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プロローグ

なんと、大掃除で番外編の原稿が出てきました。

年の瀬に迷惑でしょうがお楽しみ下さい。

 

「──────何で、ここに居るの?静馬……」



 ここはウェディング・ドレスのフィッティング・ルーム。

 男子禁制の試着室で、『ちょっと背中のホックを─────』とか言ってたら、



 当然の様に伸びてきた手が何と婚約者のモノだった訳で。


「美しい花嫁の姿を一番に見るのは、私の特権の筈です」


 堂々と言い放つ変態は認めたくは無いが、既にあたしの書類上の夫である。

 リーリーリー、と腰を屈めながら、隙を窺う。



『くそう、やっぱり結婚式と新婚旅行がパックになったツアーをゴリ押ししとけば良かったか……』



 静馬負担で友人数名はこちらに来られる事になったが、本当は鈴子としては大袈裟にはしたくなかったので、式は親達だけにして、自分は籍を入れるだけで良いと主張したのだが……。


「鈴子ちゃんを差し置いて、私達がお式を挙げられる訳が無いだろうッ‼︎」


 当の義父から物言いが付いた。

 義兄はしたり、と頷いている。


 くそう、最強タッグを組みやがったか……。


 汗がじわじわ滲んできた。

 この《鈴子大好き》親子は、彼女が疲れて倒れるまで説得を続け、めんどうになって転がったまま、『もー好きにすればいいよ…』と言う台詞を引き出すまで粘った。

 で、ダブルウェディングとゆう恥を晒す羽目になった訳である。

 二人共、仕事してりゃあいいものを、当然の様に休みを取って式場のホテルまで付いて来た。

 母・伸江と二人して義父と静馬がフランスにオーダーメイドした持ち込みドレスを試着している間、この男(忠犬)には《待て》を言い渡して来た筈なのだ。


「このドレス…もう一着取り寄せましょうか」


 静馬の瞳が物騒に底光りしている。自らの唇をなぞる、その指がヤらしい。


「そんなもん、二着も頼んだら誰だって《使用法》の予測くらいつくわッ‼︎」


 大人な二人は大人な会話を試着室で繰り広げる。


「プランナーさーん‼︎プランナーさーん‼︎ウチの旦那さん、連れてって下さ〜い!」


 叫ぶと同時に鈴子は床に手を付き、地を這う角度から勢いよく静馬を蹴り出した。







 ドレス姿を見て、義父は咽び泣いた。


「見て下さいよ、プランナーさんッ‼︎うちの奥さんと娘は何て綺麗なんだぁああ…。

 伸江さん、ほほほほほほ本当に私が花嫁の父として、鈴子ちゃんとバージンロードを歩いてもいいんですか⁉︎」


 伸江は震える夫に鷹揚ににっこりと微笑み、頷いた。

 横の静馬がふふん、と何故か我が事の様に自慢げに、軽く鼻を鳴らす。


「まあ、既にバージンではありませんが「何、言いサラスんじゃあああ⁉︎ボケェエエエエ──────ッ‼︎」」


 渾身のアッパーが静馬を席から吹っ飛ばした。


「……っはぁ、まあ、あたしもこのこのこここここの歳ですものねっ」


 専ら打たれ強くなった美青年は黒髪を片手で撫でつけながら、椅子をすちゃっと元に戻す。

 一連の出来事を式場関係者の前で何事も無かった様に振る舞う彼は大物だった。


「リン、心配しなくても大丈夫ですよ。幾ら私でも、この短期間で貴女を妊婦にする事は不可能ですから。無茶食いなさらなかったらドレスのサイズは変わらない筈です」


 手を出しちゃいました宣言をはっきりと、くっきりと、静馬は全員の前で述べた。



「恥ずかしいィだけなんじゃああああッ‼︎」



 彼の秀でた額に掌底を繰り出し、ドレスの裾を持ち上げて逃げる、真っ赤な顔をした花嫁を『脱ぐんなら手伝いますよ』と素早く復活して新郎は追い掛けた。




 バカップルである。




 義理の父は「むむむ、む娘が、き、傷物に」とかブルブル震え出し。

「三十路娘に今更傷も無いでしょうよ…」と、母は小さく溜息を漏らした。




  ☆



 またしても攫われる様に親の前から車に押し込められて、鈴子は静馬のマンションに連れ込まれた。

 鍵を開けて中に入ると様子が違う。

 そして直ぐに違和感の原因が分かった。

 リビングの隅に引越し業者の使うダンボール箱が積み上げられていたからだ。


「……これは一体…」

「ああ、来てましたか。リン、今日は疲れたでしょうから、取り敢えず使う箱から開けておくといいですよ」


 何事も無かった様にそう言う美青年は、アーモンドの様な美しい形の双眸に浮かぶ黒い瞳に優しげな光を浮かべた。

 鈴子はダンボールの山を見つめ、未来の旦那を見つめ、首を巡らせた。




 ばばばばバババババリリリリィィイイイイッ‼︎




 止められたガムテを素手で引き破る義妹。

 果たして、中から出て来たのは──────



「あたしの下着ぃいいいいっ⁉︎」

「明日、整理箪笥が届きますから、それまではそこのクロークに「そんな事を聞いてんじゃねぇよッ⁉︎何、サラリと流してんだァ‼︎」」


 締め上げられても所詮長身の青年に小女ミニーが如何程のダメージを与えられる筈も無く、逆によいしょ、と抱え上げられて何処かに運ばれ始めた。


「っちょっ!アレ?何処行くのッ⁉︎」

「──────さあ、何処でしょうねぇ」


 悪魔的な微笑みを浮かべられ、じたばたと暴れるも、ガッチリと四肢を搦め捕られ、身動きも容易に出来ない。

 そして勿論、行き先は静馬のプライベート・ルームであり…運ばれたのは鈴子の部屋の荷物全部で(当然、部屋は解約済み)、泣く泣く明日の昼過ぎ(・・・)から義妹が腰を撫りながら荷解きをする羽目になるのは既に決定事項なのであった。




 そうして心身ともに疲れ切った鈴子が見た夢は─────────


.

続きは新年早々UPの予定。

それでは皆様、良いお年を!

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