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くらうん《リライト前》  作者: 永ノ月
1章 未来と隼人
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TARGET5 分析眼

「隼人、お前の新しいパートナーが決まったぞ」


廊下を一人歩いていたところを、道師 彰が呼び止めた。

俺は疲れた目を向け、面倒くさそうに道師へ歩み寄る。

「俺はもういらねえって言ってんだろ。いい加減にしろ」

「やだね、これは義務だ。2人1組となって行動するのが我ら戦闘員の務めであり…」

「論理じみた説教はもううんざりだよ、で?誰なんだ?」

「今年の春、地方の養成学校を卒業するルーキーだ」

道師が口元を緩めて笑い、俺は動揺の色を隠しきれなかった。


「ああ?まさか俺に新人教育しろとか言うんじゃ…」

「そんなものはお前に頼まない、ただ…彼女は確実に、お前を成長させてくれるよ」

無表情な彼には珍しく、自信に満ちた表情を向けられ、思わず顔を逸らす。

「さぞ優秀なルーキーさんなんだろうな?」

「ああ、俺がどうしてもと交渉してようやく合意したんだ。俺が保証しよう」

「お前が直々に?」

眉をひそめ、道師を再び見つめる。

相変わらず何を考えているか分からないミステリアスな雰囲気、若干濁った灰色の瞳は有無を言わせなかった。

「そんなに言うなら、俺が値踏みしてやるよ」


その彼女は今まさに、訓練室の広いフィールドに咲き誇る一輪の花となり、次々と襲いかかる雷撃をひらりひらりと華麗にあしらっている。

「くそっ!何で一発たりとも当たらねえんだよ!!」

「攻撃がワンパターンなんです。同じ雲から同じタイプの雷撃、ちょこちょこ雲の入れ替えはしているようですが…私には無意味です」

「くっ…」


左右への旋回を織り交ぜつつ、じわじわと距離を詰める未来に怯え、横島は同じように後ろへ下がってゆく。

「さっきまでの威勢はどこにいったんですか?もっと面白い戦いをしましょうよ!」

レーザーガンを取り出し、青い直線が横島へ襲いかかる。

「このっ!」

濃い雨雲に阻止され、直線は姿を消すと同時に、横島は安心したように笑う。


「そうだよ、あいつのレーザーさえ当たらなければ負けねえ!俺はまだ優勢だ!」

「意外と冷静ですねぇ、感心しました」

「感心してたら足下をすくわれるぞ!」

叫び声と同時に未来の足下から雷撃が飛び出す、が彼女はいとも簡単に避けてしまう。


「なぜ気づいた、俺が仕込んだタイミングがバレてたのか…?」

「それもありますし、まず私の下にずっとエネルギー反応を感知していたので、いつ来るかと待っていました」

「反応…?どうなってんだよ!こいつは!」

彼の目には、C級の華奢な少女はいない。いるのは得体の知れない脅威、笑みを浮かべて近づいてくる人型の怪物。


「なるほどな、だいたい分かったぞ」

「おっ早いね!さすがはーくん!」

アナウンス室で二人、その圧倒的な戦闘の解説を始めた。


「バカの能力、分析眼アナライズアイによってあいつの見えている世界は俺達とはまったく違う。さっきの雨雲に囲まれたときがいい例だ」

「もしかして、一瞬先の未来が見えてるとか?!未来みきだけに?!」

「それは違う、奴には先の世界など見えていない。正確には《今という時間の情報》すべてを分析する驚異の推察力だ」

「んー…もっと分かりやすく言ってよ!」


手元にある小さなホワイトボードを取り出し、先程の雨雲攻めの図を書いてみせる。

「例えば、この状況で俺達が見えるのは雨雲、そして一瞬光る雷撃の軌道のみだ。だが奴は違う。それぞれの雷撃の推定到達座標、威力、回避ルートまで見えている。さっきのはそのルートの一つを使ったのだろう」

「ほぇ〜…これだけの戦闘でよく解ったね!」

「さらに、あいつはそれだけの情報量…推定して俺達の約3倍の量を、同じ0コンマ数秒で処理しているということだ。さらに頭だけでなく体がちゃんとついてきている。それはまるで…」


