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くらうん《リライト前》  作者: 永ノ月
2章 高校封鎖編
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TARGET8 幸運と不運

彼女、嘉瀬 愛は私の手を両手でぎゅっと握り、茶色の大きな瞳を輝かせた。

「本当に二条さんですね!会えて嬉しい限りです!」

いまいち状況が掴めない私は、視線を宙に泳がせる。

一体どういうことだ?いつの間に私は有名人に…


「あっもしかして…?」

「はい!一昨日の模擬戦、拝見させて頂きました。とても素晴らしい動きでしたよ!」

私の目線より下にある彼女の目は上目遣いになっており、女の私でもドキドキしてしまうくらい可愛らしい女性だった。

「あ、ありがとうございます…光栄です」

「それと、頼み事があるのですが…」

困ったように笑い、目線を入口の方へと移す。

入口前にいた女性が会釈をする。


赤紫色の肩まで伸びた髪、凛とした表情に私よりも少し大きな身長、先程のハキハキとした声といい、ビューティーという言葉が似合う女性だ。

「彼女は八崎やさき 梓弓あずさ、私のパートナーで、生徒会副会長です」

「パートナー…ということはお2人も戦闘員なんですか?」

「そうです、そして頼みなんですが…そのアーちゃんとお手合わせしてくださいませんか?アーちゃんは一昨日から、二条さんと戦いたいとずっとぼやいているので…どうでしょうか?」

「ちょっと会長!私は別に…」

目を強ばらせた梓弓が歩み寄るが、愛は顔だけを向けて笑顔をつくる。

「嘘おっしゃい?」

「うっ…に、二条さん…」

梓弓は頬を赤らめ、こちらを見つめる。


なかなか素直な人ではないようだ、いわゆるツンデレってやつだな…

「私は構いませんよ。会長の許可も出ましたし!」

「ほ、本当ですか?!」

子供のような無垢な笑顔が眩しい!可愛いなこの娘!先輩だけど!


「ちょっと待てよ、俺との決着はどうした?」

その場を一掃するような大声で岩男は叫んだ。

相当頭に血が上っているのか、顔を真っ赤にし、手はわなわなと震えている。

真弓まゆみレオナルドさん…でしたっけ?私はあなたのことは詳しく知りませんが…何か勘違いしているようですが?」

「えっ…あんたレオナルドって、ハーフ?」

「そんなことはどうでも…」

愛が両手を2回鳴らし、全員を黙らせる。

「それでは、円滑に話し合いを進めましょう!」





何とか話し合いは進み、会長の能力が何度か飛び交いつつ、ようやく話を理解したレオナルドは、すっかり背を丸めて小さくなっていた。

「ま、まさか…俺はとんでもない勘違いをしていたというのか…?」

してましたよ、盛大に。一歩間違えれば大怪我させられてましたよまったく…

「何とか収まりましたね、未来ちゃん…」

物陰に隠れていた結衣がひょっこり姿を現し、隣へ立つ。

「結衣ちゃん!生きてたのね!」

「何で死んだと思ってたんですか?!」

「二条、と言ったな…本当にすまなかった。いくら怪しかったとはいえ、女に手を挙げてしまうとは…不覚です」


拳を強く握り締め、ギリギリと歯軋りをする。

悪い人ではないと、最初から分かっている。彼のオーラは、痛いほど真っ直ぐな性格を表していた。

「いいのよ、私も楽しかったし!」

気さくに手を振り笑いかけると、彼にもまた笑顔が生まれた。

「ありがとう。俺は真弓 レオナルド、レオと呼んでくれ。GSOイギリス支部から、とある任務でこの度渋谷第二高校に入学してきた」

「イギリス…」

その単語に、先日の紅麗さんの言葉が連動して浮かんだ。

イギリスのテロ組織の密国。

ごくりと生唾を飲み、レオを見つめる。

「それって…」


「二条さん!」

呼ばれた方向へ首を向けると、体をうずうずさせている梓弓先輩がいた。

両手をグーパーと動かし、力が入ってゆくように見える。

「そろそろ戦いたいんですが…よろしいでしょうか?」

本当に戦うのが好きなんだな、この人…

「はい、構いませんよ」

優しく微笑んで返し、互いに距離を取って構える。銃は…場違いだな、使わないことにしよう。

「未来ちゃん、頑張ってください!」

結衣の声援に手を振って返し、腰のポケットに閉まったトンファーを再び取り出す。

「では、参ります。始め!」

会長の合図と共に両者が能力を発動する。


分析眼アナライズアイ!」

身体強化フォース!」

なるほど、身体強化フォースときましたか…でもその能力は他にたくさんいる。養成学校で相手だってした、問題な…


瞬間、もの凄いエネルギーをもった梓弓が目の前へ現れた。

は、速い…!

