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一筋縄でいかない

ここまでが俺の場所な?入ってくんなよ?ちょっ、テメェ引いた線踏んでんじゃねーよ!そこ俺んところだから!

っていう感じ。

「こーゆー妨害ってねーよ。なあ?」

「なしよ。絶対なし!」

腹を立てているみゆちゃんと、それに同調するヤシロさん。

二人揃うとなんだか中学生のダベリっぽく見えて……。


「おい桐葉。お前ちょっとジュース買ってきてくんないか?」

「コンポタでいいっすか?」

「なんでコンポタなんだよ」

「俺ん中ではジュースの中にコンポタも入ってます」

表情をちょっとキリッとさせると、ヤシロさんが大きくため息をついて、俺に500円玉をぶん投げた。


「しゃーねーな。オレンジジュースか、りんごな。濃縮還元でもいいけど100%じゃなきゃダメだぞ」

「へーい」

キャッチしたそれを持って、上階へ。


俺がなぜ警察病院の地下空間にいるかといえば、今日からのお仕事は警察さんに引き継がれて(うばわれて)しまったからです。てへ。


「……むーかーつーくー!!」

遠くからみゆちゃんの声が聞こえてきた。今回に限らず横槍を入れてくることはあったのだが、結局証拠不十分で検挙できず、放逐してしまうと言うのが本当のところらしい。


まあ、超能力立件しようとか思わねーしなぁ……。犯罪に使おうと思えば、俺の力なんかめちゃくちゃ便利だと思う。

ただそれでそういうことをするには、裏にいる用心棒的超能力者の領分を犯さない様に、非常に気を配る必要があるらしい。


警察としては自分たちとは異なる規則で自由に動いているように見えるから、俺たちの仕事が彼らの領分を侵したと見るや噛み付いてくるらしい。


「ややこしいことで」

下唇を突き出して不服そうな顔をしつつ自販機のボタンを押すと、自分の分の炭酸水を買った。手間賃も含んでいるようなので、パシられるのは別に構わない。


甘ったるいのは好きではないので、お酒を割るような、味のないそれをぐびぐび飲みながら地下へと降りていく。


「お二人さん、っと」

「サンキュー」

ヤシロさんが投げられたのを危なげなく受け取ると、みゆちゃんにもう一本を手渡した。

前やったらみゆちゃんは落とした。

「ま、しょうがねぇ。この件に関しては『個人的に調べる分には』構わん。金に関しては俺が出す。お前やっとけよ、これはお前の手際の調査も兼ねてっからな」

「ういす」


指示を受けて、俺は返事をすると立ち上がった。

「あ、これ美味しいわね。なかなかよ」

「ん?どれ一口。おぉ、結構うまいな」

ナチュラルに飲み回しをしているし、距離感が結構近くて、疑問に耐えかねて俺は聞いてみた。


「あの、お二人って付き合ってたり?」

恐る恐るだったが、すごいポカンとされて大爆笑を受け取った。

「付き合う?……あっはっはっは!!ちーがーうーわーよー。んふふ、もう籍入れてるんだから」

「こいつのゴリ押しだがな」

「って既婚者ァ!?ヤベェ全然見えねぇ、俺の知る夫婦と違う!?」


頭を抱えて草の上で転げ回ると、ヤシロさんがふうっと煙を吐き出して笑った。

「ま、夫婦っていうよりは相棒だからな。気づけば相手して十数年だぜ?」

そういうものなのか、と俺はふんふん頷いていた。気づけばとっくに日暮れの時間になっていて、俺は慌てて挨拶をしてから帰宅する。


……つもりだったのだけど、状況が変わった。


ターゲットの須藤さんが、ふらふらと危なっかしい調子で歩いている。その足取りはおぼつかなくて、思わず声をかけそうになるレベルだ。

いや、これ接触した方がいいかもしれない。


「あの、大丈夫ですか?すごくフラフラしてるみたいですが」

俺は物腰柔らかそうに話しかける。泣きはらした真っ赤な目が俺をとらえて、彼女が俺に抱きついてわんわん泣き始めた。

え、嘘やろ。

いや服はこれ他校のやつだからいいんだけど。


「え、あ、えー……とりあえず、どこかに移動しましょうか」

「すぶぉ」

鼻水をすすったようなそんな音が聞こえ、俺の頰が盛大に引きつった。


「……振られたんですっ、四年付き合った彼氏に結婚を切り出したら、待ってくれって……」

「そうなんですかー」

「でも私もそろそろ結婚を考える歳になってきて、あの人となら一生一緒にいてもいいと思ってたのに!!そこから口喧嘩になっちゃって」


非常に言いにくいことなのだが、彼氏との仲は非常に良好だったと聞いている。問題は彼氏がプロポーズの準備をしていたことなんだよ言いたいけど言い出せないこのもどかしさ。


