
「じゃあ、班はこのメンバーでいいんじゃねぇの?戸谷を除き。お前は女子とキャッキャウフフしてろ」
しっしっとやると、相手も同じ気持ちだったらしい。女子のグループの方へと歩いて行った。
「井嶋、俺、奈々香、縁……四人でいいのこれ?」
「うちのクラスが二十九人だったから、いいんじゃない?」
「まあ、あぶれたらそれなりに上手くやるだろうな。それでは二人ともよろしく頼む」
ニッコリ笑った縁に、奈々香はちょっとツンとしつつも手を握り、井嶋は「踏んで!」と発言したため俺に沈められた。
「遠足っておやつ300円までなのだろう?」
「今時それ守る高校生はいないと思うけどな……コンビニとかの適当なお菓子買ってみんなで分けて食べる、みたいな」
「じゃあ、チョコ担当とか、ポテチ担当とか決めましょ」
「どうせならみんなで買い出しに行くか。縁、今日は暇?」
「ああ。ついでに言うなら私はパートナーがいないからな、そちらのヘルプに向かうことはない」
へえ、と俺は不思議に思った。パートナーがいないとは、珍しいと思う。
あのいけ好かないクソ野郎と組まされているのは、能力の相性が悪かった時の補完をするためだ。俺がバリバリ近接タイプなのに対して、あいつは遠距離からチクチクしたりする方が得意。
問題は敵よりも預けた背中の方が危なそうな方なんだがそれは置いといて。
「へえ、意外」
「その件については、あとでな。じゃあ、買い出しはいつ行く?」
「今週末でいいだろう」
スマホをいじってそう縁が言うと、奈々香がちょっと言いづらそうに手を挙げた。
「あの、服とかってどうする?」
「制服かどうかってこと?遊園地では私服でいいんじゃねぇの。歩くことだけ考えてれば」
「あー、そ、そうね。やっぱり桐葉はスカートがいい?」
「え?スカート?人によるんでない?そりゃあ脚が綺麗なら似合うと思うけど」
「……なんでもないわよぉ」
両手で顔を覆って呻くようにそう言われると、全くなにも言えなかった。
買い出し当日。
「なんでお前がいるんだよ」
「こちらのセリフなんですけどねぇ」
互いに胸ぐらを掴み合いながら、俺たちはショッピングセンターの前にいた。
ガッ!