「たぁっ!」

鋭い右脚の蹴りが、間一髪躱した顔の前を横切る。

風を切る音がするほどの凄まじい威力、今のが頭に入っていたら軽く脳震盪のうしんとうを起こして気を失っていただろう…

彼女は笑っていた、手加減など一切しないとも捉えられる、一撃。


「さて、困りましたね…」

能力で筋肉の収縮を観察し、動きはある程度読めるのだが、驚くべきはそのスピード。

飛んでくるのはたった2本の脚なのに、まるで隙がない。

見たところ、タネは能力の《使い方》であるとみた。

普通なら全身の筋肉を増強し、全身で戦うのが身体強化フォース能力者のセオリー。

だが彼女は、その使える力すべてを『脚系の筋肉のみ』に注ぎ込んでいる。

この機動力もそこからきているに違いない。

それに加えてまったく無駄のない動き、相当武術に時間を費やしているのでしょう…


「くっ…!」

次々と襲いかかる攻撃の雨に対応するのがやっと、とても攻撃をする隙などない…今はまだ。

脚にはトンファーがぶつかっているにも関わらずまったく痛みを感じていなそうだ、相当な筋肉の硬直、及び当てる場所が上手いのだろう…だが、私もただ押されるわけにもいきません。


「あっ」

いうことを聞かなくなったのか、未来を支えていた軸足の膝が、カクンと曲がる。

「もらった!」

体制を崩したところを見逃さず、必殺の一撃であろう踵落としが背中めがけて近づいてくる。


しかしこれは、罠。

「そこです」

「しまっ…!」

スパァンッ!


体制をわざと崩し、トンファーを半回転させてリーチを伸ばし、彼女を支えていた軸足を素早く拂う。

「きゃっ!」

一瞬宙を舞う梓弓先輩の下をくぐり抜けて背後へ周り、トドメを…っ!

音をたて、無様に倒れる梓弓先輩の首筋へ拳を向け、勝利を愛へアピールする。


「はい、勝負あり。二条さんの勝ちね!」

梓弓先輩は敗北したと分かり、項垂れたところへ、私はあることに気がつき、ツンツンと彼女の肩をつつく。

「な、なんですか?」

「す、スカート…めくれてます…」

「え?だって私スパッツを…はっ!!」


それはまったくの勘違い、梓弓のめくれたスカートの中には、淡いピンク色の可愛らしい下着が露わになっていた…

「キャァァァァァァァァっ!」

先程までの凛々しさは無く、恥ずかしさのあまり高い声を出して、地面へうつ伏せになって顔を隠す。

顔を見てやりたいが、流石に可哀想だな…

ふとレオと結衣を見てみると、2人は必死に顔を逸らしていたが愛先輩だけは凝視していたようだ。

「今日はピンクね!知ってたけど!可愛いわよアーちゃん♡」

「やめてくださぃぃぃ!!」

もうやめてやれよ、会長…


「ありがとうございました、二条さん。いい経験になりました!」

数分後、ようやく立ち直った梓弓と握手を交わし、愛とも握手をした。

「本当に凄いですわ!私のアーちゃんをも倒してしまうなんて…さて、そろそろ時間だわ。行きましょう皆様!」

騒がしかった屋上は彼女らがいなくなり、元の静けさが再び支配した。





入学式を終え、教室へ戻って席へ着いた。

「よく考えると左にレオ、右に結衣ちゃん…私って結構運いいかも!」

「そうだね、これから楽しみだよ!」

「ところで、さっき会長から伝言をもらったんだが…」

レオが切り出し、2人へこっそりと告げる。

「この学校で、あまり能力者だと明かさない方がいいって…会長が能力者だと知ってるのは俺達と八崎先輩だけらしいぞ」

「へぇ〜、でも何ででしょう?」

さあ、と首を傾げると担任らしき先生が教室へ入ってきたようだった。

「よし、今日からこのクラスを受け持つ…」


ん?聞き慣れた声に反応し振り返ると、そこには…見慣れた薄紫の髪に、無愛想な面をした…

「宇田川 隼人だ。専門は現代社会、よろしく頼む」

わっと女子の歓声が上がり、隼人はこちらをチラッと見てくる。

微妙に頬が吊り上がったように見えた。

「は、隼人センパイ…?!」

「知り合いなの?」

結衣が私の反応に気付き、声をかけるが、何でもないと答える。

だが、私の心の中はもうぐちゃぐちゃだ。

ペアだから、近くで生活することは当然だと思っていたが、これは流石に…驚く他なかった。





「ちょっと隼人センパイ!どういうことですか?!」

家に着いた隼人へ、先に帰っていた私が問い詰める。

「あ?言ってなかったっけ?俺一応教師」

「そーじゃなくて、なんで担任なんですか!!先に言っといてくださいよー!!」

「俺だって知らなかったんだ、文句垂れんな」

うぅ…せっかく隼人センパイから離れて、自由に高校生活を送れると思ったのに…

近くに常に鬼が潜んでいるなんて嫌だ!!!

「会長に頼んで変更を…!」

「そんな力は会長に無いだろ、諦めろ」

「そんなぁ……」


これが学校入って早々の悲劇。そしてもう一つ、大きな悲劇が襲いかかることとなる。

「まさか曲がり角で出会った人が担任の先生だなんて。ダメよ未来、相手は先生だもの。この気持ちは抑えなきゃ…ダメなんだから!」

次回 先生とのヒミツ。お楽しみに!

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