「ふぐっ、ひぐぇ」

化粧はボロボロ、涙の跡が残ってみっともない格好ではあったけれど、ひどく泣いていて、俺も迂闊に慰めの言葉さえかけることもできず、注文したアイスコーヒーをすすっていた。だが高々一杯では間が持たなかった。


「すいません、店員さん」

「はぁーい?って、桐葉?何してんの?そっち涼香さんじゃない?」

驚いた。

井嶋がバイトしてる!!まともな店で!!

「井嶋この人と知り合いなのか?」

「知り合いも何も、いとこのにーちゃんとの指輪買いに付き合わされた人だよ。ちょっと前に話したと思うけど?」

「お前の話は八割くらい真面目に聞いてない」

「僕の好感度そんなに欲しいのかい?」

ハァハァしながら接客してんじゃねーよ。


「とりあえずココアとコーヒー一つずつ。お前は何のみたい?」

「あれ、おごってくれるの?」

「時間的にそろそろ上がりだろ。一杯くらいならな」

親にはすでに連絡済みだ。


「あ、あの、ごめんなさい。えと」

「いいよ、まあ道端に置いとくには忍びなかったからな。あとなんか車に轢かれそうだったから」

「そ、そう?ごめんね」


俺はもう一杯カフェオレを井嶋のために注文すると、彼女に向き直った。

「改めまして、まあ俺は通りすがりの学生だ。んでもってアレは井嶋」

「井嶋……確かに、カレのお母さんの旧姓が、井嶋だって」

「そ?その辺は俺は知らねぇけど、どうも井嶋のやつ、呼んだみたいだぞ?」

「え?誰を?」

「あんたの彼氏」


ガタン!と立ち上がりそうになって、ふらつきながら倒れそうになった。それを引き止めると、もう一度座らせる。

「な、なんで、あーちゃんが」

「俺もびっくりだよ、いい年した大人の喧嘩の仲裁をすることになるなんてな」


辛辣に言い切ると、「うぅう」といううめき声が聞こえた。

「とりあえず顔洗って来たら?メイクぐっちゃぐちゃでひどいよ、顔」

「嘘!?」


ポーチをひっつかんでお手洗いに走り去っていく。俺はふうっと息を吐いてから、スマホをいじり始めた。横に井嶋が滑り込んでくる。


「ところで桐葉、なんで他校の制服着てるの?」

「まあ、色々事情がな。それよりお前がこんなところで色々してるなんて聞いてない」

「言ってないよ。だって僕、短期のバイトのお手伝いだもの」

「そうなん?じゃあ奈々香呼んでからかうの難しそうだな」

「やめてくれる?興奮して仕事にならない。女の子に侮蔑の目を向けられてからかわれるなんてM心を刺激するようなことしないでよ」

「……もうどうしたらいいのかわかんねー……」


俺が呆れていると、だいぶんマシな姿になった須藤さんがお手洗いから出てきた。

「おまたせしましたー……」

「わ、写真通りの人だ。やっぱり須藤さん」

「ええと、あーちゃんの、じゃなくって、敦啓(あつひろ)さんの、いとこさんでしたっけ?」

「ハイそうですよ。えっと、証拠写真」

「あぁ、たしかに敦啓さんです。えと、それで、彼を呼んだって言うのは……」


言いにくそうにしている彼女に、井嶋が不思議そうに言った。

「だって、すれ違いが起きそうなのに黙って見ているなんてできませんし」

「すれ違い……?」

「ええっと。あ、ヒロにーちゃんこっち」


井嶋が手を振った先には、見覚えのある人がいた。

「げっ!?佐久間!?」

「げっ、新田!?」

「アレ?二人とも知り合い?」

「……お前は知んねーかもしれねーけど、アレは他校に潜入しようとした時だった」

「え?潜入って……どのこと?」

「高校の名前は俺も覚えてないから、ちなみにそこは大して重要じゃねぇよ」


話は少しだけ遡る。

須藤パンダ

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