鉄パイプが頑張る話
鉄パイプがんばる。
「お前に武器をやろう」
そんな言葉とともに縁が渡してきたのは、鉄パイプだった。
手で持つとこに布を巻いてあって気がきくわぁ——
「——じゃねぇよ!!なんで鉄パイプなんだよ!?」
「電流が流せて相手の頭を殴れば昏倒させられる。かなりいい武器だと思ったんだが。あと見た目にも——ぷふっ」
「吹くなよ!つか見た目がなんだよ気になるところで切るなよ!?」
「いや、すまない。ただの不良のようでな……ふふっ」
紺色の薄手のパーカーに、黒のカーゴパンツ。それから軽いと評判のスニーカー。内側は白のTシャツを着て欲しいと言った。口元には三角に折りたたんだ妙な色の布を巻いている。
格好はそれなりに合格らしいが、電気を通す手袋を渡された。指紋が残ると面倒だそうだ。
「これでよし。お前に頼みたいのは、とあるパソコンに電気を流してデータを吹っ飛ばすこと。途中にいるのは、武装済みの兵士が……100くらいか?」
「ぶ そ う?」
BUSOU?
「スペックはそれなりだろう。だが銃弾の弾頭はおおよそ鉛で、磁石にはつかない。反磁性というごく弱い力を持っているが、ほぼ弾丸をそらすくらいにしか使えないだろうな」
「ダメじゃんそれダメじゃん!?」
「まあ最後まで聞け。お前の能力で送電線を弄って、ブレーカーを落とす。最後にはちゃんと私が盾をやろう」
盾って大丈夫なのか?ってか縁の能力ってなんなんだ?
「不思議そうな顔だな。行きは良い良い帰りは……と言う感じだが、実際お前の安全は保障しよう。多少は肉弾戦も得意なんだろう?」
「いやあんまり期待されても……」
「行くぞ」
ってもう行くのかよマジで!?俺の心の準備とか銃弾飛んでくるかもって言う恐怖感はどうしてくれるの!?
それでも、俺は横暴で人の話を聞かなくてすぐに手が出るこの人に、誰かの影を重ねたまま走り出してしまっていた。
……すぐに後悔した。
「行きはよいよいって嘘だろ後ろから来てる!?」
「おっと行き止まりか。すまんが正面突破してくれ」
「クッソ……銃とか構えるんじゃねぇよヤなこと思い出すだろうがァ!!」
俺は鉄パイプを磁石に無理やり変えて、銃身を引っ張って狙いがつかない様にする。金属製のもの身につけている奴は、グインと引っ張られてこけた。
鉄パイプすげえ。
弱めに殴って顔の露出部分に電流を流して気絶させると、後ろから迫っていた男を回し蹴りで振り向きざまに蹴り飛ばす。
「ぐ、」
たたらを踏んだその首元に張り手を食らわすと、痺れて動かなくなる。
「避けろ!」
前に転がる様にして避けると、銃声が響いた。鉄パイプを拾い上げて、磁石に戻すと男の「クソッ」という声が聞こえて、俺はそいつの腹に鉄パイプをぶち当てる。
骨の一本もいかない手応えだったが、くずおれたところを電撃で気絶させ、先に走る影を追いかける。
「っラァ!!」
途中で襲いかかって来た男は俺の体勢を崩したが、腕一本で無理やり体重を支えて崩れた体勢から蹴りを突き込み、また一人倒して行く。
ある鍵のかかった一室が虹彩管理だったが、手を叩きつけてぶっ壊し、そのまま突破していく。
「ここだ!ここにあるPCをぶっ壊せ」
「了解!」
俺はPCの延長コードのコンセントを引き抜き、プラグに手を当てると、そこから通常よりも多く電流を流す。
瞬間、ボン!ボボン!という音がして、ぷすぷすと黒い煙を出しながら燃え始めるPC類。
……壊しちゃいけないものを壊した感があって、ちょっと背徳感と爽快感ある。
「消火は奴らに任すぞ」
「あ、は——っぐ!?」
首を、ぐりっと何かで締め上げられて息がつまる。俺は瞬間的にあの銃を突きつけられた時のことを思い出して、動きを止めてしまう。
「く、そっ……」
「へ、へへ、動くなよぉ〜」
生臭い息が漂って来て顔を引きつらせる。俺の首の部分は、透けた何かで……ちょっと待てなんか生の感触するんだけどお前全裸か?
