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くらうん《リライト前》  作者: 永ノ月
3章 影の戦線編
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TARGET26 ある者は奮い、ある者は

東京から遠く離れた、古き良き伝統を受け継ぐ地、京都。

幾度となく続いた能力者騒動により、各地の寺や世界遺産が破壊される中、京都はほぼ無傷を保っている。

東京に次ぐGSOの徹底的な管理が行き届き、かつ在籍している一般能力者も少なく、世界で最も安全な都市として、未だ海外からの人気を誇っている。

その都市へ今、足を運んでいる青年が2人。

ひとりは西洋の顔つきをした、長身に金髪の男で、表情を緩ませて街中を歩いている。

もうひとりは日本人。濃い青色の髪は無造作に伸ばされ、不機嫌そうな目つきが前髪から覗いている。視線の先は、もちろん金髪の男。


「ねえ、まさかここまで来て、何もしないわけないよね?」

青髪の男がポツリと呟くと、彼を見下ろして言った。

「何言ってるんだい?ただの観光だよ〜」

「ええ?!君が何かするって言うから連れてきてやったのに……」

「アハハ。今のうちに楽しんでおこうと思ってね、平和な日本を、ね?」

「これからぶっ壊す奴がよく言うよ。前回みたいに失敗しないでよね?」


金髪の男は、店先で買った八ツ橋を1切れ摘み、口へ放り込む。満足そうに笑って、青髪の男へ話す。

「いやいや、あれは揺さぶりだよ。あくまで本当の目的は、GSOの今の戦力の確認と、ウェスカーくんの始末だったからね」

「とことん冷たい男だ、いつもへらへらしているくせに」

「いいじゃない。君の仕事も減ったんだし…それに、『彼』が使えるかどうかも見てきたよ」


名を出さずとも、二人の間では一致した。一人の男の話に変わる。


「君は学校でずっと見張ってたらしいけど、どうだったの?」

「一般人と何一つ変わらなかった。俺の判断は、使いものにはもうならない、だ」

「確かに、彼はもう戻ってこれない。裏切り者はその場で処刑するのが、スコーピオンの掟らしいからね」

青髪の男は立ち止まり、前を歩く男を睨みつけた。


「どうしたんだい?急に怖い顔して」

「次は仕留めろよ、アーサー」

アーサーは微笑し、空を見上げる。

「今日は天気がいい。3週間後も、晴れてるといいね」





花園邸での話を一通り終え、ちょうど自宅へ戻った二人は、真剣な面持ちでリビングのテーブルへついた。

不思議に思った自分は、冷えた麦茶を持って二人へ差し出した。

「おかえりなさい。二人揃ってどうしたんすか?真剣な顔しちゃって」

「ああ、ちょっと真剣な話をしている」

「私達の人生に関わる大事な話です」


うん?私達の人生…ま、まさか?!

「は、隼人くん。まさか?!」

「ん?ああ、まずいことになった。まさか命の話が絡んでくるとは、思いもしなかった」

は、隼人くん…


不純異性交遊ぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜?!


いやいや、いけませんて。それはまずいですって隼人くん。相手は純朴な高校生ですよ?

そんな娘を、に、妊娠…させてしまったなんて。

落ち着け自分。隼人くんとミキちゃんに限ってそんなことするわけないですよね?

普段の会話こそ仲悪そうですが、本当は互いを認め合ってますし、とても仲睦ましい関係に…

あっこれフラグっすね。と、とりあえずミキちゃんに聞いてみよう。


「み、ミキちゃんは大丈夫なんですか?」

「ええ、楽しみにしていた分、とてもショックです。隼人先輩にも、見てほしかったのに…」

あっ…マジっすか。まさかの産めないって方向ですか…さらに話が重くなってしまった。

「だ、大丈夫っすよ。まだ先はありますよ!ミキちゃんは若いんだから!」

「ですけど、もしかしたら…もう先はないのかもしれません」

必死に励まそうと努力するが、ミキちゃんの表情は曇る一方だった。

「は、隼人くんはどうなんですか?!」

「こればっかりはどうしようもない。宣告されちまった以上はな」


う、うわぁ。こっちはこっちで無責任っすか…絶対隼人くんのせいだけど、これは口に出せないし……

「ど、どうにもできないんですか!なにか方法は!」

「現時点ではありません。それでも、私は挫けてられません!戦わなきゃいけないのなら、これからもっと強くなります!」

あの、鍛えれば何とかなる話ではないんですが……

「俺も付き合おう、時間がないんだ」

いやいやいや隼人くんが入るのはおかしいでしょう。そこは一人でやらせてあげましょうよ。


どーーしましょう。まさか我が家でいつの間に夜の営みが行われていたとは…この瀬見、一生の不覚。

こうなったら、自分も全力でカップル…いえ、夫婦をサポートしていかねばなりませんね!


