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俺の幼なじみがなんだか不機嫌な件

今話から少々犯罪に触れる行為がありますが、これはフィクションです。実在の人物や団体には一切関係なく、また犯罪を励行・教唆する等の意図はありません。

「ちょっとよくも既読無視したわね」

「げ。奈々香」

「僕は無視かな?興奮するよ!」

「するな落ち着け正座してろ」


井嶋がアホを言っているが、今は奈々香の方だろう。


「てか既読無視自体はお前が何度もやってんだろ?なんで自分がされたら怒るんだよ」

「するのとされるのは違うでしょ!で、なんで昨日は既読無視したわけ?」

「疲れててな、寝落ちしたわ」

「……あんたが疲れるって、何があったのよ」

「バイトだよバイト」


ムッとした様だが、すぐにいいことを思いついたって顔になる。

「じゃあ私もそこで働く!縁さんもそこの人なんでしょ?あんたが私の知らない間にできてる友人なんて他にいるわけないし。それにあんたより確実に要領はいいから」

「……俺そんなコミュ障だと思われてる?違うからな?ちょっとツッコミ体質なだけだからな?」


ひどい風評被害を受けつつも、俺はさらに機嫌の悪くなった奈々香に言い聞かせる様に言った。

「しかもお前だとそこで働けないし」

「なんで」

「なんでもどうしても、だめだ」


無理だとそう言えば、彼女はぐっと眉を寄せて俺を涙目で睨んだ。——前であれば、きっと、有無を言わさずに俺を殴りつけてでも仕事場に連れてこうとしただろうにと考えて、身震いする。

俺は、コイツの変化を、よしとしていない。


「……そう、やって、仲間外れにするんだ。私たちはいつも一緒だったじゃん……隣のガッコにカチコミかけたときも、銀行で人質騒ぎになったときも、小さい頃からいつも一緒だったのに……」

「ねえ僕は?僕今すごい蚊帳の外にされたんだけど」

「井嶋、お前が出しゃばると話がややこしくなるからちょっと黙ってくれね?ってかンなこと持ち出すとか、奈々香どうしたんだよマジで……」


俺が知る奈々香とは違う。


俺が知るあんたはもっと——。


そう思いかけて、そこに真紅が重なって見えて、体を一度震わせる。気分が一気に冷静になった。

誰かを重ねたなんて、思ってはいけないと、そう感じた。


「……桐葉のバカー!」

そう言って俺の足を蹴ろうとして、その脚がためらう様に減速したのがわかって、イライラした。

言いたいことを言っていないそのうじうじする様がひどく気にくわないが、それは仕方がないことだ。俺も隠し事をしている。

眉をぐっと寄せそうになったのを抑えて、ため息をつく。


「……うわぁ鈍感砲」

ニヤつきながらそう言う腐れ縁②に、俺は肘鉄を軽く入れた。あふん、という声が聞こえてきたがあえて無視。

流石に放置は良くないと思ったので、発言に返答を返す。


「人を固定砲台みたいに言うのはやめろ。俺はアレをそういう目で見たことは一度たりともないし、あっちも幼馴染に隠し事されて腹が立ってるだけだと思うぞ」

「一度も?マジで?」

「確実に違うと言い切れるな。お前母親に興奮しないだろ」

「よっぽど特殊思考でなければね。僕はまあありがちな性癖だから」

「お前がありがちだったら俺はどうしたらいいんだ?」


強烈で、鮮烈で、どこまでも俺の前を行く様な背中は、横に並んでしまって、なんだか後ろに下がりつつある。

有り体に言えば、つまらなくなってしまった。


「お前も難儀なやつだね」

「お前に言われるとスッゲェ違和感。……お前ならわかるだろ。奈々香は変わった」

「ああ、変わったよね。女の子らしくなった」

そう、女の子らしく、突飛な行動は無くなってきて、常識的になった。


「くそぉ、だいたいあいつなんであんなにしおらしくなったんだよ!鳥肌立つくらい気持ち悪りぃんだよ、知り合いが女装してるって聞いた時以来だ」

「そんな知り合いがいることに僕は驚いているけど、とりあえずは、まあ、桐葉はもう少しだけ奈々香の今が誰のためか、考えた方がいいんじゃない?」


誰のためか、か?俺は話の意図がわからなかったが、とりあえず曖昧に肯定して話を流すことにした。


放課後、俺は戸谷に呼び出されて屋上に来ていた。この顔むかつくわぁ。

「んで何の用」

「ストーキングの経験は?」

「あ?……ねーよと言いたい手前だが、ど素人なら尾けたことあるぞ」

「そうですか。あなたに後をつけていただきたい人物がいます」

「なぜ?」

「今から話しますよ、短気な犬ですね」

「さらっと俺を犬扱いすんなよ作り笑い」


手渡されたのは、一枚の写真。そこにはごく普通のOLの様な人が映っていた。

「名前は」

須藤(すどう) 涼香(すずか)。年は24、勤め先はくろくま文具の経理担当です。で、なぜ尾行してほしいか、ですが……どうやら彼女が昨日拾ったぬいぐるみ、それが超能力者のストーカーのものだったらしく」

