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くらうん《リライト前》  作者: 永ノ月
1章 未来と隼人
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TARGET6 悪友

視界がゆっくりと、明るい光に照らされて意識が戻る。

さっき寝たはずなのに、もう外は明るい。

久しぶりに、俺はあの夢を見なかった。2年間続いている悪夢を…

何度か見ない日はあった、だが今日は数ヶ月ぶりに気持ちの良い目覚めであった。

昨日はひどく疲れたからだろうか?どこぞのバカ女がしつこく迫ってきたからだな、一晩中名前で呼ばせろと呪いのように押し続けやがって…

だが悪い気分にはならないどころか、少し機嫌がいい。

少しは、あいつを認めてやろうか…


「あっ!隼人センパイ、おはようございます!素晴らしい朝ですね!!今日もせみゆーさんの美味しい朝食で頑張れそうです!!」

前言撤回。このくそ五月蝿うるささだけは直りそうもなく、返事をせず溜息をついてみせる。

「あ、もしかして昨日は眠れなかったんですか?お疲れですか?」

「黙って飯を食え、下品だ」

「す、すいません…」

一気にテンションが正常となり、朝食を続けた。


「はい隼人くん、朝食っすよ!」

優しく笑う瀬見さんに差し出されたのは、一杯のコーヒーと、シナモンが振りかけられたトースト。

いつも瀬見さんに頼んでいた、普段の朝食だ。

「ありがとう…ん、俺が淹れた方が美味いな」

「失礼っすね!自分の方が美味いっすよ!ミキちゃんはどう思いますか?!」

「どれも同じ豆のコーヒーですよ」


未来が一蹴して瀬見が静まるが、俺は黙らない。

「分かってねえな、淹れ方で味は180度変わる。その違いも分からないようじゃ、まだまだお子様ってことだ」

「なんですと?!ぐぬぬ…じゃあお2人で勝負を!」

ピンポーン


未来の台詞を遮り、インターホンがリビングへ鳴り響く。

どうしたものかと、未来は一瞬口を開けたまま止まる。

「お客さん、ですか?」

「自分が見てきますよ、はーい!」


瀬見が返事をして玄関を開けると、金髪にジャージの、チャラついた印象の青年が立っていた。

「どうも、隼人いますか?」

その声に俺は瞬時に判断し、瀬見さんへ指示を出した。

「瀬見さん、そいつ閉め出してください」

「え?」

「いいから早く!」

「ちょおー待て!止めてください!ねえ酷くない隼人?!」

ドアに挟まり上半身のみ家に入っている男へ近づき、睨みつける。


「何の用だ?」

冷たい視線を、男はへらへら笑って受け流す。

「久しぶりに会いたくなっちゃって〜…あと金貸してくんねって痛い痛い痛い!踏むな、人の頭を踏むなっての!!」

「貧乏神に用はねえ、逆に金返せ」

「容赦ないなお前!親友だろ?」

「腐れ縁の間違いだろ」

何やら騒がしい空気を嗅ぎつけ、素早く未来が駆けつけると、目の前には扉を持つせみゆーさん、上半身のみ挟まっている金髪の男と、その頭を踏む隼人センパイ…


「何のショートコントですか?」





「折角引越し祝いに来てやったのに…酷いよなぁ、お嬢ちゃん?」

「あ、アハハ…」

私からのフォローもあり、ようやく家に入った男は、ご満悦の笑顔で差し出された紅茶を啜る。

一方の隼人センパイは頬杖をつき、一層目つきを悪くして、正面の男を睨み続けている。

「隼人センパイ、この人は?」

紅麗くれい 和彦かずひこ、俺と同い年の…舎弟だ」

「せめて友達として扱ってくれ…!」

私は俯いて顎を触る。そして思いついたように、隣の隼人センパイを見る。


「隼人センパイがこれだけいじめるということは…幼馴染みとかそんな感じですか?」

「正解!頭がキレるね〜お嬢ちゃん、何か奢ってやりたいところだが、生憎金が無いんでな…」

「相変わらずのクズっぷりだな」

思い切り毒を吐いているにも関わらず、またも紅麗さんはへらへら笑って受け流す。


「で、何の用だ?」

「ああ、そのことだけど…」

突然、笑っていた紅麗さんの目が据わるのを目の当たりにし、空気がビリリと乾くのを感じた。


「情報を与えてやろうと思ってな。昨日、イギリスのテロ組織の一部が日本に侵入したらしい。武器もどっからか仕入れてるし、近いうちにドンパチするかもしれん。頭に入れといてくれ」