「わかりました!それではこれから、身体にいい料理をつくっていきましょう!」

「本当ですか?!ありがとうございます!」

「共に頑張りましょう、新たな生命を、地上へ落とすために!」

「えっ?」

「は?」

「えっ」


ここで何かを察した隼人くんは、頭を抑えて立ち上がった。

「一応聞くけど、お前は何の話をしていた?」

「えっお二人は一夜を共にし、これから夫婦に」

「んなわけあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ですよねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」

「は、隼人センパイ!に、妊娠してるんですか?!」

「引っ叩くぞ?」

以上、我が家のすれ違い劇場でした。





「ったく、折角真剣な話してたのに、急にギャグ回になっちまったじゃねえか」

「すいません、すれ違いが勘違いを呼び…」

盛大に殴られた挙句、部屋の隅に正座させられている瀬見さんを横目に、家に入る前の続きを始める。


「ともかく、スコーピオンの侵入を防ぐことは俺達ではできない。だから道師は、極力表には出さず、裏で仕留めようとしている」

「まさに『影の戦線』って感じですね!」


カッコイイ響きに、つい目を輝かせてしまう。隼人センパイの冷たい視線で我に返る。

「これを今のところ知っているのは、道師の親父と道師と弥生、西東京のトップ嘉瀬 雄略、そして俺達だ」

「そんな錚々(そうそう)たる顔ぶれの中に、私がいてもいいのですか…?!」

「今回、お前は俺の相棒として参戦することが決まった。表では一選手として、それでいて内部に潜んだ敵を仕留めるのが今回の仕事だ、できるよな?」


私はあまりの驚きに、表情ごと固まってしまった。

カッコイイ作戦に抜擢されたことよりも、上に期待されているよりも、隼人先輩に『相棒』と呼ばれたことが、一番嬉しかった。

「隼人センパイ!」

「いきなりでかい声を出すな、うるせえ」

「私、頑張ります!隼人センパイの相棒として、恥ずかしくない働きを必ずや」

「うるせえっての」

「あうっ!」

脳天にチョップが入り、抑えるとともに隼人センパイを睨む。

「ほんと、センパイは加減を知らないですね!」

「バカには容赦しない主義なんでな」

「ぐぬぬ…!」


睨み合う空間を引き裂く、隼人センパイのケータイが唐突に鳴り響いた。

発信主は、道師 彰。

『メンバーが決まった。再来週に招集をかけ、顔合わせと作戦会議を行う』

「ああ、わかっt」

「道師さん!他はどんな方々なんですか?!」

電話に割り込み、甲高い声を張り上げた。電話口の道師も、眉間にシワを寄せ、耳から電話を離した。

『もう少し小さな声で頼む。今回の部隊は私と弥生を含む7人で組織される、メンバーは…まあ、後日を楽しみにしてくれ』

大事なところははぐらかし、電話を切られてしまった。

「ぬぬ…道師さん、大事なところを言ってくれませんでした!」

不機嫌に頬を膨らませる姿を、隼人センパイは冷たい目で見つつ、別の話を開いた。


「帰りに話した通り、お前にはレベルアップが必要だ」

「わかっております!」

「ん。そういうことで瀬見さん、明日車貸してくれ」

「えっ?どこ行くんですか?」

正座をしていた瀬見が、よろつきながら立ち上がる。


「行きたかねえけど…『道場』に」

「えぇぇぇ?!あんなに嫌がってたのに!」

私には、その道場が何なのか分からなかったが、せみゆーさんが本気で驚いていることから、隼人センパイに何かしら縁のある場所だということが推測できた。

「その道場には、誰がいるんですか?」

隼人センパイは目を細め、ため息をついてから答えた。

「俺に格闘技を教えてくれた、森羅流拳法の師だ」

「隼人センパイに、ですか」

あまり戦ってるのは見たことはないが、隼人センパイが強いことはよく知っている。その師匠とは、一体どんな人なのだろう…?





翌日。休日の昼間に車を走らせて向かったのは、東京を出た、とある寺のような地だった。

先の見えない長い階段を黙々と登っている最中、隼人センパイは珍しく怯えた目つきでこちらを見た。

「いいか。アイツは最早人間じゃねえ、何でもかんでも見通せるド変態エスパーだ。あと見てくれに騙されるな、本当は…」


「ボロクソ言いよるわ、心外やねぇ」

隼人の前へ、何の前触れもなく一人の男が現れる。顔を上げると、文字通り目の前に男の顔があった。

「げっうおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」

「隼人センパイぃぃぃ?!」

上体を反らした隼人センパイは、バランスを崩して階段を転げ落ちていった。運よく踊り場で止まり、ボロボロになりながらも見上げ、男を睨む。


「相変わらず影も気配もないな、ホントに生きてんのか?」

「当たり前やろ。足もついとるし、立派な人間や」

弾んだ声で返すと、今度は私へ顔を向けた。

色素が落ちきった純白の髪から覗く目は、眠っているかのように閉ざされている。

口元を緩ませ、また一歩こちらへ近づいた。


「やあやあ。キミが隼人の新しいパートナーかね。名は?」

「に、二条 未来です…」

「ふーん…ええ名前やな。それに、どっかの誰かさんに似て、真っ直ぐな目ぇしとるわ。ほれ、ついてきなぁ」

この人が、隼人センパイの師匠?


「ワシの名は森羅しんら 英彦えいげん、気軽にシンちゃんと呼んでくれ」

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