「っは、」
「ふひ、服を着なきゃあ俺は最強だぜぇ」
おい。
おいおいおいおいおい。
「ざけんなぁあああああ!!下着くらい着ろよボケェエエエエ!!」
ばりばりばり、という音が響いて、後ろの男がゆっくりと床に倒れて行く。若干赤くなっていて、火傷になっているが放置だ放置。
「うわきっしょ、きしょい。男のなすりつけられるとは思わなかった……」
男がぴくんぴくんと脈打つ中、俺は火の中を走り抜けていった。
縁に追いついたと思った瞬間、その手が俺の前へすっと伸びた。
「止まれ。囲まれている」
「そうか」
「随分慣れた様子だな?」
「あいにく三十人ばかし一人で相手したことはあるんでな。それよりどうすんだ?距離的にも鉄パイプ磁石にするわけには……」
「そうだな、まだお前には見せていなかった。……三歩前に出て、あの赤い印を踏め」
「え?あ、ああ……」
闇の中からジャキッという銃を構えなおした音が聞こえた。いや、撃鉄を起こした音かもしれない。
指示にしたがって、三歩踏み出し、俺は恐ろしいほどの酩酊感を覚えた。
「ゔッ!?」
「吐いたら背中くらいさすってやろう。——成り変われヒトガタ!!」
にゅるりとなにかを通り抜けた様な感じがして、そして地面に降り立って、思わず倒れ込んだ。
「な、こ、こは、……マジで、かよ」
「ああ。警察病院の地下空間の中に来ている。……驚いたろう、これが私の超能力の一部だ。術者にも吐き気が襲ってくるのが、難点ではあるがな」
いや顔真っ青じゃねーかお前大丈夫かよ!?というツッコミは、できなかった。俺もリバースしそうなので、とりあえず鉄パイプをほん投げて、うつ伏せに横たわった。
「あんたの能力穴だらけじゃねーか」
「お前のもな。なかなかピーキーなものだ。時にあれだ、身体の反応強化は出来ないか?」
「あー、面白そうだな。今度暇があったら実験手伝ってくれよ」
「相方に頼んだらどうだ?」
「戸谷とは絶望的に気が合わない。頼み事なんかしたら、頭おかしい要求をされるレベルだ」
俺はごろん、と仰向けに転がった。
「なあ、縁さんや。俺、妙に興奮してるんだよ。血を流すのも流させるのも怖いくせに、神経が高ぶって、もっと戦いたいと思ってる。頭おかしいんじゃないか?」
「安心しろ。お前はおかしい。なぜなら私も柄にもなく、ちょっと楽しかったと思っている。一人も殺さず、それでいて撃ち殺されるかもしれないというのにな」
二人でゲラゲラひとしきり笑うと、気分が落ち着いて来たので、起き上がる。
「そろそろ帰らねば、親御さんも心配するんじゃないか?」
「そうだな。あ、そうだ。連絡先の交換だけしておこうぜ」
上体を起こすと電話番号と、コミュニケーションアプリのIDを交換する。
「連絡すんね」
「ああ。気軽にしてこい、私は結構強引だから嫌われている。暇で仕方がない」
「んー……いいんじゃねぇの、別に。俺は強引なのは嫌いじゃねぇし、暇ってんなら俺がいつでも相手してやるし」
「そ、そうか?実は少しアニメを見ていて、学園生活というものに憧れていたんだ」
「ん?」
何かおかしいと思いつつも、俺は笑顔でスルーしてしまった。
翌日俺は学校で眉間を抑えて叫び出したいのを必死に留めていた。
「今日から皆さんのお友達になる、日鳥縁さんです。仲良くしてください」
「よろしく頼む」
とてもステキな弾けんばかりの笑顔に、横らへんのクソ、じゃない、戸谷がすっっっごく嫌な顔をして相手を見ていた。
え?俺への視線?それの百倍以上は嫌そうだよ。
「何睨んでんだよクソイケメン」
「息をする様に誉めないでくれます?」
「誉めてねーよ。クソみたいに捻じ曲がった性根のイケメンだから間違ってねーだろ。で、なんで縁を睨んでんのお前?」
「なんであれと仲良くできるんですかやはり正気を疑いますよ」
えー。
なんかしたの縁ちゃん。
「あいつはまごう事なき敵です。最低な女です」
とはいえ俺の様な生理的な嫌悪ではないらしく、やりにくいとか、めんどくさいとかそういう感情が多分に含まれているものだったので、俺はすぐに戸谷から目をそらして正面を見つめた。
真紅の髪を揺らして、黒板に名前を書き連ねていた。右上がりのクセのある字が並ぶと、彼女は席はどこかと目をチラチラ先生に向ける。
「ああ、じゃあ、席替えしよっか」
その瞬間戸谷と俺の心は一つになった。
「っしゃあ!!てめーの横だけは飽き飽きしてたんだよ!」
「僕こそ変態の横だけは勘弁でしたので心からの感謝を捧げます先生」
「……ウンスワッテー。じゃんけんで好きな席を取ってもらうから」
結論。
なんで負け越しすぎて最後に二席しか残ってないんだよしかもとなり同士のやつ!!
「もう……じゃんけんいらなくない……?」
「最悪だ。僕のじゃんけん必勝法が全く通用しないなんて、戦法を変えるべきか」
「頑張れ桐葉!応援しているぞ!」
「おうありがとな縁ちゃん。……っしゃあねぇ、最後テメェにだけは負けねー」
「望むところです。運さえ僕は味方にしてみせる」
「せぇ、の!!」
「「じゃんけんほい」」
——あいこが18回続いた末に、授業のチャイムが鳴り響いて、俺は縁の横に、そして忌々しくも阿呆の横になってしまいましたとさ。ちゃんちゃん。
影が薄いぞ幼馴染!!




