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女子の部屋

あんまり話数はない予定だけど、書いてて一度も話数増やさなかったことないんだよね。

部屋の中はこざっぱりとしているが、割合にピンク色がちらほら見える。ベッドの上はぬいぐるみが多く、ファンシーだ。

そして、クッションの上に置かれたクマのぬいぐるみ。


「こいつがクマ吉か?」

俺はそれをガッと鷲掴みにすると、その首をぎゅっと締める。しかしながら一切の反応がない。


「憑依を解いてるのか……?」

ブンブンと振り回していると、俺のふくらはぎに突然冷たい感触が走った。それからかっと熱を持ったように痛みが広がる。

「なん……」

そこにいなかったはずのクマのぬいぐるみは、ギザギザに縫われた口を見せながら俺の足を何度も突き刺す。肉がぐずぐずに裂けていくのを見ながら、なぜか俺は動けなかった。


理由は簡単だった。


部屋中のすべての物が、俺を拘束している。


床も壁も天井も机も椅子もカーテンも植木鉢も一切合切が俺を拘束している。

巻きつき絡み何もかも縛り付けて、俺は喘ぎながら電撃を発する。しかし気絶する相手がいない。多少焦げるだけだし、そうなれば俺だって熱い。


「っぐ、」

床に倒れ込まされ、ぬいぐるみがよちよちと俺の腹の上に乗ってくる。胸のあたりで小首を傾げてから、包丁をもたついた動きで振り上げた。


振り下ろされる銀閃。高速がぎちぎち音を立てていて、耳障りだ。


けどな。

——包丁は、磁石にくっつくんだよ!!

左脚を磁石に。


「ぐ、ぁああ!!」

飛ぶように吸い付いたことで、一緒にぬいぐるみも飛ぶ。全ての拘束が止まった。無理やり引き破ると、磁力を切ってぬいぐるみを蹴り飛ばして放置して、窓を突き破るように外へ出る。

ベランダの外へ出て、それから後ろ側の茂みめがけて飛び降りる。


太い枝が肩をがりっと擦って、顔や腕、あちこちを細い枝が引っ掻いていく。しかしながら、飛び降りた高さによらず軽傷だ。

木の太い枝に両手をかけて、体を落としてから地面に着地する。


「ぐぁあ、っ……!!」

おもくそふくらはぎに力入れちまった。


「く、っそ、まずは血を止めねぇと」


くだんの口布をふくらはぎに止血も兼ねてしっかりと巻きつける。スマホをポケットから取り出して、連絡を始める。


「もしもしヤシロさんか?」

『どうした?』

「セナちゃんの手が空いてたら回して欲しい。ふくらはぎがミンチだ」

『うわ、お前よくそれでやれんな』

「それと、ぬいぐるみだが……遅かった。多分一定時間以上の接触によって、侵食範囲が広がってる」


向こうで考えているような気配がした。


『部屋ごと、か?お前今無事なのか?』

「ああ。無事っちゃ無事だけどな……」

『あいにく、セナは今出てる。帰ってくるまでに時間はそうかからないが、櫻子が困るだろう』

「あ、心臓に刺さったとかじゃねぇからいいんだけどよ。ちょっと機動力に問題がある。うまく言って足止めするから、あのスカしたクソバカイケメンを動かしてくれるとありがたい」