テロ組織、武器、ドンパチ…いきなり飛び交った物騒な言葉に、身を小さくする。


「な、何者なんですか…紅麗さんは…?」

「ちょいとお家がヤのつく家行なんでね…煙草吸っていい?」

「ダメだ。灰皿ねえし」

「ヤ…あっ!ヤク○ト工場の人!」

「何でそうなる」

「ブワッハッハッ!お嬢ちゃん面白いなー!」

額をテーブルにぶつけ腹を抱えて笑われ、恥ずかしくなって頬を赤らめる。

「じゃあ何ですか?!」

「ヤ○ザ」

「ひ、ひぇ〜〜!!」

「や、やめろ…マジで腹痛え…!」

さっきまでの緊張感はどこへやら、笑い声に包まれたリビングは終始ふんわりとした雰囲気が漂う。

そして話題は、私へと移る。


「紹介しとく、このバカが俺の新しいペアの、二条 未来だ。頭はこんなんだが実技は…なかなかだ」

「おっ隼人が褒めるなんて珍しすぎるね〜、よっぽど腕が立つんだな!能力は?」

聞かれた私は、得意げに宣言する。

分析眼アナライズアイ、簡単に言えば色々見える能力です!」

「へぇ〜、変わった能力だね。C級ってとこか?」

図星、という反応を見せてしまい、仕方なく口を紡ぎ、こくりと頷く。

「ちなみに俺A級、戦闘員では無いけどねー」

「そ、そうなんですか?!でも、戦闘員じゃない…とは?」

紅麗さんがセンパイへ目を向けるが、面倒だと言わんばかりの表情でそっぽを向く。


「あー、未来ちゃん。日本の能力者には二つのタイプがいるんだよ。一つは君らのように警察の一部となり、GSOのメンバーとして働くタイプ。一般的に戦闘員、ガーディアンと呼ばれる。そしてもう一つは、国から少々の支援を頂いて保護されているタイプ。非戦闘員、保護能力者ウェイスト…ウェイストは差別用語として禁止されてるけど、俺は後者ね」


なるほど、と手を叩いて納得したことを表現する。

昔から養成学校で戦闘員ガーディアンとして育てられた私には、知ることのない世界だった。

「まあ俺はちょっと特殊なんだけど…家柄でね?」

「お、お察しします…」

カラッと笑い、視線をセンパイへと移す。

「自分で言っちゃなんだが、腕は確かだぜ?なあ隼人、久々に戦らねえか?」

「やだね、無駄に疲れることはしない」

やっぱりね、と肩をすくめる。


「そういえば、保護されてる側として有名なのって言ったら花園はなぞのの姉さんだよな?」

花園…どこかで聞いたような…?

「あの、その人は…?」

紅麗さんは驚いた顔をつくり、話を続ける。

「東東京エリアに2人の特級能力者がいることは知ってるか?」

「はい、道師さんと…あっ」

「そうそう、その片割れが《花園はなぞの 小百合さゆり》周りからは都市伝説!とか言われてる変な人でさぁ…花園邸に閉じこもってて、会ったことはないけどそりゃ美しい女なんだってよ。一目見てみてえな!」

「俺は面識あるけどな」

自慢げに話す割には、少し嫌気を帯びた表情で割り込んできた。

「マジかよ!どんなだった?教えてくれよ!!」

「なかなか美人だったぞ、どこぞのバカと違ってお淑やかで胸もあっ…!!」

ガスッと大きな音がしたかと思うと、センパイはすねを押さえながら、テーブルにうずくまる。

隣の私が、制裁を加えたのだ。

かかとは無えだろ踵は…」

「フンッ!」

胸の前で腕を組みそっぽを向く。

「自分は小さい方が好きっすよミキちゃーげふっ!!」

「せみゆーさんは黙っててください!」

容赦なくせみゆーさんの腹へ拳を入れ、倒れさせる。

その光景を見た紅麗さんの顔は青ざめていた。

「げ、元気なお嬢さんだな。隼人…」

「ああ…元気すぎて困ってるところだ…」





「じゃあ情報が入り次第また来るからよ!未来ちゃん、隼人をよろしく!」

「任せてください、きっちりシメときま痛いっ!!」

「調子に乗るのもいい加減にしろ」

センパイの鉄拳が私の頭へ炸裂し、自らの頭をさすさすと撫でる。

「じゃあな〜」

玄関が閉まり、リビングはシンと静かになった。

それだけ彼が五月蝿かったということになる。


「あいつは普段あんなだが…頼れる奴だ。もし俺に何かあったら紅麗に助けを求めろ、すぐ駆けつけてくれるさ」

「ハハーン…」

紅麗さんを信頼しきった台詞に、私はニヤニヤと笑う。

「隼人先輩ってホントツンデレですよね〜」

「うるせえ」

「痛っ…たいですよ!加減してください!」

「やなこった」

2度も殴られ、泣きべそをかいてみても、センパイは動じない。


寝る前に、布団に潜った私は、ふと思った。

「そういえば、隼人センパイの能力…まだ知らないや」

聞いても答えてくれなさそうだし、後々でいいや…

ふとカレンダーを見ると、3日後には渋谷第二高校の入学式。

今はその現実に、期待を膨らませておこう…

ひとまず1章完結です!


ここでは主に、2人の主人公について書こうというのがコンセプトです。

少しずつフラグも立て、構成できていたと思います…


2章からは少々シリアスシーンが増えますが、どうぞお楽しみください…!

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