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くらうん《リライト前》  作者: 永ノ月
3章 影の戦線編
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TARGET24 扉の先、迫る影

1ヶ月ぶりの投稿、そして新展開です

毎朝のように行われる教師陣の打ち合わせ五分前に校門へ到着すると、そこには先に行ったはずの未来が立っていた。

さらに彼女だけでなく、嘉瀬や八崎といったいつものやかましいメンバーも揃っている。

何か嫌な予感がして、変に目を輝かせる未来へ問うた。

「お前ら揃ってどうした。出迎えか?」

「隼人センパイのじゃないですよ。なに自惚れてるんですかぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「いい加減学べよ、で?」

涙目になって蹲る未来に変わって、嘉瀬が答えた。

『カレ』が登校すると聞いて、みんなで出迎えているんですよ?」

「カレ…?」


その問いの答えはすぐにわかった。カレはいつものヘッドホンをつけたまま、そして学校の制服を着て現れた。

「なんだ、城島か」

「なんだ、とはなんですか!忍先輩が長い引きこもり生活を脱したんですよ?!これは快挙でs」

「だから、大したことないって言ってるじゃん」

本人からジト目で見られ、言葉を失った…。

「でも、ありがとう…」

「随分素直になりましたね。私は嬉しいです」


優しく微笑む八崎へ、城島は首を傾げる。そして、八束へ視線を向けた。

「まず、二人はもっと素直になるべきかと」

「「元はと言えばお前のせいだろ!!!」」

「ま、まあまあ。早く中に入りましょうよ〜…」

まとまりのないグループへ手を焼きながら、結衣はぼーっと立ち尽くす俺へ言った。

「そういえば、宇田川先生は職員室行かなくていいんですか?」

「…やべっ」

「やーい!遅刻魔〜教師の恥さらし〜!」

「…あとで、覚えとけよ?」

いまにも飛びかかりたい衝動を抑え、全力の威圧を向けてから急いで校舎へ走った。


「ワハハハ!我を恐れて逃げたか愚か者め!!」

いま私たちの目の前に、とびきりの愚か者がいる、とはいえずに苦笑いする一同は、未来の視界には入っていなかった…





「一応、聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「…はい」

「そこの女子は、なぜ死にかけている?」

「某先生の集中砲火に燃え尽きました」

『まあ、ですよね…』

昼休み。結衣に引きずられながら生徒会室へ現れた私は、文字通り真っ白に燃え尽きていて、ここに来てまだ一度も口を開いておらず、机へ伏せたままである。


「…ラ」

「お、なんか喋ったぞ?」

「…パワハラ、怖い…」

「二条さんをここまでへし折る攻撃、やはり宇田川先生は鬼畜の極みだわ!」

「なんで嬉しそうなんですか、会長…」

しょぼくれたままの私を痛々しく思ったのか、忍先輩が歩み寄り、言った。

「別に、宇田川さんは二条を嫌いなわけじゃないよ。むしろ逆?」

言葉に反応し、ゆっくりと顔を上げる。そして弱々しく呟いた。

「わかってますよ…それでも、あのツンはハードすぎます!」

「用法用量をお守りくださいって感じ?」


顔を上げると、気づいたことがあった。

「ところで、やはり忍先輩はヘッドホンが手放せないですか?」

忍先輩は一度首を下に振り、ヘッドホンを外して首へかけた。

「うん、まあ…」


今朝のHRホームルーム、2年1組の教室に見知らぬ少年が現れた。

身長、体格共に平均、眠そうな半目に少し長めの控えめな茶髪。何より目立つのは、その頭につけられた黒のヘッドホンであった。

誰もが目を見張るこの状況で、能力が発動したらと思うと、吐き気がする。

「おお、城島。やっと来てくれたんだな」

弱々しく彼を呼んだ先生の顔は、笑顔ながらも僅かに引きつっていた。

無理もない、訪問に来たときに色々と言ってしまったから。

そして先生の言葉に連動し、40人ほどのクラスは動きを見せた。

「あの子、不登校か」

「なんでヘッドホン?没収されるぞ」

「てか、なんか…」

「おー忍!どうしたそこで止まって、調子悪いか?あっもしかして席わからなかったか?」

クラスメイトの囁きを断ち切るように、敢えて大きな声で僕へ話しかけたのは、同じくクラスメイトである智樹だった。

僕はまず驚いて、遅れて言葉が生まれた。

「…おはよ、大丈夫。ただの筋肉痛だから」

「あー確かに。いきなりあんだけ動いたんだもんな、そりゃ筋肉痛にもなるわ」

「なんだ八束、知り合いなのか?」

「そ、そうなんです!1年のとき知り合った友達で!」

そうなのか、と安心して笑う先生を横目に、僕と智樹が席に着く。

