事件は現場で起こってるけど会議室はカオスだった(前)
前の話あらすじ
戸谷の尋問回。
戸谷の能力は、文房具を様々に出現させて絵を描き、そのキャンバスとされた材料を使って実体化させる。お肉に絵を描いたらお肉がぽこんと動き出します。
人体だと痛みなどはなく、大変精神をえぐる光景なので尋問向き。
爺さんは逃げようとして駅前で戸谷の作った鳩にぽっぽと襲われて、怪我をしたところを戸谷が病院に連れて行くと言われて捕まる。ちょっと迂闊。
戸谷は最近小さい頃からお世話になっている櫻子さんに近づく輩が多いと鬱憤をためていたので、いつもより苛烈でした。
老人の生死は確かでない。
大草原で寝っ転がりながら、俺は皆を待っている。
正確には俺たち二人が。
「シュナって拘束されなくていい?」
「いや、まあなんてーの?俺もまさか敵から仲間になると思ってなかったってか」
「いいんだから。私の主人は赤の君」
「……あ、はい。さいですか」
話は少し前にさかのぼるわけもない。単純な話だ。戸谷からの連絡で、主人が無様に死んだと聞いた瞬間、「……うわ」という声を漏らして、ないわーないわーと言ってたところに、縁さんがね。
「何をしているんだ桐葉?」
「お、縁。これ、犯人の一味な。言ってることに疑問は残るが、とりあえず大まかなとこは理解できた」
「そうか。ほう、こんな小娘が……だが、面構えは悪くない。惜しいな」
「……ほ、ほぁあ……」
面構えは悪くないってあんたこいつ緩んだ顔しかしてないんだが。
「お、お姉様……いえ、赤の君!今日から私の忠誠をあなたに捧げる!」
「「は?」」
ここまでのシンクロっぷりを縁と披露するとは思わなかった。
とまあそんなわけでこいつが仲間になった。
本人曰く、ベジー◯枠だそうだ。本気の目をしていて、ベ◯ータがそのあとちょいちょいしでかすということを指摘できなかった俺。
ピッ◯ロのほうがいいと思った。
そんな余談をしているうちに、その場へ一人の男が現れた。
「遅かったな陰険野郎」
「愚犬じゃないですか。生きてたんですね」
「お前みたいに性格ねじ曲がってたら生きるのが楽しそうだよな。いちいち目標あって」
「バカにしていますよね、今日こそはあなたをボコボコにします」
しかしこいつ、隠せてねぇな。
溢れ出るような血の匂い。せめてシャワーを浴びるくらいはすると思ってたんだが、服を着替えてちょっと手を拭いたくらいだろ。
「……洗ってこい。気が滅入る」
「仕方がないでしょう。せめて着替えてきただけ感謝してください」
「じゃ離れたところにいろよ。臭い」
いらぬ風評被害を受けたとひとりごちながらも、俺から離れたところに寝転がる戸谷。
「やっほー!きーちゃんっ」
「おー。お前も寝るか?」
「遊ぶぅ!!」
腹の上にダイブを敢行してきたので、腹筋に力を入れて受け止めた。やばいこどもこわい。
躊躇なさすぎて怖い。
「そういえばねー。今日は、オンダが来るんだって」
「オンダ?」
「いっつも裸なの。あ、パンツは履いてるよ」
「パンツはいててもダメだよ。ってかなんなんだよその人」
「あはは、櫻子とおんなじこと言ってるー。うーん、人は生まれた時は服を着ていないから、しょしん?を忘れたくないんだって」
「忘れちまえよそんな初心。ほんとにこの組織がまともに稼働していることに感動すら覚えてるよ」
ざっと草を踏む音がして、俺は仰向けのまま首だけ動かす。年齢詐称組が歩いてきた。
「あら、お昼寝?楽しそうね。でも、今日は白いから無理なのよ」
「あ、どうも、お二人とも」
「寝たままでもいいけど、新しいやつが来たら挨拶しろよ」
「うっす。でも、珍しいですね。なんかフルメンバーって感じで」
「そうねえ、最近はなかったから」
俺は上体をよっこらせと起こすと、蝉のように貼り付いてくるセナを抱っこしたまま立ち上がった。
「んじゃあ、なんでですか?」
「あなたが捕まえたのが、だいぶ大物だったからなのよね」
「……これ?」
「そう、その子。信憑性に関しては、まあ嘘発見器があるし、そこは科学でなんとかしましょ」
意外とデジタルな解決方法だった。
「あら、皆さんだいぶんお揃いですね」
「少々時間を過ぎています。二人とも、何をしていたんですか」
「うふふ、ごめんなさい」
櫻子さんの微笑みに気まずそうに目をそらす戸谷。
「それに恩田、あなたなぜもう裸なんですか。汚いものを僕の目の前に出さないでください」
「汚くなどないね」
せめてブリーフかと思ってたのに……ブーメランかよ。
しっかしまあ、鍛え上げている。俺のように使う筋肉を綺麗につけたのではなく、魅せるように筋肉をつけている。