『直接要請しろよ……』

「決まってんでしょ、あいつが俺と話すと事態がこじれそうなんですよ」


通話ボタンを切ると、次は井嶋へ。


「もしもし?」

『あ、もしもし?どした?』

「ちょっと動けねぇんだ。今からいう住所に来て、それから佐久間に連絡して鍵を落としてたって連絡してやれ。その辺の理由はでっちあげろ」

『え、あ、うん……動けないって、なんかあった?』

「隠れてんの。相手の追跡はないが、はっきり言えば須藤さんの家自体が危ない。彼女を家に帰すな」

『りょかい。治療はどうするの?』

「ツテがあるからそっちでなんとかする」


困惑したような表情のまま、井嶋がやって来て鍵を受け取った。

「血の匂いがする」

「俺のじゃねぇよ」

「ふーん、そう。……あんまり欲張りすぎんなよー。僕だって限度ってものがある」

「あ、ああ」

「お店から連絡があって忘れ物してたってことにするから。もう閉店の時間だから、一応理にはかなってる」


電話をかけて、二人が佐久間のアパートに向かったと聞いて一安心する。そのアパートに関しては知っているということなので、届けると井嶋が申し出てくれたようだ。

「ありがとな、井嶋」

「ホントだよ、俺も疲れ切って……いや、顎で使われてるかと思うとこれはこれでありかな」

ナシだよ。


「とりあえず病院に行こう。桐葉がヤバいとなると、奈々香がうるさいから」

「……井嶋、ちょっと待ってくれ。怪我はしてねーぞ」

「そんな稚拙な嘘僕が騙されるとか本気で思ってる?」

「や、してねーよ。ほんとだって」

「じゃあ脚見せてみなよ。僕だって伊達に殴り殴られしてたわけじゃないよ?動きがおかしければすぐに気づくし、血の匂いなんて鍵慣れたもんじゃないか」


セナちゃんに治してもらったということがバレれば、超能力者の存在を世間に明らかにする前に井嶋が殺されるかもしれない。

殺すまでは行かずとも、外に一切出られなくなるかもしれない。


ヤシロさんが家に来た時は、窓を開けて外から入ってきた。帰る時には妹がいなかったから、能力を使っていた。まだ言い訳が聞くレベルだ。

なおかつ俺の家族の安全を保障しているなら、それはもう生殺与奪を握られているのと同じだ。


しかしこればっかりは、無理だ。

ごまかしがきかない。


「いや、井嶋、あのな……」


肩をぽんと軽く叩かれて、振り向く。


「何をしているんだ。全く、セナを連れてきたぞ。そちらのは、お前の友だったな」

「よ、よすが……?」

「どこまで話していいか。それは話す相手の口の固さと社会的信用の厚さによって決定する。そいつならば問題ない」

信じる人はいないから、と暗に言い切るその言葉に、俺は安心して地面に崩れ落ちた。


「あ゛ーっ、くそ痛え!ったくなんであんなふくらはぎばっか執拗に狙ってくるんだよ!」

「っくそ、やっぱりじゃないか!止血って言ったってそんな適当じゃダメだろ」

「あ、ダメダメ触っちゃダメー。セナが治すんだから!」


にこぉ、と邪気のない微笑みに井嶋が動きを止めた。


「な、治すって……」

「じゃ、行くよきーちゃん!ッシャオラアアアア治れ!」

ごすん、と明らかに痛い音が響き渡る。患部をぶん殴って治すんだから当然だ。


「ぐぁああああっってええええ」

悶絶して地面を転げ回る俺を心配して駆け寄るが、助け起こして患部を見て目を見開いた。


「な、おってる」

「治るさ」

「なんで!?」

「あー……すまんが二人とも後にしてくれ。今の状況整理しよう。とりあえず、ここじゃ見つかった時面倒だ。できれば朝までにあのぶち破ったガラスと、部屋の中の大惨事をなんとかしたい」

「そうだった。詳しく話せ、桐葉」


俺がそこまでの経緯を話すと、縁がふむ…と考え込むようにして言った。


「……幾ら何でも侵食が早すぎる。もしかしたら上下左右の部屋のいずれかに本体がいるのかもしれない」

「本体が?」

「憑依なら、存在が染み込むのにある程度の時間は要する。故に必要なのは、本体を探し出すこと」

「でももしかしたらあの部屋にいるかもしれないぜ?」

「それはほとんど無いな。なぜなら生活をする上で食事、風呂、掃除を気兼ねなく行えることがないからだ。しかし事前に調べていたというのに……」


もしかしたらお前がいた隣の部屋にいたかもしれないぞと聞かされて、ビビる。


「それはそうだな……じゃあ、上下左右の部屋を当たってみるか?」

「今さっきまで部屋の全てを動かしていたとなると、非常に体力を消耗したはずだ。おそらくだが、倒れているか、その寸前だ」


縁の言った通り、不自然に倒れている男がいる部屋があったらしい。俺はその部屋のドアホンを鳴らす。


縁はすでにベランダに降り立っている。


『部屋の中に動きがあった。逃げようとしている、そちらに向かっているぞ』

俺は少しだけ右足を引いて、鍵が開くのをじっと待った。

拘束部屋(文字通り)

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