「ねえ城島くん、なんでヘッドホンしてるの?てかなんでつけてるのに話せるの?」

「えっこれは…」

「あっそれ俺も気になる〜!」

「ちょっ…」


先生の呼び出しから帰ってきた智樹の目には、人に取り囲まれて目を回している忍が映った。

「ねえなんで?」

「大丈夫?」

「お前らやめろ!忍が困ってるだろ!!」





忍はヘッドホンを外し、和らいだ表情で答えた。

「人の多いところはちょっときついけど、早くコントロールできるように訓練してる。GSOの超能力専門医師さんとかがサポートしてくれてるし」

「忍も、順調に社会復帰中か…新人戦も近づいてきたしな」

八束先輩から意外な一言が飛び出し、一同は一挙に視線を集める。

「な、なんですか?」

「まさか、半ば無理やり参加してもらった八束くんがそんなにやる気なんて…」

愛先輩が目を輝かせ、両手でグッと拳をつくった。

「そうですよ。最近の智樹は、私に頼んで戦闘の練習もしてるんですから」

「おい梓弓、それは…!」


今度は視線が梓弓先輩へ集まった。それに気がつくと、彼女は顔を赤らめて窓際へ逃げた。

「梓弓先輩、いま八束先輩を名前で…?!」

「や、やめてください!」

「なるほど。だから最近、二人とも帰るのが早かったんですね」

私に続き、何かを勘づいた結衣も、ずいっと詰め寄った。

八束先輩は目も当てられないくらい顔が引きつっている。忍は当然とばかりに無表情を貫いたまま、呟いた。


「この場合、キューピッドは僕?」

「待て忍。頼むからいまは何もしないでくれ…」

「へえ、私を差し置いてアーちゃんを奪おうなんて。や…智樹くんも男になりましたね」

「何故か会長が参戦してる!これが恋の三角関係?!」

「頼むから俺の話を聞いてくれぇぇぇ!!」


〜経緯解説※城島 忍談〜


「ほう、それで梓弓先輩は『八束』に改名を」

「二条さん!怒りますよ!!」

「もう怒ってますよね?!」

キャッキャと恋愛沙汰に騒ぎ立てる女子たちを片目に、忍先輩は落ち込んだ八束先輩の話を聞く。

「俺はな、お前のを後押しと捉えて、ようやく言葉に出せたんだよ。そして何とかなったと思ったら早速これだよ…なんなんだよ本当に…」

「なんか、ごめん」

「やめてくれ、忍は悪くないんだ。あんま広めんなよ!特にそこのバカ女!」

必死に目を逸らす私へ思い切り指を差し、鬼の形相で念を押した。

「なんで、今日の私はこんなに怒られるんでしょう…?」

「とりあえず、悪いのはほぼ未来ちゃんなんだけど」

微笑ましいカップルが誕生し、忍先輩も加わった生徒会室は、一層賑やかになりました。





そうか。皆さん、方向はともかく成長しているんですね。

変化がないのは、私だけ…?

やらなきゃいけないことは分かっている。

『チームが勝つために、私のレベルアップが必須である』

これまでやってきた戦いを振り返ると、私には決定的に足りないものがある。養成学校ではあまり重視されていなかった項目の一つ。

これを克服しない限り、私個人は強くなれない。

そのためにも、ここは一つ打って出なければ!

「隼人センパイ!折行って相談があるのですが!」

「却下。」

「せめて内容を聞いてくださいよ〜!!」


学校の帰り道。並んで歩きながら、聞くまでしつこく食い下がり続けた結果、ようやく隼人センパイは聞く気になった。もとい諦めた。

「じゃあ聞いてやる」

ぼそっと呟いた言葉を正確にキャッチし、早足で隼人センパイの前へ立った。

「私に『必殺技』を教えてください!」

「…やっぱりな、そのうち言うと思ってたよ」

これが、私の最大の弱点といえる。

能力、及び身体能力とのコンビネーションはどれも同年代からは頭一つ抜けている。普通に模擬戦をやるのなら、そこそこ上まで行くことはできる。だが、『実戦』においては、難しい。


それは、相手を確実に仕留めることができないから。


それはあの戦いで痛感した。隙だらけのアーサーを仕留めず、動きだけ封じて放置した少年に後ろから刺され、結果致命傷を追うこととなった。

初めての実戦、私にとってはかなり応えていた。


「あのとき、私がちゃんと…その、殺せていたら戦況はもっとずっと良くなってました。だから私は…!」

「自惚れるな。お前一人の責任なわけねえだろ」

思い詰め、いまにも涙を零しそうな頭を、隼人センパイは軽く叩いた。

頭を押さえるとともに、私は少しだけ表情が和らいだ。

「だが、よく言った。お前には早急なレベルアップが必要なんだ」

「早急な…?」

「ああ。これは昨日わかったことなんだが…」

無表情の隼人センパイから放たれた言葉に、私は驚愕することとなった。


「次の新人戦、死者が出るかもしれない」

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