「……まぁいいや、変態の一人や二人増えてもそう変わらんだろ。俺は新田桐葉、よろしく」
「ん?新人かい?いやあ会うのは初めてだが……いい筋肉してるね?」
ねっとりと視線を向けられるが、俺は照れたように笑いを返す。
「俺は人呼んでマッッッッソオォー!!侍だよ。本名は恩田 三郎さ」
「いや侍なのかよ」
「侍だよ。腰に佩いた剣はホンモノさ」
「……下ネタかよ」
「はっはっはっは」
「さて。そこの筋肉は放っておけ、会議を始めるぞ。まずは、先月から引き続いた件だ」
「私は特に言うことはないわね。やっぱり現場からうまく動いてはくれないわ」
みゆちゃんが溜息をついて、悩ましげにしている。
「そっちは武器ルートの資金源からちょっかいをかけてみる。それで動きがなかったら、別のアプローチを考えたほうがいいな」
「なあ、縁。ヤシロさんって結構偉いの?」
「本部長という役職はもらっている。だが、実質先の先まで考えて冷静に動ける人だから、あの人の指示には従っておいたほうがいいぞ」
「ああ、なるほど謀略家みたいなもんか」
「次は私の報告だな」
縁が懐から資料を一枚取り出した。
「次は私だ。ええと、先月末にある倉庫街へお邪魔して、政府の高官の流出データは守られている。付属するデータは知らん」
「あそこにあったなら燃えてんじゃねーの?」
「確証はない。やはり警戒すべきだろう」
「実際あれってなんのデータだったんだ?」
「警察によって押収されたブツを横流ししていた奴が、超能力者の顔写真の載ったリストを盗難していた。お前のは未記載だった」
「ヤベーじゃんそれ!?」
「だから都合がいいと言ったろう。そいつは消したが、データはパソコンごとだったからな。それにセキュリティロックは十分かかっていて、声紋認証などを突破しなければいけない」
だからあのパソコンをそこまで警戒していたんだと今更ながらに息を吐く。
「どうりであの警備だったわけか」
「そうだな。私も多少説明が行き届いていなかった。質問されなかったら永遠に流す気でいた」
「ひでぇぞこいつ」
ヤシロさんの咳払い。どうも話し込み過ぎたらしい。
「パソコン自体は破棄に成功している。まず優秀なハッキングを行えるものでも、あれを高々四日ほどで突破はできないとの試算が出ていた。まあ、狙われるようになったらその試算を出した阿呆を恨んでキレたまえ」
さらりと言い終えて、櫻子さんが手を挙げた。
「それでは、奇怪現象が起きた通報の件について。申し訳ありません、ただの心霊現象でした」
「え、心霊現象って」
「ええとですね、なんと申したものか……結局のところ、我々は思念エネルギーによって超能力を起こしています。つまり……超能力者が死ぬ前に念じたりすると、起きるのですよ」
「あ、とりあえずよくわかんないんで話を先に進めていいです」
「あら、ではまた今度にしましょう」
そう言って、彼女は微笑みを深くした。
「では、俺だね。俺は空振りだった。櫻子の方とも違う完全な空振りなので、あとは警察にお任せする」
「そうか、ま、そうだな。ここまで関係してるのが実際珍しいことだから」
「なんだかんだ言って超能力者はそれなりに少ない、という話だ。あまり当たりは多くはない」
「そうなんだな。でも俺が来てからどうもその辺怪しいけどな」
縁の囁きだったが、俺はそれに否定意見を返す。
「どういうことだ?」
「連中がおれんちなんかの近くでテロを起こした。あれはガス爆発ってことで終わったが、あれは小手調べだろうと思う」
「根拠は、ないか?」
「あまり。だが、シュナが何か知ってるかもしれない。そこを聞いてみるべきだろう」
ヤシロさんが資料をめくり何事か書き込むと俺の方を見て頷いた。
「えー、報告なんで初めてなのでお手柔らかに。ストーカー被害を受けていた女性だが、一時接触してしまいました。でも、なんか知り合いがいたのでいい感じに鍵すりとって、最終的になんとか部屋の潜入に成功。しかし予想以上に浸食が激しくて、ふくらはぎ滅多刺しにされました。結局集団によってストーカーしていたので、一人暮らしを重点的に見ていたことが落ち度でした。気をつけます」
「そうか。部屋自体は安全に戻してある。掃除も苦労したんだからな」
「それについてはすんませんっした。あ、それでそのストーカー一味を捕まえた時の話なんですけど、爺さんの方は戸谷に任せて、俺はこいつと話してました」
黒髪に、このクソ暑い中マフラーを巻いた少女。
「色々話してもらうけど、いいよなシュナちゃん」
「うん。構わないんだから」
ブーメラン