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ニュースで見て「逃げろよ馬鹿かよ」って言うけど案外実行できない説

リハビリを兼ねて。

面白さは保証しません。

微グロ注意。


“Freeze!”


人生でこんなフレーズを聞くことはあまりないだろうが、海外ドラマやなんかでたまに出るこの言葉。和訳したら日本の刑事ドラマでもバトル漫画でもよく言ってる。

そう、警察あるいは犯人が人質を取った時に言う、「動くな」である。


一般的な生活の上でそれを聞くことはないだろう。俺だってそうだ、なぜなら日本は平和で立てこもりなどが起こってもなかなか自分に関係あることとは思えない。

なおかつそんな特殊な状況を想定して英語を習わないだろう。


そんでもってなぜこのことを今話したかといえば——



「ぃたっ……」


——こめかみに銃を突きつけられて人質になっているからである。






俺の名前は新田(にった) 桐葉(きりは)。それなりに日々を過ごしている高校一年生である。

怠慢ではない。ただ受験で使い果たした体力を回復中なのだ。


五月始めのゴールデンウィーク真っ只中、俺はとあるショッピングモールに来ていた。凄い晴天で、気温は高めだったのですでに出ていたかき氷を購入し、天井が開いた真ん中の通りを歩いていた。


しかし前触れ一切なく、俺の襟首が掴まれ、かき氷が転がり落ちる。前を歩いていた子供の服にかかって、それからこめかみに生暖かい固いものが当たった。

金属の硬質な感触。いやに冷たさを感じなくて、一瞬何を押し当てられたのかわからなかった。


振り向こうとすると、漫画でよく見る黒い何かが視界の端っこをかすめた。

「え」


そこで冒頭に戻るわけである。


ちょっと銃を突きつけられても現実感がなく、はっきり言ってなんだかワクワクしてしまうような感覚すらある。

なんというか、危機感が薄い。


そして俺を遠巻きにしていてもそれなりに近くにいる奴らに、呆れる声さえ出そうだ。

銃を持っている男からすれば、簡単に撃ち抜けそうな距離。


ふと思う。


こんなゴリゴリの迷彩服着た男が近づいてきていたのに、俺は気配も足音も姿も一切気に留めることはなかった。

こいつはどうやって俺に近づいたのか。


警察を誰かが呼んだのか遠くからサイレンが聞こえてきた。俺はふと地面に動く影が落ちたような気がして、見上げる。

「ドローン……?」

いや、ドローンだ。間違いない。

もしかしたら警察が放ったものかもしれない。

でもそれでどうする気なんだ?


男の提げている黒い何かが音を立てた。トランシーバーだったらしい、俺の耳に雑音にまみれた人の声が入ってきて、男が短くそれに答えたのがわかった。


“Amen”


一言つぶやいたその言葉は、銃声にかき消されて俺にしか聞こえなかったと思う。

銃弾がドローンを撃ち抜き、俺と、男と、その周りを取り囲む人混みが綺麗な赤い色の雨にさらされる。

「え、」


ざああ、とひとしきり振り終わると、地面にガン、ゴンとドローンの破片が墜落した。けれど、もうそんなことは誰一人気にも留めていなかった。


ずぐん、と心臓が嫌な音を立てて、ねじ切れそうに痛んだ。それから息が荒く浅くなり、ゆっくりと目が霞み始める。眠気がひどい。

寒いし、身体中がいやに痛む。


助けを呼ぼうとあたりを見回せば、俺を抱えていたはずの男がゆっくりとくずおれていき、その目や鼻から血をドボドボ流しているのが見えた。体は腫れ原型が失われつつある。


まぶたや顔のあちこちが腫れ上がり、ぼこぼこになったそこから内圧に耐え切れず血がぴゅっ、ぴゅっと噴き出して、強烈な鉄錆のにおいがあちこちから漂ってきた。


血が体から噴き出すと同時に、ぶちゅ、ぶちゅ、と血まみれの死体が痙攣して跳ねた。


俺の周り全員がそうなっていく。

怖いのに、全く指先一つ動かなくなっていて、恐怖だけがじんわり体を侵食していく。


襲い来る寒さと眠気に抗うことができず、眼前に迫る底なしの恐怖さえそれを押しとどめられずに、俺はゆっくりと目を閉じた。







2015.5.21©︎あじふらい

痛そう。

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