「は?マジで?」

「そのぬいぐるみを通じて何やかやとやっているようなのです。憑依、といえばわかりますか?」


……あーまじかー。


「とりあえずは様子見?」

「ええ。万が一があれば、取り押さえて欲しいとは思いますが、はっきり言って相手に乗っ取られた場合、あなたならまだ取り押さえできます。純粋に肉体能力が高いのはさておき、すでに日鳥が血液でのマーキングしているので、誘導もある程度容易い」

「えっちょっと待って何マーキングって採血したとしか聞いてないぞ俺」


俺の動揺を歯牙にもかけず、似非イケメンが話を続ける。


「これも立派な犯罪行為です。僕ら以外では、物的証拠もない以上取り締まり対象にはなりません。海外のある地域では呪いをかけると罪ということもありますが、ここは日本で現代は科学を基礎として犯罪を追い詰めるスタンスです。僕らはそこから少し外れて、大きく犯罪者を囲い込む、網の様なもの」

「……とりあえずその仕事をやりゃいいんだろ」

「ええ、そう言ってるじゃないですか」

「今のがそう聞こえるんだとしたらお前よっぽどエスパーだろ」


社訓を何度も繰り返す上司みたいだったぞお前。

注意してやらねぇけど。


「ですが、最も良い結果はぬいぐるみの回収でしょう。早めにお願いします」

「ぬいぐるみ、ねえ」


俺がこの仕事にいるのは、いくつもの懸案事項とあれやこれやを天秤にかけて、ここにいた方がいいと判断したからだ。断じてこの仕事に誇りなんざ持ってないし、殺すってのは俺にはできない。仕事をこなす上で、それは大きな欠陥だとみゆちゃんに指摘された。

それでも俺はできない。


要するにこんな仕事に誇りなんて持ってやってたら、だんだん自分がどうしていいのかわからなくなって、理想と現実の差異に苦しむ。

まるで今の俺が奈々香に幻想(かこ)を重ねた様に。


「自宅までのルートと、それに付随しての容疑者の候補。それから人間関係の図と、あとは行きつけの店とか、スーパーとか。そういうのもあったらくれ」

「あればそうします。いやぁ、僕は清々しい限りです。この仕事、僕はあなたが乗っ取られた時のぶちのめし役ですから」

「クソスッキリした顔しやがってそういうことかよ!?」


今日なんか存在感薄いと思ったら、俺に苛立って絡んでくるのが少なかったってだけか!?


……ってなわけで、俺は今、須藤さんの最寄駅で、近隣学校の制服を身にまとって携帯をいじっている。

「……くっそ、あいつ頭ん中までゆるふわなんじゃねーの?マジありえねー……何だよこの雑な情報網。これだったらアイツらの方が断然ましじゃねーか」


俺はコミュニケーションアプリを開き、あるグループに入室する。

『この駅らへんで便利なコンビニとかスーパーとか知らね?』

『あ、キリさんおひさっす!』

『ひさでーす』

『そこならショウダスーパーとか、いいっすよ?』

『住むんですかー?いい物件知ってますよ。お化け出るって噂ですけど』

『いや、知り合いが引っ越してな』


とりとめもない会話を指先で続けていると、疲れ切った様な顔のOLが、駅のホームに現れる。会社員の波の中、へろへろだ。

この時間は流石に混むから大変そうだ。


「……もしもーし」

『はいはいみんな大好きみゆちゃんよ。どう?』

「待ち合わせには間に合いそうだ。距離を置いて歩いて行く」

『了解。じゃあ、見失わない様に、あと周りにも気を配っておいてね』

「はいはい、んじゃな」


俺は通話を切ると、荷物を背負い直して歩き始めた。スマホをいじりながら、疲れ切っているその背中を少し離れて追いかける。その道中怪しい人物を観察してみたが、結構これがわっかんねーもんだ。

「……ただいまー……また、ポストに変な手紙入ってるし」

はぁ、とため息をついている声が聞こえる。


え?どこから聞いてるのかって?

そんなん決まってんじゃん隣の空き部屋だよ!!

盗聴機器がっちり用意してあったのには引いた。こんなことするなんて聞いてなかった。


「国家権力って凄いわー」

現実逃避の様にそう言いつつ、俺は腕立て伏せを始める。ヘッドホンをしたままなので、いつもより挙動に気を使いはするが、なかなかこれも新鮮で楽しい。手で体重を支えてそのまま倒立へと移行すると、風呂から上がってきたらしく、音がした。

聞く態勢に入る。


プシュッとビール缶を開けた音がして、そこから「ああああああぁああ……」と満足そうな声が聞こえる。すると、そこから先は怒涛の様な愚痴が始まった。


「もーマジで最悪だよ口クセェんだよあの専務。だいたいよぉ、なんなんだあの仕事の割り振り。あたしゃ雑務で雇われたんじゃねーよ経理だよ経理!」

そして、最後にビールの缶を置いた金属音。


「私の癒しはクマ吉だけだよぉ!くまきちいいい!ああなんで君はクマなの!ついあまりの愛くるしさに拾ったけど拾ってよかった。ふふふ」

クマ。


……そうかクマのぬいぐるみか。


「もしもし?ああ、うん、俺。そうそう、どうやらクマのぬいぐるみみたいだ。まあ個人の主観で色々はあると思うが、拾ってきたぬいぐるみってとこで、おおよそ確定だろ」


どうやらこの仕事は早々に終わりそうだ。







2018.05.20©︎あじふらい

幼馴染ヽ(#`д´)ノ<構いなさいよ!

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