コンピューター並の頭脳を持った、戦いに飢えし獣…

気づいたら、俺は鳥肌が立っていた。

今まで色々な能力者と戦ってきたが、彼女は、彼女の能力はまったくの別性能。無知の世界へ足を踏み込んだ高揚感が襲いかかってきた。


「二条…未来…」

俺を成長させる、生意気なスーパールーキー。

そして俺は、こいつと背中を守り合うのか…

「あれ、はーくん笑ってない?」

「わ、笑ってない。口が動いただけだ」

「あはぁ〜ん…ツンデレしちゃって!」

「違うから黙れ」

「痛い痛い!頭を鷲掴みしないでくださぃぃ!」





「おっと、また雲が増えましたね」

次々と寄ってくる雨雲に、徐々に追い詰められていた。

横島は既に息を切らしているが、勝ったとばかりの笑みを浮かべている。

「ハハハッ!いくら見えると言っても数で押されれば不可能だろ!!灰になっちまえ!!」

またも同時に雷撃が降り注ぐ、それを私は焦るでもなく、静かに見つめる。


「しょうがないですねぇ…奥の手です」

瞬間、頭上に何か投げ、しゃがんで頭を抑えた。

「何だ、降参か?」

しかし、雷撃たちはたちまち投げられた何かに吸い寄せられてゆく。


「な、なんだと!」

しゃがんでいた低い姿勢から地面を蹴り、忍者の如く横島の懐めがけて走る。

「この!」

目の前に雨雲をつくるが、瞬時に躱して体制を維持する。

近づいてきたところで、腰のポケットから何かを取り出した。

「トンファー…だとっ!グハッ…!」

「正しくは、トンファー型伸縮式警棒です」


拳と共に腹部へ一撃入れたところで、横島は意識を失い、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。

『勝負あり!勝者、二条 未来!』

「横島がやられたぁぁ!」

「C級がA級に勝った!あの女つえーー!!」


取り囲んでいたギャラリーは、驚きと興奮の混じった叫び声を上げる。

横島を取り巻いていた男達は急いで駆けつけてきた。

「大丈夫か大和?!」

「大丈夫です、気を失ってるだけなので…」

「いやー、それにしても驚いた…さっきのどうやったんだ?あの雷の向きを変えた…」

男の疑問に、淡々と答えた。


「簡単です。自分よりも頭上に電気を集めるモノ、避雷針ひらいしんをつくったんです。おかげで私のハンドガンが黒焦げになってしまいましたが…」

「なるほど…それにしても、この大和をあっさりと…お嬢ちゃん何者だ?」


困惑した彼らに呼ばれ、誇らしげに、武器を閉まってから、答える。

「宇田川先輩の頼れる後輩、二条 未来です!」

「頼ったことは無い」

アナウンス室から降りてきた宇田川先輩が、冷静にツッコミを入れ、私はまた笑ってみせた。

屈託のない笑顔を向けられ、先輩は困惑して顔を逸らす。


「…よくやっt」

「未来たそー!!」

先輩の後ろから弥生さんが飛びつき、言葉を遮られてしまう。

「凄いね未来たそ!A級相手に圧勝だよ、さすがアキラくんのお気に入り!!」

「いえそんな…てか宇田川先輩、何か言いかけませんでしたか?」

「何も言ってない」

「ええー、言ってましたよ!」

「言ってない」

「弥生、何をしている?」

「あっ…アキラくん?!」


突然私達の目の前へ、道師 彰が現れた。

またも気配すら感じさせなかった、まるで瞬間移動でもしてきたかのように…

「いやあのですね。ちょーっとトラブルがありまして、それで解決をしてて…」

弥生さんの表情に先程までの余裕は無く、目は宙を泳ぎまくっている。

「今の模擬戦…お前が取り付けたのか?」

「はい…アハハ…」

「ならいい」

「あっいいんだ、アキラくん優しい♡」


弥生さんを無視して、道師は私と先輩を見る。

「早速揉め事か?」

「そ、そうです!そこのヨコシマって人が先輩にケンカをふっかけて…!」

「何故お前が代わりにやるのだ?道理が無い」

冷淡に、論理的に問いかける。

彼のいうことは正しい、私の出しゃばる理由など無かった。

「そ、それは…」

未来は一歩下がり、先輩みつめるが、彼は目を瞑り、肩をすくめる。

否、一つだけある。


「わ、私の…パートナーが、バカにされたからです!」


道師の目つきに鋭さが増し、私の前へ立つ。

「…お前はまだ新人なんだ、血の気が多いのは結構だが、もう少し控えろ」

くしゃっと頭を撫で、口元に笑みを浮かべてみせる。


「ここにいるのが、今月から東東京エリアに配属された二条 未来だ。見ての通り実力はある、皆よろしくしてやってくれ」

『はい!』


取り囲んでいた人々は同時に返事をし、駆け寄ってくる。

「よろしく!」

「どこから来たの?」

「さっきのあれ、何の能力なの?」

「あっあの…!」

質問責めに遭う私を横目で見つめ、先輩は出口へ歩き出した。

「あっ!宇田川先輩!待ってください…!」

先輩の元へ行こうとするが、人の波に飲まれてしまって身動きが取れなくなった…





「どうだ、二条は?」

道師が隣を歩きながら、問いかける。

「ダメだな、冷静さが無いしすぐぎゃーぎゃー騒ぐ…だが、戦闘の腕は認める」

「ふっ…その様子だと、お前の『深い部分』を教える気は無さそうだな」

俺は立ち止まり、道師を睨む。


「さらさら無えよ…だが、ある程度は近寄らせてやろうと思ったよ」

「ほほう、これまた珍しいな。熱でもあるのか?」

「うるせえ、とっとと失せろ」

再び歩き出し、少し離れた我が家へと歩を進める。





「あっおかえりなさい!隼人くんから聞きましたよ、A級の方をボコボコにしたらしいじゃないっすか!」

ようやく帰ってきた私を出迎えてくれたせみゆーさんは、早速気になる話題へ持ち込んだ。

「はい〜余裕でしたよ!あっもう晩御飯ですか?!」

匂いを嗅ぎつけ、すぐさまリビングへ走ると、テーブルの前には、右足を上に組み、仰け反るように座る先輩がいた。


「おい未来、さっさと運べ」

「先輩も運ん…え?今名前で…」

「悪いか?」


予想だにしていなかった、あのお硬そうな宇田川先輩が、私に心を開いてくれた…?

一瞬間が空いてしまい、慌てて大声で返事をする。

「いいです!超絶大歓迎です!じゃあ私も隼人さんで!!」

「ダメだ」

「いいじゃないですかぁ〜!お願いしますー!」

「よかったっすね。ミキちゃん!」

「あーもう…うるせえな」


溜息をついて呆れてみるが、やはりこのよく分からない感情を抑えることはできず、口元が緩んだ。

腰のポケットから何かを抜き出した。

「なんだ、それは…」

「さあ今回ご紹介するのはこのどれだけ殴っても折れないすごいトンファー。激硬トンファーくんをご紹介!見てくださいこのフォルム、なめらかでしょう〜いまなら2本で1セットのところもう3本つけてお値段10000円!10000円でございます!さあ皆さんお電話を(((」

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