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前編


 いつも通りの朝。いつも通りの通学路。いつも通りの風景。

 そして、いつも通り交差点でぼくを待つ一人の少女。

 僕はいつも通りその少女に声をかける。

「おはよう、スズ」

 少女は顔を上げ、僕を見つめる。数秒後、恐る恐る口を開いた。

「えっと・・・コウくん?」

「正解」

「わ~よかったぁ! あ、えと、はじめまして!」

 少女は、無邪気に嬉しそうな表情を浮かべ、なんの悪びれもなくその言葉を使った。

 だから僕も作り慣れた笑顔を浮かべ、その言葉を使う。

「うん。はじめまして」

 少女は、その言葉に安心したようにいつも通りの舌っ足らずだけど饒舌な口を開いた。

「あ、スズです! 身長148cmのショートが似合うキュートな女子高生!」

 決めポーズを決めて満足気なスズ。

「知ってるよ。 てか、自惚れんな」

 えへへ~と何故か照れてる。褒めては無いんだけどな。

「僕は、コウヤ。君のことが大好きなかっこいい彼氏さんだぜ」

 さっきの決めポーズを真似する。

 スズは、一瞬ぽかんとした後、耐えきれなくなったように

「・・・ぷっ、あははっ! ったくぅ、自惚れるなっ!」

と、笑いながらいつもの口癖を返してきた。

「まっ、事実だからさ」

「なんでこんな人と付き合ってるんだろう私・・・」

「スズ。 それは、大ダメージだからやめて」

「ウソウソ! ごめんごめん」

 イタズラな可愛い笑顔を僕に向けスズは、走り出した。

「ちょ、待てって」

「学校まで競走だぁ~!」

「急すぎるよ!」


 僕は今日もいつも通り(・・・・・)の日常を過ごしている。



「おはー」

「おはよ、トモ」

「トモちゃんおっはよぉ~!」

「スズちゃんは相変わらず元気だな! って、コウヤは、なんでそんな疲れてんだ? また、走ってきたとか?」

「正解」

「コウくんは、情けないね!」

 汗ひとつかいてないスズが、ない胸を張って言った。

「いや、スズは元気すぎ!」

「コウくんおじいちゃんみた~い」

 むかっ。少し腹がたってきた。

「じゃあ、お前は小学生だな。ちーび!」

 あ・・・ちびって言っちゃった。

 目の前の小学生(笑)が、顔を上げブチギレた。

「はぁ!? 言ったね? 禁断の言葉を言ったね!?」

「だって事実だろ? あれ、身長何センチでちたっけ~?」

「おい、お前ら・・・」

 トモが止めに入ろうとする。

「ま、そんなことこも好きだけど」

「え・・・そんな急に。・・・私も好きだよ♡」

「ごめんねスズ」

「私こそごめんね・・・えへへ」

 その瞬間、トモの何かが切れた。

「・・・てめぇら、非リアの前でイチャイチャすんじゃねー! このリア充がっ!!」

「ごめんなさぁぁぁい!」

 笑いながらスズが自分の席に逃げていった。

「ったく、お前らはほんとに」

「あはは、ごめんごめん」

 本気で怒ってた訳じゃないけど、トモを宥める。

「・・・今日もいつも通りか?」

 急に真面目な表情を浮かべ、トモが僕に問う。

「トモがキレたこと以外いつも通りかな」

「あんなん毎日見せられたらそりゃキレるわ」

「あはは、ほんとごめん」

「ま、安心するけどな」

と、優しい表情を浮かべるトモ。

 ほんと、こいつは・・・

「トモ」

「ん?」

「いつもありがとな」

「はっ・・・無理はすんなよ」

「おう」

 いいやつすぎるよ。



 キーンコーンカーンコーン


 放課後を告げるチャイムが鳴り響く。

 すると、前の席のトモがいつもと同じ質問をいつものように嫌味ったらしくしてくる。

「お前らは今日も放課後デートですかい?」

「いや」

「あーら珍しいわね! 」

 トモのキャラがおかしい。なんでこいつはこんなにもリア充に対してこうなんだ。

 そのタイミングで走ってスズがやってくる。

「今日はスズちゃん定期検査なのでーす!」

「あー、そっか」

「ま、僕も病院に用があるから結果デートみたいなもんかな?」

流石に、ちょっとうざいかなと思いつつトモを挑発してみた。すると

「放課後デート・・・放課後病院デート・・・ッ! お、お前ら! ま、ままままだ、その・・・そういうのは、早いんじゃないかっ!?!?」

 頬を赤く染めてなんか妄想し始めた。これだから彼女いない歴=年齢の童貞は。

「トモ、落ち着け。 来世では僕が付き合ってやるから」

「まじか! 俺、コウヤのそういうとこ大好き」

 そのまま、勢いよく抱きついてくるトモ。 そういう勢いを別のとこで使えばいいのにな。

「気持ち悪いから離れろ・・・」

 なんか、スズが僕達2人に熱い視線送ってるから。なんか興奮し始めてるから。鼻息荒くなんかブツブツ言ってるからホント早く離れてっ!

「・・・ったく。 じゃあまた明日」

「おうっ! 病院行く途中で爆ぜないように気をつけろよリア充!」

 清々しい笑顔で毒を吐くトモ。

「トモちゃんこそ、帰り道孤独死しないでね~」

 可愛らしい笑顔でガチの毒を吐くスズ。

「スズ、それ非リアに笑顔で言っていいことじゃないから」

 ほら、トモが虚空を見つめてブツブツ言い始めちゃった。

「どーせ俺なんか・・・どーせ・・・」

「あーもう・・・スズ謝って」

「えー、ごめんねトモちゃん。 大丈夫! トモちゃんにはコウくんがいるよ!!」

「おぉっ!それもそうか!」

「いや、ないから」

 そんなバカな会話を終え、トモと別れ病院へと重い足を向けた。



「じゃあ、僕はこっちだから」

「うん、後でね!」

「先生の言う事ちゃんと聞いて静かにしてるんだぞー」

「アンタは私のお兄ちゃんかっ!」

「あはは・・・」

 スズは、ボクに手を振って精神科(・・・)棟へ向かって行った。

「・・・」

 僕は、笑えていただろうか。

 こみ上げてくるものをかき消すように足早に目的の場所へ向かう。

 僕は・・・僕は・・・僕は・・・もう・・・っ!!

「おっと」

「・・・え?」

「待ってたわよコウヤくん。・・・とりあえず、中はいろっか」

「・・・お姉さん」

「そのぐしゃぐしゃの顔どうにかしないとね」

 僕の目からはぶっ壊れたかのように涙がとめどなく溢れでていた。


「落ち着いた?」

「はい、ありがとうございます」

「まったく、カウンセリングの前に泣くなんて」

「すいません、妹さんと別れたらなんか、辛くなって」

「やっぱりまだスズはあなたのことを・・・」

「はい」


 それから僕は、カウンセラーであるスズのお姉さんに最近のことを話した。


「確かに、私とか家族には変わらず接してるわ。トモくんにもそうなのね」

「はい。やっぱり僕だけなんです」

「そっか。でも、まだ原因がはっきりわかってるわけじゃないし、治る可能性だってあるわよ」

「そう、ですよね。 僕がこんなじゃスズを不安にさせてしまう。 しっかりしないとな」

「・・・ほんと、スズは最高の彼氏を持ったわね。 私も好きになっちゃいそう」

「ちょ、何言ってるんですかお姉さん!」

「でも、頑張りすぎてもダメよ。 定期的に相談しに来なさいね。 雑談でもいいから」

「はい、ありがとうございますお姉さん」

「それと・・・いい加減、ナナさんって呼んでくれても良いのよ?」

 スズとは真反対で色気溢れる大人なナナさんに妖艶に囁かれドキドキしてしまう。

「い、いや! あの、その・・・」

 その時、勢いよくカウンセリング室の扉が開いた。

「お、お姉ちゃん! コウくんに何してるの!!!!」

顔を真っ赤にしたスズが僕とナナさんの間に割って入る。

「あら、早かったじゃない。 いいところだったのに」

 い、いいところってナナさん!?

「い、いいところぉ!? コウくん!」

「待て待て!! 何もしてない何もしてないからっ! ちょっとナナさん!!」

「あ、ナナさんって呼んでくれたわね♡」

「あ・・・」

「コーウーくーんー!!」

 あー、どうにでもなれ・・・


 そのあと、僕とナナさんはスズにめちゃくちゃ叱られた。

 僕、何もしてないんだけど・・・



 その後、僕達は病院をあとにし帰路につく。

「で、どーだったの検査は?」

「彼女のお姉ちゃんに誘惑されて鼻の下伸ばしてる人なんかには教えてあげませんー」

 めちゃくちゃ根に持って、頬をふくらませプンスカ怒ってるスズ。

「悪かったって、ほんとに何もしてないから! それに、俺が好きなのはスズだけだよ」

「・・・も、もう仕方ないなぁコウくんは」

 隠しきれてないニヤケ顔を隠すように俯くスズ。丸見えだけど。

「で、どーだったの?」

「やっぱり、珍しい症例でまだよくわからないって」

「そっか・・・」

「・・・ごめんね」

 感情が顔に出てしまっていたのか、スズが暗い顔で謝る。

「いや、スズのせいじゃないし。 わからないんだから仕方ないよ」

「でも!」


「だから!!! お前のせいじゃないって言ってるだろ!! 」


 急に大きな声を出してしまいビクッとするすず。

 二人の間に沈黙が続く。


 あぁ、どうして、こんなことになったんだろ。なんでこんな...。


 神様がいるなら教えてくれよ。なんでこんなひどいことするんだよ。


 どうして...


「ごめんねコウくん。


―――――――――――――――――君を知らない(・・・・・・)私でごめんね」



 毎日、彼女から僕の記憶を奪っていくんだよ

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